中国語語学誌『聴く中国語』は毎月、日本で活躍している中国の有名人や日中友好に貢献している日本人にインタビューをしています。
今回は「賀氏針灸」の賀偉先生にインタビューしました。針灸の神秘と魅力について伺ってみましょう!
皆さん、こんにちは。賀偉と申します。日本で「精誠堂」という針灸の病院を経営しています。
私は1989年に来日しました。80年代、中国が改革開放を進めている時期に、「走出去、请进来(外に出て行き、中に入ってきてもらう=国内外の往来を盛んにする)」という流れがありました。当時、中国に留学して針灸を学んでいる日本人同業者もたくさんいました。日本の針灸に対する理解は私たちとは少し異なるため、日本の針灸の世界がどんなものか見てみたいと思い、この流れに乗じて日本にやってきたのです。
――先生は中医学一家のご出身でいらっしゃいますね。先生が医学や針灸を学ばれてきた歩みについてお話いただけますか?
まさに「針灸」の家庭環境で、両親、そして兄と姉も針灸をやっていました。このような環境で育ったため、見たり聞いたりしているうちに自然に針灸に対して特別な感覚を持つようになり、針灸の道に進むことになりました。
東京の診療所で診察を行う賀偉さん
――針灸は日本の患者にどのくらい受け入れられているのでしょうか?
針灸の受容度ですが、針灸は主に実践医学であり、治療効果による部分が大きいです。治療効果があり、病を治すことができれば、国や民族を問わず受け入れられるでしょう。
精誠堂は2001年に設立されました。設立当初から主に日本人を対象にしており、いまも変わりません。当院は特殊で、針灸は疼痛治療を主としたものですが、当院には内科的な疾患を治療する患者さんもお越しになります。例えば、植物状態のような方でも、回復が見られます。パーキンソン病や突発性難聴などの方も、ほぼ100%症状が改善されます。
――針灸とはどのような原理なのでしょうか?
現在、わが国も多額の資金を投入して針灸の原理を研究していますが、現時点ではまだ明確ではありません。中医学は西洋医学と異なります。西洋医学では炎症があると分かれば抗炎症薬を飲ませたり、(科学検査の)数値を見て、どの患者に対しても同じ治療法を用いたりします。中医学は一人一人の個性を見つけ出し、その個性に基づいて具体的な治療を行います。
中医学では日常生活における症状について尋ね、あなたの体質が陰性か陽性か、寒性か熱性かを区別します。尋ねるのは普段の生活における常識的なことです。例えば、寒がりですか?暑がりですか?汗をかきますか?睡眠はどうですか?食欲はどうですか?排便や排尿はどうですか?頭痛はありますか?など、日常生活における感覚について尋ねるのです。
針灸は、人と人との交流を介するものです。針を通して患者の身体を刺激し、私の考えや要求などの情報を伝えるのです。これは針灸の非常に奥深く、言葉では説明できない感覚的で不思議な部分です。中医学の針灸には「必一其神,令志在针(ただ一途に精神を針に集中させなければならない)」という言葉があります。命令の「令」に、志向の「志」です。つまり、針に精神を集中させ、あなたの考えをこの針を通じて伝えていくということです。
――先生はこれまでどのような病気を治療されることが多かったのでしょうか?
当院は評判が広がり、普段は針灸院にかからない患者さんがたくさんお越しになります。ある末期がん患者さんはもう歩くことができず、(退院して自宅に)戻った後は椅子を持って数歩歩いては座って息をつき、また数歩歩くというような状況でした。
最初、私はこのような手の施しようがない患者さんを治療することに消極的でした。しかし、人生の最後に、針灸は彼らに一種の希望、生きる希望を与えるのです。針を打つと、患者の瞳は輝き始めるのです。
死を目の前にして、どんなに辛いことでしょうか。もし亡くなる3日前もなお生きたいと願う気持ちがあるのなら、その後意識がなくなり、臨終を迎えたとしても、軽やかに最期を迎えるということは幸せなことです。これはとても大切なことです。終末期の治療も重要なのです。
私が個人的に重視しているのは仏教です。仏教は「果報」を説くからです。人生が順調かどうかは、全て自分の行動によるのです。ですから患者に対しても真摯に向き合います。真摯さとは、自分の思いをすべて伝え、良心に恥じないようにすることです。
また私はお金を騙し取るようなことはしません。回数券や治療コースなどは行わず、一度の治療で治るなら、二度目は来なくてもいいのです。私の心にある理想とは、この一本の針を突き詰めることです。これが私自身に課した使命です。
将来の医学において、中医学は欠くことのできない重要な要素となるでしょう。今後、西洋医学が分析する対象はますます小さくなりますが、中医学は全体を見るマクロ的な視点を持っています。将来の医学においては、針灸も一定の地位を占めるでしょう。これは私の理想です。
――最後に中国語を勉強している読者の皆さんに外国語学習に関する経験をお話いただけますか?
言語の学習に関して、私は会話をすることが重要だと考えています。また言語を学ぶ際には、完璧な文章を暗記することが最も良い近道だと思います。会話における語彙の使い方や文法に関するものなどを覚えて、諳んじることのできるくらいまで覚えれば理解できます。中医学、特に針灸も同じです。しっかり暗記すると自然と(それまでと)異なる感覚が生まれ、理解も変わってきます。
――針灸の名手を育成するにはどれくらいの時間が必要ですか?
良い医師を育成するには10年かかるでしょう。最高峰の域に達するには、24時間、やりたいことに没頭しなければなりません。
最高峰の域に達するとはどういうことでしょうか?それは針を打った後、そこに美しさと感じることです。これが最高峰の域に達するということです。
――ありがとうございました!
賀偉
中国・北京生まれ。
北京中医学院(現・北京中医薬大学)卒業。
中国初の針灸の人間国宝である父・賀普仁に師事し、1989年来日。
東京医科歯科大学大学院で予防医学を専攻、早稲田医療専門学校卒業。
厚生省(現・厚生労働省)の針灸資格取得。
2001年、精誠堂針灸治療院を開院。
2016年、精誠堂 飯田橋 針灸マッサージ治療院を開院。
北京針灸三通法研究会理事。
日本針灸三通法研究会会長。
著書:『病気を防ぐ治す「針」の医学 』『ハリの威力』『なおりますよ、ウツ』
監修:『針灸三通法』『痛みの症状別針灸治療』
今回のインタビュー内容は月刊中国語学習誌『聴く中国語』2024年6月号に掲載されています。さらに詳しくチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2024年6月号をご覧ください。
コメント