通訳のメソッドシリーズ:音声は筆より永遠に速し!(日→中編)

七海先生の中国語あれこれ

中国語語学誌『聴く中国語』では中国語学習にまつわるお話をご紹介しています。

今回は日中通訳・翻訳者、中国語講師である七海和子先生が執筆された、通訳のメソッドシリーズ:音声は筆より永遠に速し!(日→中編)というテーマのコラムをご紹介します。

執筆者:七海和子先生

日中通訳・翻訳者。中国語講師。自動車・物流・エネルギー・通信・IT・ゲーム関連・医療・文化交流などの通訳多数。1990年から1992年に北京師範大学に留学。中国で業務経験あり。2015年より大手通訳学校の講師を担当。

 皆さん、こんにちは。七海和子です。

 皆さんは、日本語を、もしくは中国語を聴きながらメモを取ったことはありますか?今日はリスニングしながらのメモ取りについてちょっとお話ししたいと思います。

まずは日本語から。こんな音声があったとします。

「日中の最高気温は富山市で24度1分、京都市で22度5分、東京の都心で22度1分、岩手県宮古市で22度ちょうど、高知市で20度9分などと、平年を5度から13度ほど上回り、4月中旬から7月上旬並みの陽気となりました。」

 できれば、皆さん、上記の文章を音読して、メモを取ってみてください。皆さんのメモはどんな感じでしょうか。こんなのどうでしょう?

 ものすごくがんばりました!ずっと手が動きっぱなしでしたが、そのおかげで、完璧っぽくないですか?上記の音声の内容をほとんど網羅できたし!では、このメモをもとに中国語に訳してみましょう!

 あれ?あれ?訳そうとすると、このメモをもう一度読み返して内容を整理しないといけないかも…。メモを見て中国語に訳すのはちょっと大変な気がしてきました…。

 では、こんなメモはどうでしょう?

 ずいぶんと文字数が少ないです。書いた本人にしか意味はわからないかもしれませんが、一つのセンテンスが一行にまとめられているので、わかりやすいように見えます。

 これなら、中国語に訳す時も、読み返しが必要ないので訳出に集中できそうです。音声の内容を自分なりにすっきりとまとめることができそうですね。

 タイトルで書いたように、どんなにがんばっても手の動き(筆記)は絶対に音声の速さを上回ることはできません。最初のメモのように、文字を使ってがんばって書いたとしましょう。一見内容がきちんと取れているメモのように見えますが、このようなメモを取ると、たいてい書くことに必死になってしまい、内容を理解することが疎かになってしまいます。また、先ほども書いたように、このメモだと、もう一度読み返さないと内容が頭に入ってこないのです。

 一方、下のメモは記号などを使って効率よくメモを取っています。他の人には理解できないかもしれませんが、これは議事録などと違い、誰かに見せるために書いているわけではないので、これでよいのです。

 例えば、「日中の最高気温は」と言われたら、「最高」では字数が多いので「MAX」と書いています。この音声では地名が続きます。ここは間違えられないので、自分が確実にわかる方法でメモを取ります。富山市の「富」は画数が多いのでひらがなの「と」で代用。名詞なので、名詞を表す○で囲みます。「东」の後ろにのような記号が書いてありますが、これは「東京の都心」と言っていたので、中心を表す二重丸を書いたものです。「22」は「22度ちょうど」の「ちょうど」を「Just」の「J」で表しています。「上回り」上向きの矢印を書けば、字を書かなくても先ほど聴いた内容を思い出すことができます。「名詞を表す○」とか「ちょうどを表すJ」などは、いずれも独自の決め事です。記号やメモ取りの方法も自分なりのやり方を決めておくと便利です。

 皆さんも、テレビなどで通訳者がメモを取っている場面を目にしたことがあると思います。通訳者は「メモを取りながら聴いている」のではありません。通訳者にとっては「聴いて理解し、覚えておく」ことが最重要。ですからそのことに集中しています。しかしながら、人間の記憶には限界があるので、それだけではカバーしきれないこと、また、数字や固有名詞など、正確性が求められるものをメモしているのです。

 上記のメモを見れば、中国語に訳す時も頭の中が整理しやすいので、こんなふうに訳すことができるのではないでしょうか。

今天白天的最高气温,富山市为24.1度、京都市为22.5度、东京都中心为22.1度、岩手县宫古市为22度整、高知市为20.9度。与往年相比,各地气温上升了5至13度,接近往年4月中旬到7月上旬的平均气温。

 このコラムでは、音声を聴いたときに「その内容を頭でイメージする」ことについて何度か書いてきましたが、メモを見たらそのイメージが思い浮かべられると訳出がスムーズになりますよ。

 もちろん、最初からサクサクとメモを取れるようになるわけではありません。通訳者でも自分なりのメモの取り方を確立するのにはそれなりの時間がかかります。でも、こんなメモ取りの方法や考え方を知っておけば、リスニング重視のメモを取れるようになると思うのです。次回は、中国語を聴くときのメモ取りについてお話ししたいと思います。それではまた、次号でお会いしましょう!

 


今回紹介した七海先生のコラムは『聴く中国語』2025年10月号に掲載しております。

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