全国通訳案内士への道~いかにこの不可解な試験沼にはまったか~⑤「2次試験体験記」

中国語学習

初めまして。最近まで全国通訳案内士(以下、通訳案内士とする)という国家資格に6年かけて挑んだ五弦(名前の由来はコラムの最終回で種明かしします)です。私は2010年代に中国で勤務していた、現在は日本在住の40代日本人女性です。こちらのコラムでは「通訳案內士」に興味を持ってもらい受験生がもっと増加するといいな、という思いを込め「通訳案內士」に関する様々なテーマで書かせていただきます。

 今回からいよいよ試験のキモとなる口述試験(2次試験)についてです。1次試験が終われば、各社が出している解答速報を見て、合格見込みがあればすぐ試験対策に取り組むことになります。1点不足などでわからない場合も、合格発表は9月半ば、と1ヶ月近く開くので時間のロスがないようにします。不合格の場合も、翌年以降のために対策するのは無駄にははらないという訳です。

2次試験の構成

 2次試験の構成は次のようになっています。

1.プレゼンテーション(約2分)
2.日中通訳(1分30秒以内)
3.2.についてシチュエーションによる質疑応答問題

合計で1人10分の試験時間が想定されています。3は面接官が観光客、受験者が通訳案内士となり、実際の現場で起こるシチュエーションを想定してのコミュニケーション能力を問われる試験です。

対策は次回に回すとして、当日何が起こったかを見ていきましょう。

やたらと長い待ち時間

 受験時間帯は1時間毎で区切られ、この時間帯が運命の分かれ道で①~③のお題が時間帯毎で違ってくる、というわけです。朝10時から16時くらいの台まであったと思いますが、朝早いのもスタッフや面接官が手慣れていないことがあるかもしれないし、16時台だと集中力が途切れて疲れている、ということがあるかもしれない。そして朝早いほど、受験生からの速報が入手しづらくなる。かといって最後の台である程度速報を読んでしまい、動揺することも出てくるので一概に何時がいいとは言えないと思います。

 私は13時台で昼の時間帯だったため、終わってからお昼をとることにして、直前に脳にエネルギーを送るためのおやつを厳選して持参しました。

 しかし13時台といっても受付は12時~12:25。絶対遅れまいと11:45くらいには会場に到着したのだが、もうすでに同じ時間帯に受験する人の列ができ始めていました。

 緊張と極度の風邪(1週間前くらいに39度くらいの高熱を出した)でふわふわした体調の中、後ろに並んだミドル・エイジの素敵なおじ様に声をかけられました。立ち話をしているとどうやらその方は2次の受験は2回目で英語で受験とのこと。私が「中国語で受験」と伝えると先生か学者なのか「学会で中国の人の前で何度か話したことがある」と「你很漂亮」とカタコトの中国語を話してくれました。お世辞でもうれしい、こういうサービス精神が通訳案内士には重要なんだよなーと少しリラックスした気分になれました。そして「笑顔が大事みたいですよ」と教えてくれました。2回目受験者としての重みがある!と思ったので「なんとしても微笑みを絶やさず通す」と言い聞かせました。

 待合室に入る前、トイレの鏡の前でリラックスするつもりで笑顔の練習をしました。

受付で受験票を提示し、名札をもらいます。その横でさらに待合室の番号を振り分けられて、待合室に移動。待合室での私語、電子機器の使用は一切不可。辞書はOKとのことで、電子辞書を置いている人もいました。参考書を広げている人はあまりいませんでした。

 風邪のせいでくしゃみと鼻水が止まらず、待合室で激しく鼻をかんでいるのは私くらいでした。なぜだかいつも重要な試験の前で体調を崩します。夫には「少し休んだほうがいいということだよ」とよく言われます。知恵熱なんでしょうか。そのおかげでなんだか完全には集中しきれていない感じもしていました。

 12:30から説明が始まり、終わるとさらに下の階に降りて別の待合室に入りました。中国語受験の人が4人くらい縦で並んでいます。私はその列の3番目。「頑張ろうぜ、同士」と心の中で話しかけました。

 

面接開始

 日本人面試験官らしき女性に入室を促されて、2、3歩進んで椅子に座りました。試験官までの距離は数メートルくらいで結構遠い。

最初に「名前は?」と中国人試験官に聞かれました。いろいろなところで出回っていた情報と違って生年月日と住所は聞かれませんでした。

 手元に置いてあるプレゼンテーマのカードを手に取ると「二条城・風呂敷・元号」と書かれてあった。「二条城」は徳川慶喜が大政奉還をしたところで終わりそう、「風呂敷」は中国語そのものがあいまい(正解は包袱皮)で消去法で「元号」しかなかった。テーマが与えられてから構成を考える時間は30秒のみ

 

