全国通訳案内士への道~いかにこの不可解な試験沼にはまったか~⑪【実録!】中国語通訳案内士のリアル——現場の最前線から

中国語学習

初めまして。最近まで全国通訳案内士(以下、通訳案内士とする)という国家資格に6年かけて挑んだ五弦(名前の由来はコラムの最終回で種明かしします)です。私は2010年代に中国で勤務していた、現在は日本在住の40代日本人女性です。こちらのコラムでは「通訳案內士」に興味を持ってもらい受験生がもっと増加するといいな、という思いを込め「通訳案內士」に関する様々なテーマで書かせていただきます。

ここまで通訳案内士試験について多くを語ってきましたが、実際に合格後の仕事はどのようなものか気になりますよね。「中国語通訳案内士」は日本でも数が少なく、その実態を知る機会はほとんどありません。今回はその現場で活躍されているNさん(2023年度合格)に、リアルな仕事事情やキャリアの築き方、業界の課題まで、率直に語っていただきました。

登録しているだけでは仕事は来ない 

── Nさんは現在、関西を拠点に中国語の通訳案内士として活動されています。実際、中国語通訳案内士として稼働している人は、どの程度いるのでしょうか? 

Nさん:僕の知る限りですが、関西で実際に活動している中国語通訳案内士は5〜6人ほどです。東京でも何十人もいるとは思えませんね。非常に少ないです。エージェントに登録されている方はもっとたくさん、100名以上はいらっしゃいます。 

── 少ないですね……。その方たちとは面識があるのでしょうか? 

Nさん:SNSやメールでつながっている程度ですが、皆さんエージェントに依存せず、自分で顧客を開拓して営業しているタイプですね。待っているだけの人は多いけど、仕事がほとんど来ないのが現実です。 

業界標準の10社登録も、実際の依頼は数件 

── エージェントにはどれくらい登録されていますか? 

Nさん10社ほど登録しています。通訳案内士業界ではそれくらいが標準とされています。旅行会社が3社、残りは人材派遣系ですね。登録しても「中国語の仕事はありません」と言われ、連絡が来るのは本当に数件。英語案件ばかりで、中国語の仕事はほとんどありません。 

── 最初に受けた仕事も英語だったと伺いました。 

Nさん:そうなんです。FIT(個人旅行客)系の英語ガイドの仕事で、「中国語の資格者が英語でも対応できますか?」という依頼でした。日常会話程度でもOKとのことで、引き受けました。昨年は20数件ほど受けました。 

── そんなにあるんですね。1日あたりの報酬はどれくらいになりますか? 

Nさん:英語ガイドの場合は、6〜8時間で3.5万円前後。急な案件であれば5万円になることもあります。中国語ガイドは少し安くなる傾向があります。 

── お客さんの傾向にも違いがありますか? 

Nさん:英語圏の方は60代以上の夫婦や家族が多いです。一方、中国人のお客様は比較的若く、僕の中国駐在時代の元部下や知人関係が中心です。 

── 最初に個人で仕事を始めたときは、どのように顧客を見つけたのですか? 

Nさん:2024年2月に合格し、3月に免許登録しました。最初のうちは全く仕事がなく、ゴールデンウィーク頃に「待っているだけでは仕事は来ない」と実感し、自分から中国時代の人脈を辿ってツアーの提案を始めました。実際に中国に足を運んで「こういう活動を始めました」と告知したんです。彼らが日本に来た際に、ドライバーガイドとして日本各地を案内しました。駆け出しだったので最初はボランティアの形でやりました。沖縄を案内したり車で東北地方を回ったこともありましたよ。無料だったので多少の失敗も大きなダメージにはならず、むしろその経験が今につながっています。しばらくは赤字続きでしたが、やってよかったと今でも強く思います。リピーターや紹介で新たな仕事にもつながりました。 

浮かび上がる業界の課題と資格者の重要性

── 最近、中国語ガイドの需要が高まっているように感じます。 

Nさん:需要は増えていますが、「すぐに稼働できる人材」が圧倒的に不足しています。日本のエージェント側も必要性を認識していますが、供給が追いついていないのが現状です。 

── 業界にはどのような課題があるのでしょうか? 

Nさん:一つは「非正規なガイド業務」の存在です。特に白タクのような違法な運送サービスが観光現場で見られることがあり、安全面や保険の未整備が問題視されています。また、無資格ガイドによる誤った情報提供も指摘されており、「神社とお寺の違いが説明できない」といった例も現場ではよく耳にします。そういった背景から、資格を持ち、研修を受けたガイドへのニーズが高まっていると感じています。 

── Nさんは(通訳案内士協会を母体とする)通訳案内士予備校の理事も務めているそうですね? 

Nさん:関西での活動者が少なく、中国語対応ができる若手が必要ということでお声がけいただきました。 

── 中国の旅行会社から直接仕事を依頼されることもあると? 

Nさん:そうですね。情報がどこかで伝わったようで、直接依頼を受けることもあります。その方がスピーディーで、今後の広がりにも期待しています。 

── それはすごくいい流れですね。中国語通訳案内士が活躍できる場が、さらに広がっていくことを期待しています。 

Nさん:今はどこのエージェントも手一杯です。特に春と秋は。仕事はあるけれど、「じゃあ一体どれくらいの人がすぐ稼働してくれるの?」と。「事業を広げるなら、まずは足元を固めてくれないと、こちらとしても受けられない」といった具合です。中国語通訳案内士そのものの数が足りていない。なので、五弦さんもぜひ再チャレンジしてください(笑)。 

── お話を聞いていてちょっと再チャレンジしようかな、という気になっています(笑)。今後はどのような活動を考えていますか? 

Nさん:いろいろやってみて可能性を感じているのが「ドライバーガイド」です。空港まで送迎して、ゲストの行きたいところやリクエストに臨機応変に対応していくことが大変喜ばれています。今「大型二種免許」の取得にも取り組んでいます。今後は現場での仕事を少し減らしつつ、ランドオペレーター的な立場で通訳ガイドが働ける仕組みづくりにも関わっていきたいです。 

── 本日はありがとうございました。 

 

まとめ 

今回のインタビューで強く印象に残ったのは、「行動しなければ何も始まらない」ということ。中国語通訳案内士という希少な立場だからこそ、自ら動き、チャンスを切り開いていく姿勢が求められます。Nさんの行動力と工夫は、これから目指す人にとって大きなヒントになるはずです。次回は最終回ということで、「総まとめ&次の一歩」という内容でお送りします。 

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