中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。
立つとなくなるもの
今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶市先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点からうっちーの中国語四方山話㉔ 立つとなくなるものー身体言語の日中の差 をご紹介します。
さて、なぞなぞです。「立つとなくなるものは何でしょう?」
答えは「膝枕」です。
この「膝」は日本語でも中国語でも「膝」です。中国語の場合は“膝盖”もありますが、例えば,次のように対応します。
膝まで水につかる
“水深没膝”
膝をすりむく
“擦破膝盖”
これに対して、「膝枕をする」とか機内アナウンスで「お子様は膝の上にしっかりとお抱き下さい」は次のようになります。
“枕在大腿上”
“请把孩子牢牢地抱在腿上。”
これらを“枕在膝盖上×”“请您把孩子好好地抱在膝盖上×”とは言わないようです。確かに、これだと痛くてたまりませんね。

英語では、「膝をすりむく」は“scrape my knee”或いは“skin my knee”のように“knee”を使いますが、先ほどの「お子様は膝の上にしっかりとお抱き下さい」は“Please keep(hold) your child safely on your lap.”と“lap”という言葉を使うようです。また、lapの辞書の意味、例えば、Web上の『英辞郎』では次のように説明しています。
lap:膝、座った時にできる腰からひざ頭までの水平な部分で、立っている時には存在しない体の部位。
このように、「膝」も言語によって表し方が違うことが分かります。
ちなみに、日本語には「膝が笑う」とか「膝を折る」、或いは「七重の膝を八重に折る」という慣用句がありますが、その中国語は次のようになるようです。

膝を折る――“屈膝”“下跪”“屈服”
膝が笑う――“腿发软”
七重の膝を八重に折る――“卑躬屈膝到极点”
「足」についても少し見てみましょう。
日本語の「足」或いは「脚」は「股の付け根から爪先まで」を指します。「足が速い」とか「足が長い」、「足の裏」「足の甲」「足音」などは「足」を使いますが、「健脚」「脚線美」とかは「脚」を使い、「足」は使いませんね。
一方、中国語では“足”は現代語では“画蛇添足”(蛇足)“手舞足蹈”(小躍りして喜ぶさま)“足不出门”(家の外に一歩も出ない)といった成語や“足迹”など以外には使わなくなり、“脚”か“腿”と言います。くるぶしから足のつけ根までの部分、すね、ひざ、ももの全体は“腿”と言い、くるぶしから足のつま先までを“脚”と言います。

従って、日本語の「足の裏」「足の甲」はそれぞれ“脚掌”“脚背”と“脚”を使います。なお、膝から上と下を、それぞれ“大腿”と“小腿”と区別しています。
この“脚”と“腿”は英語でも区別されていて、“脚”は“foot”、“腿”は“leg”となります。
ところで、「サッカー」は足のつま先とかを使いますから、英語では“football”と言いますね。中国語でも当然“脚球”と言うべきなのですが、ここは何故か“足球”と言います。“男足”“女足”という言葉もありますが、これはつまり「男子サッカー」「女子サッカー」ということなんですね。

最後に、日本語の「足」にまつわる慣用語を中国語ではどう言うか見ておきましょう。
足を洗う――
“洗手不干了”“金盆洗手”
足が遠のく――
“不太去了”“去得少了”
足が付く――
“露出马脚”“查到线索”
地に足が着かない――
“心里不踏实、不安稳”
足を棒にする――
“跑断腿”“走路走得腿酸”
足を引っ張る――
“拖后腿”
比喩的な意味ですので、直接“腿”や“脚”を使わない場合が多いですが、それでも、「足を棒にする」や「足を引っ張る」では“腿”が現れてきます。また、「悪い所業をやめてまじめになる」という意味の「足を洗う」が中国語では「足」ではなくて「手を洗う」になるのも面白いです。「下駄の文化」と「靴の文化」の違いなのかも知れません。「下駄」や「わらじ」の社会では家に上がるときには必ず「足を洗い」ますから。
こうした身体表現の違いについては、次回以降も「手」「目」「口」「鼻」「首」「頭」など、何回かに分けて見ていくつもりです。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2026年3月号に掲載しております。
興味のある方ぜひこちらをチェックしてみてください。





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