 「はい、時間です」と切られてから、しどろもどろに以下のように中国語で話し始めました。

元号は「一世一代」で一人の天皇に一つの元号がつく。天皇とは、日本国憲法で”日本の象徴“と定められている。
現在は令和、その前は平成、その前は昭和。令和の由来となった事物は、福岡の天満宮にある(緊張して太宰府を飛ばしてしまった)。その中の書物に「令和」に言及するものがある。(万葉集を説明するのが飛んでいた。しかも万葉集で読まれた梅の宴のこととごっちゃになった)現在の天皇の名前は「仁徳」と言います。

 スラスラと言えたらすぐ言い終わるが、考えながらだったので長くなりました。しかもプレゼンのお題が微妙で消去法で選択したが、十分な内容が思いつかず苦し紛れのものになってしまいました。事前に「余計なことはボロがでる」と言われていたのに、時間ギリギリまで蛇足を話し続け、「2分です」という合図とともに「ありがとうございます」で無理やり締めました。

もうこの時点でダメダメな予感でしたが、面接最後に挽回する例もあったし、笑顔とサービス精神で押し切ろうとしました。

その後、中国語で試験官との質疑応答になりました。

試験官:一番最初に元号を使った国はどこですか?

私:日本かと思います。←思い切り間違えている。中国が正解。

試験官:いつごろですか?

私:紀元前660年の神武天皇のころかと思います。←これも間違えている。大化の改新が正解。

日中通訳問題

 そのまま通訳問題に入りました。以下のような文章を日本人面接官が読み上げました。1分30秒以内で訳すように言われます。このときメモをとっても構いません。

七五三は、男の子の年齢が3歳と5歳の、女の子の年齢は3歳と7歳のための行事です。11月15日に行われて、健康や成長を祈って、社寺にお参りに行く。現在はその日より1か月前後の期間に参拝する人もいます。
この頃になるときれいな衣装を着た子どもたちの姿が見られます。七五三に欠かせない千歳飴は、いつまでも健康で長生きをしてほしいという意味があります。

 これはそれとなく訳せていたと思います。問題は次のシチュエーションです。面接官から受け取ったカードには以下のように書かれていました。けっこうな長文に感じたが、30秒で内容を理解する必要があります。

●<条件>自由旅行をしている夫婦。旅行先でいろんな風景を撮ってはSNSに投稿している。

●<シチュエーション>
神社で七五三に遭遇した。正装をした女の子が可愛いので写真を撮らせてもらい、SNSに投稿したい、とその親に頼んだところ、断られてショックを受けている。通訳案内士としてどう対応するか。

 30秒を過ぎるとすぐ試験官との質疑応答が始まります。

試験官:写真を撮らせてもらえないんです。

私:そうですか、前面から撮らなくても、神社全体を撮って後ろ姿を収めるのどうでしょう?後ろ姿の和装もきれいです。

試験官:お顔の様子も撮りたいんです。

私:わたしの3歳の子どもが今年七五三をしました。その時の写真を転送しますよ。

試験官:和服で正装していたのですか?

私:していました。
試験官:それはいいですね。

しどろもどろだったが、これも無理やり笑顔を作って乗り切りました。

受験の感想

 イメージトレーニングと瞑想を直前1週間ほど続けていたので、試験室に入ってからの緊張はあまりなかったが、全体的にボロボロでした。しかし、アイコンタクトと笑顔と親しみやすさだけはキープできていたのではないかと思います。

 

 中国人試験官が親しみやすく朗らかな感じの方だったので話しやすかったです。言語によっては高圧的な試験官もいるらしいですが。。。

 プレゼン後の最初の質問は聞き取れましたが、考える時間稼ぎと念の為再確認で「~ということをお聞きしていますよね?」というやり取りをしましたが、終始にこやかに聞いてくれました。2つ質問されたので、助け舟を出してくれたように感じましたが、2問目に答えている途中で「タイムアップです」というような発言としぐさを日本人試験官から中国人試験官にされました。

 シチュエーションの問題が予想以上に長文で「うーん」となっていると試験官のほうから「どうしましょう?」と問いかけてくれました。最後に苦し紛れに自分の子供のことを引き合いに出すと、顔がぱっと明るくなったのが、唯一評価されたところかな、と思いました。


 おそらくこれほど中国語に真剣に向き合ったのは人生で初ではなかったかと思います。それが苦ではなかったのは、自分はやはり語学学習が好きなのだ、と改めて思いました。

 1次合格の時点で、誰もが2次に合格するだけの知識は身についているはずです。私に不足していたのは、より基本的な会話力と語彙なのではないかと考察しています。難しい歴史用語は出てきても、簡単なお菓子の名前が出てこなかったりするんです。それを底上げすることで合格圏内にいけたのではないでしょうか。

 次回は、最初から2次の勉強をし直すとしたら、というテーマで書く予定です。

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