『聴く中国語』2023年4月号より、日本語教師・金子広幸さんのコラム「日本語教師から見た中国語」を連載しています。
今回はのテーマは「どこで、どこかで」です。
今回は、 日本語か中国語のどちらかに「該当するものがない」場合の話です。
例えば「どこか」と「どこ」の違いも難しいです。これをお読みの読者の皆さんも、「あれ?同じ言葉じゃない?違うの?」と思われた方もいると思います。日本語母語話者は、この辺の細かいことをあまり気にしていませんね。
では、今日は、かねこクラスの様子から見てみましょう。
「ちょっと疲れましたね。【どこか】でお茶を飲みましょう」
となるところを、私のクラスの学生さんはときどき
「ちょっと疲れましたね。【どこ】でお茶を飲みましょう。冷たい飲み物があるところがいいな」
と言ってしまうのです。中国語には「どこか」と「どこ」の区別がないんですね。英語なら somewhere と whereの違いです。中国語では、もちろん文脈として意識されることはあっても、その言葉上の区別がありません。
「…困りましたね。この問題、だれに相談したいです」
とか
「あ、味が足りない!何を入れたほうがいいね。何を入れてもう一度味を見て!」
とか
「昨日の夜 2時半に 誰が来て、大変でした・・・酔っ払ってドアを叩いたんです〜」
というのも聞きました。
これは 今度他のときに詳しくお話ししますが、中国語話者にとっては、「か」と「が」の発音上の区別が難しいので、「誰が」と言っているのか「誰か」と言っているのか、そもそも区別をするのが難しいんですよね。
日本語教師たちはこの「どこ」「何」「誰」に当たる言葉を「疑問詞」、「どこか」「何か」「誰か」に当たる言葉を「不定詞」などと言っていますが、でもクラスの学生たちには「これは「ふていし」です」などとは言っていません。これらの文法用語はあくまでも日本語教師の業界用語で、学生には難解な言葉なのでございます。
私たち日本語教師がクラスで日本語を教えている時には、例文や文脈、状況を使ってこの感覚を学習者に伝えています。
例えば、今月号の話題「どこ」と「どこか」は、こんな例文で伝えています。
がくせい:はい、食べます。/ いいえ、食べません
と、不定詞で聞かれたときには「はい」か「いいえ」で答えるように教え、そのつぎに
がくせい:ラーメンを食べます。
と、疑問詞で聞かれたときには具体的なもので答えるように提示しています。
それが安定したら、
A:喉が渇きましたね。どこかでお茶を飲みましょう。
B:いいですね。どこで飲みますか。
A:大学の4階のカフェで飲みましょう。
C:あ、何か味が足りませんね。
D:ほんとうだ!何を入れましょうか。
C:お酒を入れてみましょう。
D:…あ、おいしくなりましたね。
E:昨日よく眠れませんでした。
F:どうしたんですか。
E:夜中の2時半に誰かが来てドアを叩いたんです。
F:え?誰が来たんですか。
E:隣の人が酔っ払って間違えたんだと思います。
というふうに違いを強調しながら提示しています。
さてさて、日本語も中国語も漢字を使う言語。同じ漢字の漢字熟語でも、微妙に使い方・ニュアンスが異なるんです。母語の干渉で、変な中国語にならないようにしたいですね。
こちらのコラムは、月刊中国語学習誌『聴く中国語』2023年6月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2023年6月号をご覧ください。
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