中国語語学誌『聴く中国語』では中国語学習にまつわるお話をご紹介しています。
今回は日中通訳・翻訳者、中国語講師である七海和子先生が執筆された、「本当に伝えたいこととは?それを探そう!」というテーマのコラムをご紹介します。
執筆者:七海和子先生
日中通訳・翻訳者。中国語講師。自動車・物流・エネルギー・通信・IT・ゲーム関連・医療・文化交流などの通訳多数。1990年から1992年に北京師範大学に留学。中国で業務経験あり。2015年より大手通訳学校の講師を担当。

皆さん、こんにちは。七海和子です。
今回のテーマは「センテンスの意味を考える」です。
内容を理解するために単語を覚えたり、訳出をしたり、ということを皆さんもやっていると思います。では、皆さん、こんなふうに言われたらどのように訳しますか?
「東京に来ましたので、ちょっと時間があってお寄りしました」

このようなセリフって時々聞きますよね。まず、「東京」は“东京”。これは問題ないでしょう。「ついでに」は“顺便”でしたね。「お寄りしました」はちょっと難しいかも。「帰りに君のところにも寄るね」と言うときには、“回去时,顺便也要去你那里”と言えますから、ここも“去”でしょうか。いえ、ちょっと待ってください。全体の意味から、この場合よりも、もっと改まった場面のようですし、話し手のほうから相手のところに「来て」いますね。それなら「寄る」は「訪問する」と解釈したほうがよさそうです。「訪問する」は“拜访”でしたね。できました!“这次我们到东京来,今天有空,所以顺便来拜访您了。”
では、次は中国語を訳してみましょうか。
“近日,日本星巴克宣布将舍弃纸质吸管,转而使用生物可降解塑料吸管,以改善消费者体验并减轻环境负担。”

“星巴克”は皆さんお馴染みの「スターバックス」、“吸管”は「ストロー」(「吸う管」でストローってわかりやすい)、“生物可降解塑料”は「生分解性プラスチック(微生物などによって二酸化炭素と水に分解される、ごみにならないプラスチック)」ですが、「バイオマスプラスチック」のほうが分かり易いかもしれませんね。単語の意味はばっちり。では訳してみましょう。
「スターバックスコーヒージャパンは先日、紙ストローを廃止し、バイオマスプラスチックのストローに切り替えると発表した。これは、消費者体験の改善と環境への負荷を軽減するためだ。」

上記の訳、いずれも単語の意味どおりに訳しました。が、ちょっとここで、このセンテンスで「言いたいこと」は何かを考えてみましょうか。
まず、「東京に来ましたので~」ですが、一般的に「東京に来て、時間があまったから訪問しよう」とはあまりならないでしょう。日本的な考え方だと、あまりあからさまに言い立てたりしませんし、相手の負担にならないようにと、こんな言い方がよくされます。あれ?それなら、本心はちょっと違うのかも。だったら言葉どおりに訳してよいのでしょうか。次に逆の立場(訪問された側)ではどうでしょう。「ついでに訪問されて」うれしいでしょうか。日本人同士なら、このような言い方で全く問題ないと思うのです。でも、文化が違う中国人だったら?「え?ついでなの。ふーん…」と思われてしまうかも。では、こんなふうに訳してみたらどうでしょう。“我们这次到东京来,特地抽出时间来拜访您了”。「特に時間を作ってお訪ねしました」ちょっとこそばゆい感じがしますが、発話者の婉曲的な表現の裏側に隠された意味は、「訪問したい」という積極的な気持ちですし、訪問された側もこのように言われたほうがうれしいですよね。

“近日,日本星巴克宣布……”の訳ですが、「消費者体験の改善」とはなんでしょうか。この日本語を聞いたら、「うーん、分かったような、分からないような」となりませんか?皆さんがストローを使ったときの「体験」とはなんでしょう?自分がストローを使ったつもりで考えてみましょう。これ、つまりは「飲み心地」のことなんです。「スターバックスコーヒージャパンは先日、紙ストローを廃止し、バイオマスプラスチックのストローに切り替えると発表した。これは、消費者の飲み心地を改善し環境への負荷を軽減するためだ。」こちらの訳なら、意味がはっきりと分かりますね。

語学学習において、語彙を増やす(単語を覚える)ことはとても大切です。単語を知らなければ、意味を理解することができませんし、自分の言いたいことを表現することもできません。ですが、中国語は外国語。同じように漢字を使っているといっても、単語が1対1での対応関係にはならないことも多々あります。また、それぞれの国の文化や習慣の違いを理解せず、ただ、単語の意味だけで訳してしまうと、意図することとは違って受け取られてしまうこともあるのです。
言葉って奥が深いですね。そして、これこそが外国語を学ぶことの醍醐味! 目の前のセリフ、文章に込められた「ここで伝えたいこと」を考えることで、さらに表現力がアップしますよ!“更上一层楼(より一層の向上)”を目指して一緒にがんばりましょう!
今回紹介した七海先生のコラムは『聴く中国語』2025年7月号に掲載しております。





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