うっちーの中国語四方山話⑥−“感到不安”=「不安に感じる」?—日中同形語

コラム

中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。

今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶一先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点から⑥−“感到不安”=「不安に感じる」?—日中同形語をご紹介します。

 漢字文化圏の私たちが中国語を学ぶ場合、欧米の人たちに比べて優位な点があります。それは、「漢字」を持っているということです。もちろん、同じ漢字文化圏でも韓国やベトナムでは現在は漢字を使っていませんが、それでも彼等の言葉の中には多くの「漢字語」或いは「漢越語」が含まれています。例えば、「カムサハムニダ」の「カムサ」は「感謝」ですし、「アンニョンハセヨ」の「アンニョン」は「安寧」です。ベトナムという国名だって「越南」という漢字なのです。日本は今も漢字を使っていますし、いわゆる「日中同形語」というのがあり、その数は約2000語と言われ、その恩恵を最大限に得ることが出来ます。しかし、そのことは一方ではまた「弱点」にもなりますし、多くの「誤解」を招くことにも成りかねません。今日のこの「日中同形語」について見ていくことにします。

今年、日本は新年早々大変な災害に見舞われました。こうした災害がある度にこの国は本当に大丈夫かと「不安」に思ってしまいますが、先ずはこの「不安」という言葉についてです。

唐突ですが、私が魯迅に最初に触れたのは大学2年の時。当時の日本の大学は大学紛争の嵐が吹き荒れており、バリケードストライキで授業もほとんど行われませんでした。そんな中で、何人かの仲間と一緒に「自主ゼミ」を立ち上げてそこで魯迅の『吶喊』や『朝花夕拾』を読み進めていきました。

それから何年も経ってから最初の勤務校でも毎週、魯迅の読書会をやりましたが、それに参加されていたある高校の先生が面白い質問をされました。それは『朝花夕拾』の「藤野先生」の中の以下の文章でした。(ちなみに、「藤野先生」は私の故郷である福井県の出身です。)

“我拿下来打开看时,很吃了一惊,同时也感到一种不安和感激。”

この文章の“感到一种不安和感激”に対応する教科書の日本語訳は「一種の不安と感激を覚えた」となっています。これに対してその高校の先生は、藤野先生は親切に魯迅のノートを添削してくれたのに対して「感激」は分かるが、なぜ「不安」に感じるのか、ということでした。

確かにその通りだと思いました。何故「不安」なのか?

しかし、中国語で他人に何かしてもらった時によく“感到不安”言うことを考えたら,問題は解決です。日本語にすれば「恐縮です」とか「申し訳ない」となるでしょう。魯迅のこの部分も私はやはりそう解釈すべきだと思います。

実は“感激”もそのまま「感激」では問題かも知れません。小学館の日中辞典では<“感激”は他人の好意に強く心を打たれ,気持ちが高ぶること。“感谢”よりも強さ・重みがある。また日本語の「感激」とは異なり,必ず他人の好意や援助についていう>とあります。

中国では“北京大学校长”とか言いますが。日本では大学では「校長」とは言わず、「学長」となります。“高等学校”もそのまま「高等学校」ではありません。日本の「高等学校」は中国では“高级中学(高中)”です。

中国に行くとホテルでよくテレビドラマを見ますが、ある時、戦争の場面で、中国語で“开枪”と言うところを日本語で「発砲」と訳していました。ここは「発砲」ではなくて「打て!」でしょう。また酷いのでは「出陣!」と吹き替えているのもありました。

つまり、日本も中国もこうした間違いを犯しやすいということなのです。

他にも“最近”などのように意味は同じですが、使い方が違うような場合もあります。中国語では“最近你要看什么电影?”“这个戏最近就要上演了”のように将来の現在に近い時にも使われます。こういったことにも注意を払って中国語を学んでいきたいものです。

内田 慶市(うちだ けいいち)/1951 年福井県生まれ。博士(文学)・博士(文化交渉学)。専攻は中国語学、文化交渉学。福井大学教育学部助教授、関西大学文学部・外国語学部教授、大学院東アジア文化研究科教授を歴任。2021年関西大学外国語学部特別契約教授定年退職。東アジア文化交渉学会常任副会長( 2009 年~)、中国語教育学会理事( 2016年3月~2020年2月)、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター長( 2017年4月~)、日本中国語検定協会理事長(2020年6月~)。主著に『近代における東西言語文化接触の研究』(関西大学出版部、2001)、『文化交渉学と言語接触─中国言語学における周縁からのアプローチ』(関西大学出版部、2010)、『漢訳イソップ集』(ユニウス、2014)などがある。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2024年9月号に掲載しております。

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