春節(旧正月)期間は、人々が帰省し、家族団らんのひと時を過ごします。今回は年末帰省のさなかで出会った男女の、10年を描く映画をご紹介。

台湾出身の女優兼歌手、劉若英(レネ・リウ)が、自身のエッセイをもとに製作したNetflixオリジナル映画『僕らの先にある道』(2018年)。彼女の初監督作品にして、公開4日で興行収入8億元超えの大ヒット作となりました。回想をカラー、現在をモノクロで表現した斬新な演出は、オチへの大きな伏線となっています。

映画の中心人物、見清(ジエンチン)と小暁(シャオシャオ)は、地元を離れ北京で生活する、いわゆる“北漂”(ベイピャオ)と呼ばれる若者。ゲームクリエイターを目指す男子学生の見清と、北京男性との結婚という玉の輿を夢見る小暁。夢に向かい奮闘する同郷の二人は、いつしか友情を超えた関係へ変化していきます。

毎年旧正月になると、帰省する二人を故郷で迎えるのは、小料理屋を営む見清の父親。彼が二人のためにこしらえる、蒸篭いっぱいの黄色い蒸し物は、東北地方の年越しデザート「きびまんじゅう」。小豆、ピーナッツ、黒豆を和えたアンを、乾燥地帯でも育つきびの粉とトウモロコシ粉の生地に包んだ、まさに東北ならではの郷土料理です。

せっせと年越し料理を作る父のそばで、「正月といえば、きびまんじゅうだ」と急かす見清。彼にとっても大切なふるさとの味なのです。
父を早くに亡くし、母は海外で暮らす小暁の実家は、ほぼ一年中空き家。そんな彼女を、「きびまんじゅう」を用意して迎えてくれる見清の父親。見清が帰省できない年は代わりに訪問するほど、見清の実家が彼女の中でかけがえのない「帰る場所」となっていきます。
その後恋人関係になるものの、長くは続かなかった二人。見清と別れた後も、小暁は北京をさまよい続けます。見清の父親が作る「きびまんじゅう」は、彼女に帰る場所がどこかを気づかせてくれるシグナルとして、再登場します。

北京で花婿探しを続けた彼女の本当の夢は、玉の輿に乗ることではなく、年の瀬に帰りを待つ人がいる場所を作るためだったのかもしれません。
人間の記憶と味覚は密接に関係していて、旅先で「訪れた場所」よりも「食べた味」の方が記憶に残りやすいといいます。
映画『僕らの先にある道』は一見すると、男女の出会いと別れを描くラブストーリー。ところが、郷土料理「きびまんじゅう」に焦点を当ててみると、居場所を見失い漂う者が「帰り道」を見つけるサイドストーリーが姿を現します。
その後、北京で息子のために「きびまんじゅう」を作る見清と、故郷へ戻る小暁。別の道を歩んでも、見清の父が作った「きびまんじゅう」は二人の心をつなぎ、帰り道を照らし続けてくれるのです。
一口メモ:中国ではその土地の広さから、各地で年越し料理に違いがあります。 たとえば温暖湿潤気候の南方ではコメがよく育つため、湯円(タンユエン)や、八宝飯(バーバオファン)といった米料理。西北部や内モンゴル、チベットなどでは、牛や羊の素材を生かした肉料理。地域色豊かな郷土料理は、都会で暮らす人々にとっては、一層特別な味なのです。
西木南瓜(さいき かぼちゃ)
SNSクリエイター・コラムニスト。名古屋在住。アジアの映画をこよなく愛する影迷(映画ファン)。上海外国語大学修士課程修了後、中国語講師を経て映画公式SNSの運用代行や宣伝企画、広告プランニングなどで活動中。
今回紹介した先生のコラムは『聴く中国語』2025年2月号に掲載しております。

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