中国語語学誌『聴く中国語』では猫と詩人をテーマに昔の漢詩をご紹介しています。
今回は声優で翻訳家である白伊先生が執筆された、「猫は綺麗好き」というコラムをご紹介します。
猫は寝ている時以外は、暇さえあれば毛繕いをしているイメージがありますよね。
寝起きの伸びをしては毛繕い。
遊んでいる途中にふと止まっては毛繕い。
食べた後はまたまた満足げに毛繕い。
まめな毛繕いのおかげか、猫からはいつもほかほか暖かいお日様の匂いがします。
人が顔を洗うように、真ん丸なお手てで頭をこする様は愛らしく、その姿に見惚れる詩人もいます。
猫は綺麗好き 题杂画九首 其一 猫 tí zá huà jiǔ shǒu qí yī māo /明・林弼
内相家中蒙贵儿, nèi xiāng jiā zhōng měng guì ér ,
华堂客至每先知。 huá táng kè zhì měi xiān zhī 。
今朝洗面还过耳, jīn zhāo xǐ miàn hái guò ěr ,
故写新图开阁诗。 gù xiě xīn tú kāi gé shī 。
【现代文】
内相家中的小猫儿,总会第一个察觉会有客人造访。
今天早上它洗脸的时候把耳背都洗得干干净净,我也要开始写新题画诗了。
訳文:
題画詩九連作 其の一 猫
明・林弼
内相の家の猫ちゃんは、誰よりも先に客の訪れを察知できる。
今朝も顔を洗う時は耳の後ろまで丁寧に洗い、それを見た私も、新たに題画詩を創作しようと思い立った。
これはにゃんの言葉?
内相 nèi xiàng
詔勅の起草をつかさどった官、翰林学士。明朝中期以降は、宦官の勢力が拡大し、その影響力が翰林学士に匹敵することから、内相と呼ばれることもあるが、この詩はどちらを指しているかは不明。
蒙贵:猫の別称。『格古論』の「猫,一名乌圆,一名蒙贵。(猫の一匹は乌圆、もう一匹は蒙贵と名付けられた)」に由来するとされている。
猫が顔を洗うと客人来たり――俗説色々
何故詩人は、内相の家の猫が客の来訪を知っていると書いたか?
それは「猫が顔を洗うと客人が来る」という俗説があるからだろう。
俗説と言うのは大体根拠のないものが多いが、猫が顔を洗う時、前足の動きが手招きしている動作に似ているから、客を招いていると思われたのかもしれない。
「猫が顔を洗うと雨が降る」は、日本と中国で共通している俗説だが、こっちにはそれなりの科学的根拠がある。猫のひげは環境の変化に敏感で、雨の前の湿気はひげに伝わり、猫はその不快感を払拭するために顔を洗うのだとか。
何はともあれ、可愛い舌をちらつかせ、肉球をきゅっと丸めて顔を洗う姿の愛らしさと言ったら、実に筆舌に尽くし難い!
今回紹介した白伊先生のコラムは『聴く中国語』2024年9月号に掲載しております。

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