中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。
今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶市先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点から⑳「救命(胴)衣」と“救生衣”をご紹介します。
中国行きの日系飛行機の値段はべらぼうに高い。例えば、関西空港−厦門便をJALだと往復40万円弱、これが厦門航空で同じ便だと5万。実に8倍の値段。これじゃ、誰も日系の飛行機には乗らないでしょう。というわけで、コロナ明けの中国行きは中国の航空会社から直接買うようにしている。
さて、中国でも最近はSDGs(中国語では“可持续发展目标”と言います)がかなり浸透してきており、厦門航空などではSDGsのシールを貼ったミネラルウォーターが配られますし、座席のポケットに入っているパンフにも“绿色出行,为地球减负”の文字が躍っています。スマホのアプリでも“绿色账户”を勧めていたりします。

ところで、私は幸い一度もそれを付けた経験はないのですが、飛行機の座席の下には「救命衣」(正確には「救命胴衣」と言うのでしょうが)が取り付けられていることは皆さん知っていますね。当然、中国の飛行機も同じですが、先日、その標示を見ていてふと気がつきました。中国語ではこれを“救生衣”と言うのですね。

「救命衣」と“救生衣”の違いってよく考えると非常に面白い現象です。
どちらでも結局は「生命を救う衣服」ということでしょう。それが日本語では「生命」の「命」の方を使い、中国語では“生”の方を使っているわけです。(もちろん、中国語の場合は、“生”は結果補語という考え方も出来なくはありません。「救った」結果「生きる」と。ただ、これは恐らく間違い。)
これに類似した例として、例えば、日本語だと「学内の食堂」とか「学外での活動」とか言いますが、中国語だと“校内的食堂”“校外的活动”と言うのが普通のように思われます。どちらも「学校」から来ていますね。
実はこのパターンのものは以下のように沢山あります。
“消灭”(消滅)→消火器(日本語)VS灭火器(中国語)(ただし、「消火栓」は今は日中同じようです。)
“金钱”(金銭)→換金VS换钱
“论说”(論説)→社説VS社论
“货币”(貨幣)→外貨VS外币、硬貨VS硬币
“发生”(発生)→発効VS生效
“休假”(休暇)→産休VS产假
“遭遇”(遭遇)→遭難VS遇难
この他、日本語では両方のパターンがあるのに対して、中国語では一方しかないというような例もあります。
“使用”→使途、用途VS用途
“身体”→自身、自体VS自身
“共同”→共感、同感VS同感(しかし、“共情”とはいいます)
一体こうした違いがどうして起きるのかについてはまだよく分かっていません。いずれにしても、以前にここで取り上げた「黒白」と「白黒」なども含めて、いわゆる「日中同形語」というのは色々不思議な現象が他にもありますね。
ところで、最近は随分減りましたが、以前は次のようなけったいな日本語が沢山ありました。


もちろん、逆もまた然りで、日本での中国語表記も怪しいものが沢山ありますね。さて、最近、厦門航空の日本語の機内放送を聞いていると、間違いじゃないけど、どうも私の中ではしっくりしない表現があります。
「長期にわたり厦門航空にご愛顧いただき会員の皆さまに深く感謝申し上げます。」
「お客さまにご満足いただくことは、厦門航空が永遠に追求する目標です。皆さまに安全で快適な空の旅をお過ごし頂けますようにお祈り致します。」
「皆さま、厦門航空は皆さまの永遠の友であり、またのご搭乗を乗務員一同心よりお待ちしております。」
さて、皆さんはどのように感じられますか?

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2025年11月号に掲載しております。





コメント