中国語語学誌『聴く中国語』では中国語学習における大切なポイントをご紹介しています。
今回は日中通訳・翻訳者、中国語講師である七海和子先生が執筆された、「脳内劇場のススメ」というテーマのコラムをご紹介します。
執筆者:七海和子先生
日中通訳・翻訳者。中国語講師。自動車・物流・エネルギー・通信・IT・ゲーム関連・医療・文化交流などの通訳多数。1990年から1992年に北京師範大学に留学。中国で業務経験あり。2015年より大手通訳学校の講師を担当。
皆さん、こんにちは。七海和子です。
「『イメージ』は聴き取り苦手を克服する強い味方」というコラムを第1回で書いたのですが、今日はその続きです。第1回を読んでいなくても大丈夫なのでご安心ください。よく聞くお悩みの中でも「聴き取りが苦手なんです」がダントツの1位だったので、「聴くときに内容をイメージできるようになりましょう」という内容で書いたものが前述の第1回のコラムだったのでした。
とは言え、いきなり中国語で聴いたものをイメージするのは難易度が高いと思いますので、まずは母語の日本語で訓練してみましょう。今日はその具体的な方法について書いてみます。皆さんのご参考になればうれしいです。
さて、ここで使うのが石川さゆりさんの名曲「津軽海峡冬景色」。この歌を選んだのは歌詞がほぼ情景描写のみで構成されているからです。歌詞はあらかじめ目を通しておいてもよいですが、歌を聴くときは歌詞や映像など、何も見ないで聴きましょう。自分が歌の主人公になった気分で、上野発の夜行列車に乗って、青森駅で降りて、それから連絡船に乗ってくださいね。そして、この歌詞を脳内で映画のように再現してください。
皆さん、聴きましたか?イメージできましたか?
青森駅で見る雪は?一緒に連絡船に乗り込む人々の様子は?連絡船から見る海の色は?カモメはどんなふうに飛んでいた?あなたに竜飛岬を教えてくれた人はどんな人?はっきりイメージできるようになったら、歌は聴かずにイメージをもとに内容を思い出してみましょう。ほら、メモを取っていなくても内容全体を思い出せるのではないですか?また、ピンポイントで思い出したい箇所も映像を巻き戻すように思い出せるのではないでしょうか?皆さんは歌詞を聴いているだけで、実際に情景を見たわけではないのですが、このように脳内でも、視覚として植え付けたものは記憶の再現がしやすいのです。
もう2曲ご紹介。私の青春、松任谷由美様の「最後の春休み」と「DOWNTOWN BOY」(あぁ、イントロ聴くだけで青春の思い出が甦ります…)。こちらも情景描写中心の歌詞なのでイメージしやすいでしょう。「DOWNTOWN BOY」は彼女の気持ちも若干描かれていますが、この部分もイメージしやすい描写だと思います。ご紹介した3曲はいずれもYouTubeで視聴できます。
歌でイメージができるようになったら、オーディオブックや、ニュースなどでも試してみましょう。とにかく聴いたものをイメージできるように、そしてその内容をイメージをもとに思い出せるように、ゲーム感覚でやってみてください。
日本語でイメージと、イメージをもとにした再現ができるようになったら、中国語にトライです。最初はイメージしやすいように、短く、意味がわかるものを選びましょう。
例えば『聴く中国語』なら、「パンくん奮闘記(小胖奋斗记)」(難易度:★)「中国語で日常会話(中文日常会话)」(難易度:★★)や「小学生の中国語(小学生的中文课)」(難易度:★)あたりから始めるとよいと思います。音声を聴く前に単語や構文を確認しましょう。でも、イメージ訓練をするときには文字は見ないでくださいね。音声だけでイメージできるようになることが大切です。
全体をイメージできるようになったら、ピンポイントで思い出したい部分を設定し、その部分だけをイメージしながら言葉で説明できるかも試してみてください。この時、「訳」ではなく、イメージの説明ができればOKです。説明できるということは、聴き取れて、理解できている、ということです。できれば、この説明を録音して自分で聞いてみてください。聞き手にわかるように説明できていれば大成功。最初は難しいかもしれません。でも、大丈夫。繰り返し訓練すればできるようになりますよ。ポイントはひとつひとつの単語にこだわるのではなく、キーとなる単語やセンテンスはしっかり聴きますが、とにかく全体を聴く(見る)ことです。
選んだ音声はどんどん変えてしまうのではなく、ひとつの音声でイメージできるまで繰り返すようにしましょう。ひとつ音声でできるようになったら次、またその次、というようにひとつひとつクリアしていくのがよいですね(この時点で単語や構文はしっかり覚えましょう。この積み重ねが語彙力強化と表現の幅につながります)。『聴く中国語』には「中国現代名作精選」という中国語の小説を紹介するコーナーもありますので、小説を聴いてイメージができるようになることを目標にしてみるのもいいと思います。イメージができると、脳内で映画を観ている気分が味わえます。中国語の小説を読むのが何倍も楽しくなりますよ。
皆さんの聴き取りが上達しますように。
本コラムは『聴く中国語』2023年8月号に掲載しております。
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