影視で知ろう中国文化⑱黒社会で香港を描き続けるジョニー・トー監督の挑戦

中国エンタメ

香港ノワール映画の黄金期を支えた名監督ジョニー・トー(杜琪峯)氏が、再び日本で注目を集めています。2025年初めには北海道を舞台にした新作映画の制作が報じられ、その夏にはプロ野球・北海道日本ハムファイターズの始球式に登場。秋には北海道の映画祭「フービーフェス」で代表作『エグザイル/絆』が特別上映され、舞台挨拶で次回作が日本と中国のマフィアを描く物語であることを明かしました。

© Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved 2006 配給:アートボード

今回は彼の代表作の一つ、映画『エレクション 黒社会』(2005)をご紹介します。本作は構想から2年を経て2005年に公開され、第25回香港電影金像奨で作品賞を含む4部門を受賞。日本では2007年に、続編『エレクション 死の報復』(2006)とともに上映されました。

エレクション 黒社会 ©2005 PEARL HEART LIMITED 2005 配給:東京テアトル/ツイン)

副題の「黒社会」とは、中国語で裏社会や闇社会を指す言葉。本作では、香港の架空の犯罪組織「和連勝会」で繰り広げられる権力闘争が描かれます。主人公は、義理と信頼関係を重んじるロクと、金で幹部を買収するディー。対照的な2人の攻防はやがて血で血を洗う全面抗争へと発展します。劇中にはド派手な銃撃戦はほとんどなく、刃物を使った生々しい肉弾戦や、幹部を木箱に閉じ込め崖から落とす拷問シーンなどが淡々と描かれます。ノワール映画にありがちな主人公のヒーロー性はなく、犯罪組織の非情さや人間の残酷さを強調した演出が特徴です。

エレクション 死の報復 ©2005 PEARL HEART LIMITED 2006 配給:AMGエンタテインメント

 1997年の中国返還を機に勢力を失った香港黒社会。制作当時、トー監督は現代社会の縮図として、忘れ去られつつある香港黒社会をリアルに映し出すことを目指しました。組織の儀式や慣習も、フィクションと現実を織り交ぜながら効果的に描かれています。

例えば、「和連勝会」の象徴である木製の杖「龍頭棍」は、実在する組織の伝統の一つで、会長のみが持つことを許されます。映画ではその奪い合いが抗争の引き金になります。また、義兄弟の契りを交わす儀式では、道士(道教教職者)の立ち会いのもと、互いの血を混ぜた酒を飲む「血の誓い」が交わされます。道教的思想を色濃く反映した香港ならではの風習ですが、現実では形骸化しているといわれています。

日本のヤクザ映画でも盃を交わす場面がありますが、香港黒社会の儀式はさらに宗教色が強く、組織の起源として「明朝滅亡と共に少林寺から逃れた僧侶五人」の伝説が語られます。この伝承は、組織の存在を神聖なものとして正当化する役割を持ち、監督は作品に取り入れることで、黒社会が抱くヒロイズムと行動の加虐性との対比を浮かび上がらせています。

 トー監督は、海外で名声を得た後も香港での制作を貫き、混沌とした香港の閉鎖的な世界観を描き続けました。そんな監督が初めて海外ロケに選んだのは、日本の北海道。「フービーフェス」の舞台挨拶で、監督は撮影地を北海道に決めた理由を「風景が持つ独特の美しさと、都市と自然が調和する雰囲気に魅了されたから」と語りました。  

過去の産物となりつつある香港黒社会を映した『エレクション 黒社会』。公開から約20年を経て、異国の地でその存在はどう描かれるのでしょうか。核となる部分は異なっても、日本のヤクザ文化との親和性が高い香港黒社会。白い大地の北海道で、薄れゆく香港黒社会の残像を新たに照らす新作の誕生に期待が高まります。

 一言メモ:トー監督は、『トワイライト・ウォリアーズ』のソイ・チェン監督とタッグを組んだ新作映画を2026年1月に公開予定。また、『エレクション〜黒社会〜』で極悪非道なディー役を演じ、第25回香港電影金像奨の主演男優賞を受賞したレオン・カーフェイ(梁家輝)は、2025年12月公開のサイバー犯罪映画『シャドウズ・エッジ』に出演。主演のジャッキー・チェンとは、実に20年ぶりの共演です。香港映画の波が再び日本に押し寄せる一年になりそうです。

西木南瓜(さいき かぼちゃ)

SNSクリエイター・コラムニスト。名古屋在住。アジアの映画をこよなく愛する影迷(映画ファン)。上海外国語大学修士課程修了後、中国語講師を経て映画公式SNSの運用代行や宣伝企画、広告プランニングなどで活動中。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2026年1月号に掲載しております。

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