うっちーの中国語四方山話⑰豚まんと肉まん

中国語学習

中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。

今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶市先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点から⑰ 豚まんと肉まん をご紹介します。

 大阪の551の「豚まん」は最近とみに有名になり、新大阪の新幹線や伊丹空港の売店ではいつも長蛇の列です。何もそこまでとも思いますし、私が一番困るのは買ってすぐに新幹線の車内で食べる人がいることです。伊丹空港なんかでも同様です。なにせ、あれは独特の匂いがしますから。まあ、崎陽軒のシュウマイもよく似た感じですけどね。

 さて、551の「豚まん」と書きましたが、これは関西の方の言い方で、関東ではどうやら「肉まん」と言うようですね。

これとよく似た現象がマクドナルドにもあります。関西では「マクド」ですが、関東では「マック」ですかね?私なんかは「マック」と来たら「Mac(マッキントッシュ)」を思い浮かべてしまいますが。

 

 ところで、「豚まん」にしろ「肉まん」にしろ、「まん」は「まんじゅう」の略ですね。漢字で書けば「饅頭」です。ところが、「饅頭」は中国語では南北によって意味が異なります。北方では「饅頭」はいわゆる「蒸しパン」を指しますが、南方、例えば上海ではこれは“包子”という意味になります。上海の豫園には“小笼包子”が美味しいお店がありますが、お店の名前は“南翔馒头店”です。東京の六本木ヒルズにもお店がありますが、特に“蟹粉馒头”つまり「蟹味噌入り」がお薦めです。

 日本語でも「饅頭」がありますが、これには中に餡が入っていますね。つまり、日本の「饅頭」は南方(江南地方)から入って来たことばだということがわかります。

 日本語では「喫茶店」と言いますね。これも実は江南地方の「喫茶」から来ています。中国語の方言では、「お茶を飲む」は北方、或いは普通話では“喝茶”ですね。しかし、上海では“吃茶”、広東では“饮茶”すなわち「ヤムチャ」です。

 いずれにしても、これらは方言の違いなのです。日本語にも方言はありますが、中国語の方言の差は日本の比ではありません。北京語と上海語、広東語では全く違う言語のようなものです。

 方言間の最も大きな違いは音声です。普通話或いは北京語に代表される北方語では4声しかありませんが、広東語では9声、閩南語では7−8声,上海語では5−6声です。また、北京語には今は入声という「つまる音」がありませんが、南の方言にはこれが残っています。日本の漢字音で「フツクチキ」で終わる音は入声です。「達(タツ)」、「角(カク)」、「八(ハチ)」、「蝶(テフ)」などがそうです。

 また、文法構造も違います。南北では特に、修飾構造が違っていて、長江以南では修飾語は被修飾語の後ろに置かれます。例えば、「アイスキャンデー」は北京では“冰棍儿(氷の棒)ですが、上海などでは“棒冰”となり、修飾語の「氷」が被修飾語の「棒」の後ろに置かれます。「雄の牛」は北京では“公牛”ですが、南では“牛公”となります。ベトナムのことを中国語では“越南”と言いますが、これも元々「南の越」ということなのです。つまり「越」が南下したわけですね。

 中国語は長江を挟んで大きく北と南に分けることが出来ますが、基本的には、北が新しく,南が古い中国語と言うことも出来ます。日本語や韓国語の漢字音も古い中国語の音を反映しています。言語は「中心ほど変化が速く、古い形は周辺に残る」という原則に適っているのです。

 「あなたはどこに行きますか」は、北京では“你到哪儿去?”ですが、南では“你去哪儿?”が本来の言い方です。北では“到” も言わずに“你哪儿去?”とさえ言います。よく見てみると、これはもうほとんど日本語の語順です(「あなた」+「どこ」+「行く」)。目的語が動詞の前に置かれているのです。ある言語学者はこうした現象を「アルタイ語化」と言っています。中国語の文型の1つに“把字句”というのがありますが、これらもその現れと言うことも出来ます。

内田 慶市(うちだ けいいち)/1951 年福井県生まれ。博士(文学)・博士(文化交渉学)。専攻は中国語学、文化交渉学。福井大学教育学部助教授、関西大学文学部・外国語学部教授、大学院東アジア文化研究科教授を歴任。2021年関西大学外国語学部特別契約教授定年退職。東アジア文化交渉学会常任副会長( 2009 年~)、中国語教育学会理事( 2016年3月~2020年2月)、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター長( 2017年4月~)、日本中国語検定協会理事長(2020年6月~)。主著に『近代における東西言語文化接触の研究』(関西大学出版部、2001)、『文化交渉学と言語接触─中国言語学における周縁からのアプローチ』(関西大学出版部、2010)、『漢訳イソップ集』(ユニウス、2014)などがある。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2025年8月号に掲載しております。

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