うっちーの中国語四方山話⑦−中国語の「総合性」

コラム

中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。

今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶一先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点から⑦−中国語の「総合性」をご紹介します。

 以前、中国語の特徴の一つとして「量詞」に代表される「具象性」ということについてお話ししましたが、今回は中国語のもう一つの特徴である「総合的」ということをお話ししたいと思います。

 「総合的」というのは「分析的」に対応する言葉ですが、例えば、中国語で“”と言ったらそれは「背が低い」ということに決まっています。「レベルが低い」とか「体温が低い」という場合には“矮”は使われません。つまり“他个子很矮”というように「彼は背が低い」とわざわざ“个子”を言わなくても“他很矮”と言ったら「背が低い」ことに決まってくるのです。ところが、英語などでは“short (in) stature”のように必ず”stature”(背)を言わなければならないようです。「背」と「低い」をそれぞれ分けなくても“矮”だけで用は足りると言うわけです。これを「総合的」と言っています。それに対して英語は「分析的」に表現しているのです。

 同じように、“”と言えば「時間が遅い」に決まっています。「速度が遅い」時には“” となります。ところが、英語ならやはりこの場合は“the time is late”と“time”を言わなければいけません。

英語では「味」と「匂い」はそれぞれ”taste”と”smell”で区別しますが、中国語の場合は(もちろん今は“味道”と “味儿”で区別しますが)どちらも元々は“”で表されます。

 また、中国語は道具名詞とその動作を表す動詞を区別しません。「のこぎり」は“”(“拉锯”“买一把锯”)ですが、「のこぎりで引く」という動詞も同じ“锯”(“锯树”“锯木头”)となります。“”は名詞(「くぎ」)の場合は今は第一声で、「釘を打つ」という動詞になると第四声で読みますが、漢字はどちらも同じです。

 この他、中国語は名詞の単数と複数も本来区別していません

「私たち二人」とか「彼ら三人」という場合、普通は確かに“我们两个人”“他们三个人”と言いますが、実際にはこれも“我两个人”“他三个人”とも言うのです。また、“们”は英語の複数表示の”s”と同じように考えられていますが、英語の複数形とは根本的に違う部分があります。つまり、「数」と“们”は極めて相性がよくないのです。

  “我”に対して“我们”、“你”-“你们”、“他”-“他们”と確かに、「わたし」−「私たち」、「あなた」−「あなたたち」、「彼」−「彼ら」と“们”は複数を表していますが、「三人の学生たち」とか言う場合には英語だと“three students”とかならず”s”を付けますが、中国語では決して三个学生们“とは言わず、“三个学生”としか言えないのです。

 もう一つ面白いことをお話ししましょう。

中国語には「反訓」という面白い現象があります。「反訓」とは「反対の意味、解釈」ということですが、つまり、「一つの言葉が同時に相反する意味を持つ」と言うことです。

“乱”は「乱れる」という意味ですが、同時に「治まっている」という意味も持っています。

“孔子成春秋,而乱臣贼子惧”(『孟氏』の“乱”は乱れるという意味ですが、“有乱臣十人,同心同德”(『尚書』)の“乱臣”は「乱を治める」という意味になります。

“离”は「離れる」という意味ですが、一方で“鱼离于网”(『詩経』)は「網から離れる」のではなくて「網にかかってくる」という逆向きの方向も表します。

現代語でも“我给你一本书” と“他给我一本书”では前者は「あげる」ですが、後者は「くれる」となりますね。“”は「借りる」と「貸す」両方の意味で使われます。受け身と使役に同じ“叫”や“让” が使われます。

 このように見てくると中国語とは本当に不思議な言葉です。

 この世界は男と女、月と太陽のように、相反する2つのものが存在していますが、それらは一つの円の中に収まっています。それを「太極」と言います。まさに「対立物の統一」という世界観が中国にはありますが、そうした、ものの見方・考え方が上で述べた言語にも反映されているのだと私は考えています。

内田 慶市(うちだ けいいち)/1951 年福井県生まれ。博士(文学)・博士(文化交渉学)。専攻は中国語学、文化交渉学。福井大学教育学部助教授、関西大学文学部・外国語学部教授、大学院東アジア文化研究科教授を歴任。2021年関西大学外国語学部特別契約教授定年退職。東アジア文化交渉学会常任副会長( 2009 年~)、中国語教育学会理事( 2016年3月~2020年2月)、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター長( 2017年4月~)、日本中国語検定協会理事長(2020年6月~)。主著に『近代における東西言語文化接触の研究』(関西大学出版部、2001)、『文化交渉学と言語接触─中国言語学における周縁からのアプローチ』(関西大学出版部、2010)、『漢訳イソップ集』(ユニウス、2014)などがある。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2024年10月号に掲載しております。

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