2024年は龍年(辰年)だ。「龍」といえば、李小龍(ブルース・リー)の『龍争虎闘(邦題:燃えよドラゴン』、成龍(ジャッキー・チェン)の『龍拳』のような中国のカンフー映画を思い出す。カンフーが現代の格闘技やSFチックな神功(神のような強さを発揮する武技)とは異なるように、カンフー映画もアクション映画や武侠映画とは異なる。カンフー、即ち中国武術は、流派の伝承を重んじ、実戦的で、独自の哲学を持っている。カンフーは身体能力と攻防の技のみならず、高尚な品格と深い知恵も求められる。今回は、中国カンフー映画の世界をのぞいてみよう。
ブルース・リー
代表作:ドラゴン怒りの鉄拳、ドラゴンへの道、龍争虎闘、死亡游戯
中国カンフーが海外にその名を轟かせたのは、中国系アクションスターのブルース・リーによるところが大きい。1970年代、ブルース・リーはアメリカで「振藩国術館」を開き、ジークンドーを編み出した。また、『精武門(邦題:ドラゴン怒りの鉄拳)』『猛龍過江(邦題:ドラゴンへの道)』『龍争虎闘(邦題:燃えよドラゴン)』『死亡游戯(邦題:同じ)』の4作のカンフー映画で世界に衝撃を与えた。33歳という若さで早逝してしまったものの、激しく俊敏なカンフーアクション、シンボリックなヌンチャクと「アチョー」という雄叫び(「怪鳥音」と呼ばれる)で、ひと目見たら忘れられない不滅の「ブルース・リー」のイメージを作り上げ、「中国カンフー」を、中国内外の無数の人々が憧れる武術文化にまで押し上げた。
ブルース・リーの作品の中でも、『ドラゴン怒りの鉄拳』は特に取り上げる価値のある作品だ。物語の舞台は民国初年。精武館の創始者・霍元甲の愛弟子・陳真(演じたのはブルース・リー)が、師匠が日本人に毒殺されたと知り、日本人の営む虹口道場に単身乗り込んで雪辱を果たし、「東亜病夫」「犬と中国人は入るべからず」という侮辱的な言葉が書かれた看板を粉々に叩き壊してくる。作品には他にも数多くの名場面が出てくるが、中でも、ラストで、素手の陳真が精武門を守るため、たった一人で租界の巡査の銃口めがけて、雄叫びを上げ飛びかかっていくシーンは、一人の武術家の潔さと、悲哀に満ちた民族のプライドが巧みに描かれており、見る者の胸を打つ。
ジェット・リー
代表作:フィスト・オブ・レジェンド 怒りの鉄拳、少林寺、ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ
『ドラゴン怒りの鉄拳』は後に何度もリメイクされているが、その中で最も有名なのは、李連杰(ジェット・リー)バージョンの『精武英雄(邦題:フィスト・オブ・レジェンド 怒りの鉄拳)』を置いて他にない。
同じく民族の英雄・陳真の伝説的物語を描いているが、武術の実戦的意義をより掘り下げている。同作の陳真は中洋混合スタイルのカンフーを使い、相手に応じて攻撃方法を変えており、伝統的武術の型のみにこだわることなく、様々な格闘技の長所を取り入れ、お手本のような格闘シーンを演じている。
ブルース・リーのカンフーが中国南方の詠春拳をベースにしているとすれば、ジェット・リーのカンフーは多様性に富んでおり、南拳も北拳も網羅されている。ジェット・リーは北京に生まれ、8歳で武術を始めた。出世作は18歳のときに主演した『少林寺(邦題:同じ)』(1982)。隋末の乱世、少林寺に助けられた孤児・覚遠(ジェット・リー)は、父の仇を打つため、少林拳の英雄になるというストーリーだ。『少林寺』の登場人物はリアリティがあって面白く、カンフーアクションはシンプルながらも見ごたえがあり、音楽も美しく、描かれている価値観も新しい。同作の公開後、中国の青少年の間では、少林寺で拳法を習うブームが巻き起こった。
