“Hello,大家好!”、今月はこの挨拶から始めましょう。最近、中国のスターたちがインタビューの冒頭で必ずと言ってもいいくらいこの挨拶をするんです。皆さんも今後中国語で挨拶なさる時は、スター風に“Hello,大家好!”と言ってみてください。
今月はドラマを一つご紹介したいと思います。現在、NHK BSで放送中の『三国志 秘密の皇帝』(原題:《三国机密之潜龙在渊》)です。三国志といえば、日本でも大変人気のコンテンツで、小説からマンガ、ゲームまで様々な作品が生み出されてきました。数年前にも、日本で製作されたコメディ映画がありましたね(『新解釈・三国志』)。しかし、今回のこのドラマは筆者がこれまでふれてきたものとはやや違うストーリーになっており、後漢末の献帝にフォーカスしたスピンオフ的な作品といえます。全54話とかなり長いですが、最後まで飽きずに一気見できたのは、恐らくスリル満点のストーリー、張り詰めた空気の中でも時おり胸がキュンキュンする献帝と皇后のやりとり、そして献帝役の俳優・馬天宇さんの魅力に惹きつけられたからだと思います。三国志って何だか難しそうと思っている方にもぜひお勧めしたいです。歴史の流れや時代背景がわからなくても楽しめる作品になっています。


さて、今月の日中ことばの話に入りましょう。
先日、日本人の親友と、関西地区で人気の長寿番組『探偵ナイトスクープ』を見ていた時のこと。ある視聴者がトランプを使ったマジックを披露し、そのマジックのトリックが分からないため、番組の「探偵」がそれを調査し明らかにするという内容でした。非常に見事なマジックで、私もなぜ成立するのかを考え、親友にこう言いました。「もしここでトランプを洗ったら、もう無理だよね」。自分としてはごく当たり前のことを確認しただけでしたが、友人はいぶかしげな顔で、「トランプを洗うって何?」と聞き返してきました。「えっ、トランプを洗うという初歩的な操作も知らないの、この人は?」と、自分も不可解な気持ちになり、会話がどんどん噛み合わなくなっていきました。そこで、ちょっと困った私が友人に「トランプを洗う」しぐさをしてみせました。

私のしぐさを見て、友人は笑って、「あっ、トランプをきるってことね」と言いました。そう、また日本語を間違えてしまったのです(泣)。「トランプを洗う」と言ってしまったのは、中国語ではこういう時、“洗牌xǐpái”、つまり「“牌pái”を洗う」という言い方をしているからです。同じ動作なのに、中国語は「洗う」、日本語は「きる」を使うのは、やはりちょっと不思議だなと思いました。
翌日、中国語の授業でこの話を学生たちに話したら、また思いもよらないところで、さらなる不思議に出会いました。というのは、ゲームで使うカードなどをシャッフルする時、「「洗う」じゃなく、「きる」を使う」と学習した私は今度、「マージャンパイをきる」と言ってしまったのです。すると学生さんたちは即座に、「マージャンパイは「きる」ではなくて、普通は「混ぜ合わせる」を使います」と訂正してくれました。これは予想外でした。なぜなら、トランプのカードであれマージャンパイであれ、こうした“牌pái(パイ)”をシャッフルし、順番を変える時、中国語はすべて“洗牌”と言います。しかし、日本語はどうやらカードかマージャンパイかによって、使う動詞を変えていることに気がつきました。

動詞が違うということは、日本語では「トランプカードをきる」と「マージャンパイを混ぜ合わせる」は違う種類の動作として捕らわれているわけでしょう。一方、どちらの場合も“洗牌”を使う中国語では、両者は同じ種類の動作としてとらえられています。昔、『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』(ガイ・ドイッチャー著、今井むつみ等訳、ハヤカワ文庫NF)という本を読んだことがありますが、タイトルの通り、客観的には同じ物事であっても、言語によって分類の仕方やとらえ方に大きな隔たりがあることを改めて実感しました。
“洗牌”と「トランプカードをきる」「マージャンパイを混ぜ合わせる」の違いでもう一つ注目すべきポイントは、中国語は動作の結果に注目して「“牌(パイ)”を洗う」(“牌”をばらし、シャッフルさせることで「洗浄する」)と表現しているのに対して、日本語は具体的な動作に着目しているため、「きる」や「混ぜ合わせる」というように使い分けています。つまり、「シャッフル」という動作の目的に注目すれば両者は同じ動作といえますし、動作自体に注目すれば両者は当然、違う動作であります。日本語と中国語は最初から違う角度から物事を見ているということですね。
しかし、逆のパターンもあります。例えば、日本語では「野菜を切る」と「髪を切る」は同じ「切る」という動詞を使うのに対し、中国語では前者は“切菜”、後者は“剪头发”のように動詞を使い分けます。まさに、今回の“洗牌”の例と逆です。ややこしいけど面白いですね。では、また次回!
今回紹介した先生のコラムは『聴く中国語』2025年1月号に掲載しております。

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