近年、『あの頃、君を追いかけた』(2018)、『1秒先の彼女』(2023)、『言えない秘密』(2024)と台湾名作映画の日本リメイクが相次いでいます。一方、2023年に日本のベストセラー小説『模倣犯』が台湾でドラマ化されていました。90年代を描いた日本小説が、なぜ国を超えて現代に再び映像化されたのでしょうか。
23年3月、Netflixオリジナル作品として配信された台湾ドラマ『模倣犯』は、配信開始からまもなくして世界の25地域で週間チャートTOP10入りを果たし、台湾ドラマの記録を打ち破る大ヒットとなりました。原作は、連続誘拐殺人事件を被害者遺族、犯人、警察、ルポライターと様々な視点で描いた人気作家宮部みゆきによる同名サスペンス小説。日本では2001年に単行本が刊行され、翌年に映画化、2016年にはテレビドラマ化されました。台湾版『模倣犯』は原作へのリスペクトが感じられる構成でありつつ、台湾の文化的要素を織り交ぜたローカライズ設定もあり、物語に新たな味を持たせています。
時代は原作と同じ1990年代、台湾で女性誘拐殺人が頻発。登場人物や語り部がエピソードごとに変わる原作とは異なり、呉康仁(ウー・カンレン)演じる検察官グォ・シャオチを主人公に据えて、物語は展開します。
台湾の検察官は日本と異なり、捜査主導権を保有しているため、グォ検察官が警察とともに現場に立ち会う姿は、日本人には目新しく映るかもしれません。また、被害者遺族の1人は原作だと豆腐屋を営む男性であったのに対し、台湾版では寺を「経営」している設定に変更。生活と信仰との結びつきが深い台湾では、宗教施設としての側面が強い日本の寺院とは違い、地域コミュニティの収入源や事業的側面も強く持ち合わせています。そして、原作で重要な役割を担う「ピース」に相当するNoh(ノウ)の存在も、一味違った台湾版演出ならではの工夫が加えられています。
台湾独自の文化を採用しつつも、原作に上手く溶け込ますことができたのは脚本のうまさもさることながら、当時の社会背景が日本と通じていた点にもあります。1990年代日本ではテレビの社会への影響力が拡大した時代ですが、台湾は中華民国政府に規制されていた報道が93年に自由化され、視聴率を争って報道合戦が激化した時期でした。
なかでも有名女優の娘が被害者となった97年の「白暁燕(パイ・シャオイェン)誘拐殺人事件」や、91年にメディアの煽動で三人の死刑判決が出た誤認逮捕事件など、報道が事件の深刻化を助長させる事例が相次ぎ、メディアのあり方が社会問題化しました。台湾版『模倣犯』は、報道をする側へ犯罪に対する責任を問う演出が多く出てきます。
1990年代はテレビ報道が人々の主要な情報源となる一方で、倫理を無視した報道競争の加熱は多くの国で社会問題化。台湾では2000年代に入ると報道倫理が整備され、このようなメディアの姿勢が見直されるようになりました。
現代では、誰もがスマホの内蔵カメラを使いリアルタイムで世界中へ情報発信できる世の中になりました。事故や事件に居合わせた人間が、指先一つで簡単に現場状況を流せてしまう時代です。逆に言えば、犯人自身が犯行を流布することも可能なのです。メディアリテラシーや倫理観が「報道機関」から「個人」に委ねられた今、四半世紀前の作品『模倣犯』の映像化は、その指先に託された“発信”の責任を、改めて問いかけているのかもしれません。
西木南瓜(さいき かぼちゃ)
SNSクリエイター・コラムニスト。名古屋在住。アジアの映画をこよなく愛する影迷(映画ファン)。上海外国語大学修士課程修了後、中国語講師を経て映画公式SNSの運用代行や宣伝企画、広告プランニングなどで活動中。
今回紹介したコラムは『聴く中国語』2025年8月号に掲載しております。
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