中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。
今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶一先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点から⑨ 「遣らずの雨」 “下雨天,留客天” をご紹介します。
日本語には「遣(や)らずの雨」という言葉があります。「客として招かれた人が帰ろうとする時に、『行かないで』と、それを引き留めるかのように降ってくる雨」のことですが、演歌のタイトルにもありますね。
中国語にもよく似た言葉があります。“下雨天,留客天”(雨の降る日は客を留める日)とか“留客的雨”と言いますが、実はこの“下雨天,留客天”には面白い話があります。中国語の練習も兼ねて,以下に中国語でそれを述べておきましょう。
从前有一个人非常吝啬,外号叫“磁公鸡、铁仙鹤、玻璃耗子、琉璃猫”。这些“雅号”无非是说此公一毛不拔罢了。他平时最怕把客人留在家里吃饭。有一天,远道来了一位客人,凑巧得很,一进门就下起雨来了。客人知道主人是个吝啬鬼,就故意不走了。他对主人说:“本来我不打算在这里吃饭的。你瞧,雨下得这么大,回不去了。这是天留客啊!”主人一听,心往下沉,脸拉得老长老长的,立刻写了十个字送到客人面前。这十个字是:“下雨天留客天留我不留”。主人想说“下雨天留客,天留,我不留”,以为客人看了这几个字会快快滚蛋。谁知道由于上面没有标点,让客人钻了空子了。客人捉摸了一会儿,在上面加上几个标点,结果成了“下雨天,留客天,留我不?留。”主人一看,无何奈何,只好吩咐家里人赶快备饭,招待客人。
つまり、“下雨天留客天留我不留”という十文字は句読点をどこに打つかで意味が全く違ってくるわけです。「けちん坊」(この意味の“磁公鸡”“铁仙鹤”“玻璃耗子”“琉璃猫”という言葉もなかなか面白いですね。陶磁器で出来た雄鶏、鉄で出来た丹頂鶴、ガラスの鼠、玻璃の猫、どれも毛一本も抜けませんということから、「毛一本も抜こうとしないけちん坊」のたとえになります)の主人は“下雨天留客,天留,我不留。”(雨の降る日は客を留める日ですが、天が留めても私は留めません)と区切りましたが、客は“下雨天,留客天,留我不?留。”(雨の降る日は客を留める日、私を留めますか?はい、留めます)として「一本あり!」ですね。実はもう一つ切り方があって、“下雨天,留客天,留我不留?”とすることもできますが、いずれにしても、句読点というものは文の意味の一部をなすもので、有ってもなくてもいいというものではないと言うことです。
例えば、“全国乒乓球赛上海队打败北京队获得冠军”という文は、切り方によって 「北京チームが優勝」の場合と「上海チームが優勝」の場合の二つの意味になります。さて、どこで切りますか?
明代の文人の祝岐山という人は他人をからかうのが好きな人だったようですが、ある年の大晦日に隣の人の家の玄関に“今年真好晦气,全无财帛进门”(今年は全く運が悪い、お金は家に全く入ってこない)”という対聯を貼り付けました。それを見た隣人がプンプンに怒る様子を見て、「あんたは句を切り間違えているよ、これは2つの六字句ではなくて3つの四字句なんだよ」と返したそうです。確かに“今年真好,晦气全无,财帛进门”(今年は本当に素晴らしい、悪い運気は全くなくて、家には財産が入ってくる)となれば縁起のいい言葉になりますね。
中国語でよく使われる句読点(“标点符号”と言います)には“句号”“逗号““顿号”“分号”“冒号”“问号”“感叹号”“引号”“括号”といったものがありますが、さて、皆さんはその使い方をご存知でしょうか?是非、辞書などでよく確認をしておかれた方がいいでしょう。ちなみに、中検の筆記問題では句読点がなければ減点となりますのでご注意あれ。
今回紹介したコラムは『聴く中国語』2024年12月号に掲載しております。
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