近年、『呪詛』(2022)や『ガラ』(2025)など、台湾発のホラー作品が世界的に注目を集めています。今回ご紹介するのは、2025年9月19日から日本で限定上映された台湾映画『鬼才の道』。ホラー映画『返校 言葉が消えた日』で最優秀新人監督賞を受賞したジョン・スー監督が送る、ちょっぴり怖くて笑って泣けるオカルトコメディです。
映画のタイトルは本来の「鬼才」(=天才)の意味に加え、中国語で「幽霊」=鬼を示す言葉を掛け、「幽霊の才能」への道という二重の意味が込められています。
では、幽霊の才能とは何なのでしょうか?

©2024 Activator Co., Ltd.
配給:配給:JAIHO
主人公は、ワン・ジン演じる新人幽霊の少女。
弁護士や医者の家族に囲まれて育ちながら、失敗続きの人生のまま死んだ彼女が暮らすのは、現世そっくりの冥界。冥界でも現世のような社会秩序はそのまま。幽霊たちは遺族が焚き上げる冥銭(紙で模した金銭や日用品)、お供えの食べものといった現世からの「仕送り」を頼りに退屈な日々を送っています。
ただし、冥界には残酷なルールが存在します。遺族のお供えが途絶えたり形見が失われたりすると、冥界からも存在が消滅してしまうのです。
そこで幽霊たちは「幽霊会」に登録し、生きている人間を怖がらせて悪霊として認知を広げることで生き延びます。恐怖を覚えた現世の人々は供養のためにお焚き上げを行い、幽霊たちは幽霊会を通じて冥銭を得るのです。幽霊たちは冥銭を手に入れようと、最恐のお化けの称号をかけた賞レースを繰り広げます。主人公の少女は、現世で形見が捨てられ、怖がらせる才能もなく、消滅の危機に瀕します。そんなとき、落ち目の最恐幽霊「キャサリン」と出会い、逆転の物語が動き出します。

キャサリンに導かれ、少女が挑むのは冥界でベストゴーストを決める祭典「ゴールデンゴーストショー」。そこには、台湾怪談界の「有名人」が顔をそろえます。幽霊たちから一目置かれる「赤い服の女の子」は、ハイキング動画に映り込み、後に謎の死が相次ぐという実録系怪奇事件の主役です。「赤い封筒を持つ女性」は、未婚で亡くなった人を弔う“冥婚”の風習に由来し、赤い祝儀袋を拾った人を死者の伴侶にしてしまうコワ~いゴースト。また、裏切られ自殺した怨念が「林投(タコノキ)」という樹木に宿り、今もさまようとされる幽霊「林投姐(タコノキ姉さん)」も登場。冥界の祭典はレジェンドのオンパレードです。

劇中にはこのような台湾のローカル怪談ネタに加えて、日本ホラー・スリラー作品へのオマージュが豊富に盛り込まれているのも見どころのひとつ。例えば主人公の勝負服は『学校の怪談』シリーズなど、日本ホラーで定番の「セーラー服」。キャサリンのライバル幽霊ジェシカがまとう赤いドレスは、今敏監督のアニメ映画『PERFECT BLUE』でキーアイテムとなるステージ衣装を想起させ、今敏ファンをドキリとさせるでしょう。日台のホラーの「恐怖要素のクロスオーバー」が、本作の世界観に奥行きを与えています。
クスッと笑える賞レースの裏で、かつて一世を風靡した悪霊が民衆に忘れ去られ消えていく切ないシーンも。才能を開花させ幽霊会に貢献しても、「旬」が過ぎれば消滅は避けられない。主人公がキャサリンに「才能の有無は誰が決めるのか」と問いかけるシーンは、現実社会で生きる私たちの心にも突き刺さります。ジョン・スー監督の前作『返校』はダークホラーでしたが、本作では打って変わってブラックな笑いが満載。死んでも生きづらさは変わらないじゃないかといった皮肉たっぷりの怪談になっています。

一言メモ:劇中、誰が才能の有無を決めるのかという問いかけに、『鬼才知道』と答えるシーンがあります。この言葉は直訳すると「幽霊だけが知っている」、日本語で言えば「神のみぞ知る」という意味の常套句です。幽霊の彼女が言うことでたっぷり皮肉が効いていますが、映画の題名『鬼才之道』とも同じ発音で、作品のテーマを凝縮した言葉でもあるのです。
西木南瓜(さいき かぼちゃ)
SNSクリエイター・コラムニスト。名古屋在住。アジアの映画をこよなく愛する影迷(映画ファン)。上海外国語大学修士課程修了後、中国語講師を経て映画公式SNSの運用代行や宣伝企画、広告プランニングなどで活動中。
今回紹介したコラムは『聴く中国語』2025年12月号に掲載しております。





コメント