ジェット・リーのもう一つの代表作は、90年代初頭にスタートした黄飛鴻(ウォン・フェイホン)シリーズ(日本では「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズと呼ばれる)だ。黄飛鴻(1847-1925)は洪家拳の師匠で、医療に身を捧げる中医でもある。彼の物語は早くから香港カンフー映画のドル箱コンテンツだった。徐克(ツイ・ハーク)監督、ジェット・リー主演の『黄飛鴻(邦題:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明)』(1991)は、黄飛鴻モノの数多の作品の中でも特に目を引く。作品は鑑賞性に富み、サウンドトラック、アクションシーン、感情表現のどれをとっても印象的だ。この作品ではまた、黄飛鴻の任侠者としての一面ものぞくことができる。黄飛鴻は伝統と現代、東洋と西洋、保守と革命、暴力と平和、侵略と抵抗といった数々の矛盾がぶつかり合う中、包容と自強の道を選び、「救国」のために一肌脱いだ人物であった。
ジャッキー・チェン
代表作:ドランクモンキー 酔拳、酔拳2
黄飛鴻といえば、同じく世界的影響力を持つカンフーのスーパースター・成龍(ジャッキー・チェン)と彼の『酔拳』シリーズにも触れておかなければならない。
『酔拳Ⅰ(邦題:ドランクモンキー 酔拳)』では、勇猛かつ自由自在に、それでいて楽しそうに酔拳を打ち、若くエネルギッシュな黄飛鴻像を確立した。一方『酔拳Ⅱ(邦題:酔拳2)』では、世界の映画史に残る素晴らしいアクションシーンを披露した。黄飛鴻は国の文物を守るために立ち上がり、敵と戦いを繰り広げる中、カッコいいのに笑えて、上手いのにクレイジーで、緊張感と面白さにあふれた酔拳を繰り出し、観客は思わず笑い出しながらも、大胆で見事なアクションに魅了された。
チャウ・シンチー
代表作:カンフーハッスル、少林サッカー
カンフーコメディなら、有名コメディアンの周星馳(チャウ・シンチー)監督・主演の『功夫(邦題:カンフーハッスル)』(2004)も全く新しいスタイルだと言える。
武術を身に着け弱い者と世界平和を守りたいと願う少年・阿星(シン)が、大人になって世の中に失望し、一度はヤクザの使いっ走りに成り下がったものの、悪と正義が対立し、強い者が弱い者をいたぶる光景を目にして、勇気をふりしぼって正義の道を選び、人のために戦うことで、ついに「如来神掌」という武術の奥義を習得して生まれ変わるというストーリー。本物のカンフーアクションも楽しめれば、アニメのような特撮もあり、一見バカバカしい笑える作品のようでいて、その実、繰り返し味わえる細部と善悪に対する思想も盛り込まれており、何度見ても飽きない作品になっている。
ウォン・カーウァイ
代表作:グランド・マスター
最後に、王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の『一代宗師(邦題:グランド・マスター)』(2013)を紹介しておきたい。
壮大かつ繊細な撮影手法で1930~40年代の南北武術界、特に詠春拳の達人・葉問(イップ・マン。演じたのは梁朝偉(トニー・レオン))、八卦掌の伝承者・宮若梅(章子怡(チャン・ツィイー))らの生涯をフィーチャーした作品で、詠春拳や八卦掌、形意拳など様々な拳法の息を飲むような対決が繰り広げられ、武術家の武術や国に対する情熱の継承についても問いを投げかけている。主人公の葉問は勝つことにこだわり、民族の誇りを抱くと同時に、広い視野を持ち、困難な状況でも粘り強さと落ち着きを欠かさなかった。南派の拳法を北に伝え、さらに世界にも伝えていくというかねてからの願いを実践したことで、正真正銘のグランド・マスターとなった人物だ。
中国カンフーは広く深い世界だ。アクションを迫力満点に描き、中国伝統思想の奥深く貴重な部分を感じさせてくれる、全てのカンフー映画制作関係者に感謝したい。カンフー映画に敬礼!
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今回の内容は『聴く中国語』2024年3月号に掲載されています。
さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2024年3月号をご覧ください。
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