中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。
今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶市先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点から㉑ことばは音「ロンドン橋落ちた」――求められるテキストをご紹介します。
イギリスには「マザーグース」という古くから口伝えで広まった「わらべ唄」がありますが、子どもたちがことばの感覚を育むのに役立っています。たとえば、次の「ロンドン橋落ちた」や「キラキラ星」はその代表的なものです。「ロンドン橋落ちた(London Bridge is broken down)」の歌は日本のみなさんも聴き馴染みがあるでしょう。
London Bridge is broken down,Broken down, broken down.London Bridge is broken down,My fair lady…
ロンドンばしが おっこちる おっこちるったら おっこちる ロンドンばしが おっこちる きれいなきれいな おひめさま…(谷川俊太郎訳)
*”broken down”は”falling down”とするものもあります。
一方、「キラキラ星(Twinkle, Twinkle, Little Star)」は「ABCDEFG…」という「ABCの唄」のメロディーで歌われます。
Twinkle, twinkle, little star,how I wonder what you are.Up above the world so high,like a diamond in the sky…
きらきらちいさなおほしさま あなたってほんとにふしぎだわ! このよのうえにそんなにたかく そらにかがやくダイヤのように…(谷川俊太郎訳)
日本でも私たちが子どもの頃に歌った「通りゃんせ」や「かごめかごめ」がそうですし、次の唄もその類いですね。
ひいらいた ひいらいた なんのはなが ひいらいた れんげのはなが ひいらいた ひらいたと おもったら いつのまに つうぼんだ
実はこうしたわらべ唄は中国にもあります。
映画「城南旧事」(邦題は「北京の思い出」)でも乳母が子どもをあやす唄として歌われています。
槐树槐,槐树槐 槐树底下搭戏台 人家的姑娘都来了 我家的姑娘还不来 说着说着就来了 骑着驴儿打着伞 歪着脑袋上戏台
槐の木や、槐の木 槐の木の下舞台組み あちらの娘は皆来たに うちのあの子はまだ来ない ああこう言ってるうちにやってきた ロバにまたがり傘さして 頭をかしげてさあお出ましだ(内田訳)
日本と中国のわらべ唄に共通するのは「タンタンタンタン・タンタンタン」という「4+3」のリズムです。これが日本人にも中国人にも何故かぴったりくるのですね。次の中唐の詩人張継という人の「楓橋夜泊」は日本でもよく掛け軸で見ることがあるでしょうが、まさに、全句「4+3」で組み合わされています。口に出して読んでみて下さい。心地よい響きを感じられますか?
月落鸟啼霜满天 江枫渔火对愁眠 姑苏城外寒山寺 夜半钟声到客船
月は沈み 烏は啼き 霜は空を満たす 川辺の楓と漁り火 愁いに向かいて眠る 蘇州の城外 寒山寺 夜半の鐘の音 客の舟に届く(編集部訳)
中国にはまた「快板」というカスタネットに似た竹製の楽器(大板と節子)を打ち鳴らしながら、リズムに乗せて早口で物語や口上を語る伝統的な民間芸能があります。私もかつて自分の編纂した中国語テキスト(『新校アラカルト中国語』同学社)にそれを模した会話文を入れたことがあります。
甲:玛丽、玛丽,我问你。我想吃饭,去哪里?
乙:安娜、安娜,别着急。咱们两个一起去。
见路口,再往西,有个饭馆儿〈霁雨居Jìyǔjū〉,饭菜又好又便宜。
丙:二位顾客请往里,我把菜单递给你。
甲:我们汉字认得少,请把菜名报仔细。
丙:二位顾客别客气,听我把菜名报仔细,
鱿鱼、墨鱼、大鲤鱼,还有油炸香酥鸡。
甲:我要一条大鲤鱼。
乙:我来一杯白兰地。
甲:我要一杯《四川大曲》。
丙:你们的饭菜都到齐,一共十块八毛一。
甲:真是实惠又经济。
乙:我来付钱别客气。
甲:我来付钱别客气。
丙:二位顾客别着急,饭后付款我来取。
甲:メアリー、メアリー、ちょいと聞く!腹がグーグー、どこ行く?
乙:アンナ、アンナ、あわてない!二人いっしょに行こうじゃない。角を曲がって西の方、〈霽雨居(せいうきょ)〉って店が最高!うまい!安い!間違いない!
丙:へい、いらっしゃい!お二人さん、こっちへどうぞ、メニューご覧!
甲:漢字がちょっと苦手だな、料理の名前、教えてな!
丙:お客さん、お安い御用!料理の名を読み上げよう!
イカにスミイカ、大きなコイ、カリッとチキン、どうだいおい!
甲:コイを一匹くださいな!
乙:ブランデーをひとつお願い!
甲:ぼくは四川の白酒を!
丙:ご注文そろってありがとさん、お会計は十元八角一!
甲:安い!うまい!こりゃいいね!
乙:私が払う、いいじゃない。
甲:いやいや俺が、いいじゃない。
丙:お二人さん、そんなに急ぐな、食後で結構、ゆっくりな!(編集部訳)
この他「早口ことば(绕口令)」などもなかなか楽しいものです。
洞庭山 洞庭山上一根藤 藤上挂个大铜铃 风起藤动铜铃响 风停藤定铜铃静。
洞庭山に一本のつる つるにぶら下がる大きな銅の鈴 風が吹けば つるゆれ 鈴が鳴る 風がやめば つるとまり 鈴もしずまる(編集部訳)
単なる会話文だけでなく、こうした「ことば遊び」の要素も取り入れながら「音とリズム」を体感して中国語を身につけていく、そんなテキストもあっていいのではないでしょうか?ことばは「音」なのですから。
今回紹介したコラムは『聴く中国語』2025年12月号に掲載しております。
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