中国語語学誌『聴く中国語』では中国語学習における大切なポイントをご紹介しています。
今回は日中通訳・翻訳者、中国語講師である七海和子先生が執筆された、「読書の秋!中国語の本を読もう!」というテーマのコラムをご紹介します。
執筆者:七海和子先生
日中通訳・翻訳者。中国語講師。自動車・物流・エネルギー・通信・IT・ゲーム関連・医療・文化交流などの通訳多数。1990年から1992年に北京師範大学に留学。中国で業務経験あり。2015年より大手通訳学校の講師を担当。
天高く馬肥ゆる秋。やっと過ごしやすくなってきました。
秋と言えば、読書の秋!この機会に、皆さん中国語の本を読んでみませんか?『聴く中国語』にも「中国現代名作選(中国现代名作精选)」や「中国語で聴いて読もう『西遊記』(听读《西游记》)」というコーナーがあります。本文と一緒に単語とピンイン、意味が書いてあり、訳文もついているので、安心して読めます。これらの小説に慣れてきたら、中国語の原書に挑戦してみませんか?
原書を読む場合、中国の習慣や生活の様子を知らないと、理解できない部分が出て来るかもしれません。そんな時、調べてから読んだほうがスムーズな方もいるかと思いますが、途中でくじけてしまう原因の大半は「調べすぎて心が折れる」ではないかと思うのです。小説を最後まで読み通すコツは多少分からないことがあっても次へ進むことだと私は思っています。
そこで、まずお勧めしたいのが、日本の小説の翻訳版です。日本で話題になった本、有名な作家の小説なら、たいてい翻訳版が出ています。自分がかつて読んで気に入った小説があったら、翻訳版があるか探してみてはいかがでしょう。読んだことのある小説の翻訳版なら、すでに内容を知っていますから、知らない単語やちょっとよくわからない表現に出くわしたとしても、知識でカバーできるので、その部分をわりとスムーズにスルーして次に進めます。出てくるシーンも比較的楽にイメージすることができるでしょう。知っている内容でも、中国語で読むとまた新鮮な感じがして、そんなところも楽しめますね。そうこうするうちに、意外とすんなりと読み終わることができると思うのです。1冊を読み終えるというのは実はとても大切なことで、この成功体験が充実感と自信につながり、次も読んでみようかな、という気分にさせるのです。
翻訳版で自信がついたら、中国の小説にチャレンジするのもよいですね。短編集なら、ひとつひとつの話が短いので、気負わずに始めることができるのではないでしょうか。読み進めるうちにきっと知らない単語やよくわからない文章が出てくると思います。でも、いちいち調べないでください。今わからなくても、読み進めるうちにわかってくることも往々にしてあります。漢字のピンインなんてわからなくても構いません。無視無視!読み進めるうちに、なんとなく意味が掴めてきて、そのうちに頭の中でぼんやりとでも、情景がイメージできてきます。そうなったら、しめたもの!わからないところなんて気にならなくなって、読むのがどんどん楽しくなりますよ。読書はテキストの精読とは違います。読了後に物語の全体がわかっていて、皆さんの心に何かが残れば大成功なのです。
文章のボリュームは増えますが、映画化・ドラマ化された原作を読んでみるのもおススメです。これも翻訳版と同様で、すでに映像として見ているので、多少わからない部分があってもスムーズに読めます。また、「あのシーンをこんなふうに表現してるんだ!」とか、「ここは映画と違うけど、いいな」といった発見がいくつもあって、これまた新鮮さを味わうことができるでしょう。例をひとつ。2020年に中国で配信されて多くのレビューサイトで好評価を記録した《隐秘的角落》(邦題『バッド・キッズ 隠秘之罪』)をご覧になった方も多いのではないでしょうか。この原作は紫金陈の《坏小孩》という小説です。ドラマとはだいぶ違うのですが、あのゾワゾワ感は変わりません。興味のある方は是非。
番外編として、外国の小説の中国語翻訳版というのも楽しめます。例えばコナン・ドイル(阿瑟·柯南·道尔)の『シャーロック・ホームズシリーズ』(《福尔摩斯探案集》)などは、皆さんお馴染みの小説なので、手に取りやすいと思います。スティーブン・キング(斯蒂芬・金)原作の映画「ショーシャンクの空に」は人気の高い映画のひとつですが、こちらも翻訳されています(原作は『刑務所のリタ・ヘイワース』)。翻訳版は、《肖申克的求赎》。小説と映画と翻訳版を一緒に楽しめるなんて最高ですね!翻訳版には『スタンド・バイ・ミー』(《不再纯真的秋天 尸体》)も収録されていて、スティーブン・キングファンにはお得な1冊となっています。
こんな風にしていくと、原書を読むことの敷居がぐっと下がってくるのではないでしょうか。読書の秋!是非チャレンジしてみてくださいね。
今回紹介した七海先生のコラムは『聴く中国語』2023年10月号に掲載しております。
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