影視で知ろう中国文化⑭城砦に宿る潮汕“魂(ソウル)”〜『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』より〜

中国エンタメ

 

 2025年1月に日本で公開されるやいなや、興収約5億円のヒットを飛ばした香港映画『トワイライト・ウォリアーズ決戦!九龍城砦』(以下:『トワウォ』)。口コミやSNSを中心に人気が広まり、年齢やファンダムを超えて多くの人々を魅了しました。「これぞ香港!」という熱量に満ちた本作には、福建省南部の潮州、汕頭地域にルーツを持つ「潮汕(ちょうさん)人」の文化が随所に織り込まれています。 

 映画『トワウォ』は、ベストセラー小説を原作に、アクション監督に谷垣健治氏、音楽に川井憲次氏を迎えて制作され、香港映画の祭典「第43回香港電影金像奨」で計9部門を受賞しました。

 物語の舞台は1980年代の香港、今は無き巨大スラム街「九龍城砦」。香港の身分証獲得のために海外から密航してきた洛軍(ロッグアン)の登場を機に、ギャングの男たちが繰り広げる覇権争いを描いたアクション映画です。制作スタッフによって作り上げられた郷愁と不穏な空気が漂う城砦のセットには、「潮汕人」がもたらした「潮汕文化」が随所に再現されています。

 潮汕人は独自の文化・風習を持ち、世界各国に拠点を築く人々。香港にも19世紀末頃から移り住んでおり、彼らがもたらした文化は、今日の香港文化に欠かせない要素となっています。とりわけ九龍城砦は、1950年ごろに難民としてやってきた潮汕人が集中して住む地域でした。

 そのため劇中には、潮汕方言を話すキャラクターが登場し、多くの場面に潮汕文化を感じる演出が加えられています。

 たとえば映画冒頭で流れる異国情緒あふれるBGMは、中国地方戯曲のひとつ、「潮劇(潮汕オペラ)」の演目曲をアレンジしたもの。潮劇は主に祭事で上演される伝統演劇で、他の地方戯曲が現代化により標準語を取り入れるなか、今もなお潮州方言で演じられ続けている貴重な芸能です。

 食文化の面でも潮汕文化の影響が描かれています。城砦に住む少女の愛称「ユーダンムイ(魚蛋妹)」は、“魚のつみれ娘”という意味で、彼女の内職である「魚蛋(魚のつみれ)」作りに由来しています。この「魚蛋」は、漁業が盛んな潮汕人の海鮮への情熱が感じられる代表的な潮汕料理で、現在では潮汕地域よりも香港のほうで広く親しまれているともいわれています。

 さらに、物語の重要な局面では、潮汕地域特有の行事「潮籍盂蘭勝会」の鮮やかな催場が登場。毎年旧暦7月に1ヶ月にわたり行われるこの行事は、一時は衰退しかけたものの、現在では中国の無形文化遺産に登録されています。

 食や言語、風習といった文化的絆によってアイデンティティを確立する潮汕人たち。その精神は、東南アジアをはじめとした世界中で今も息づいています。けれど、香港の身分証獲得に固執していた難民の主人公ロッグアンは、九龍城砦の住人との交流を通じて「どこで生きるか」ではなく「誰と生きるか」が重要であることに気づき、心の故郷を見出します

 世代も垣根も超えて愛された『トワウォ』は、ファンの間で弾丸の香港旅行ブームを起こすほどの熱狂を生み出しました。映画を通して潮汕魂の息吹が観客に届き、登場人物たちが生きた九龍城砦へと人々を惹きつける力となったのかもしれません。

西木南瓜(さいき かぼちゃ)

SNSクリエイター・コラムニスト。名古屋在住。アジアの映画をこよなく愛する影迷(映画ファン)。上海外国語大学修士課程修了後、中国語講師を経て映画公式SNSの運用代行や宣伝企画、広告プランニングなどで活動中。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2025年9月号に掲載しております。

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