中国語語学誌『聴く中国語』では中国語学習における大切なポイントをご紹介しています。
今回は日中通訳・翻訳者、中国語講師である七海和子先生が執筆された、「人の足を踏んで「谢谢」!」というテーマのコラムをご紹介します。
執筆者:七海和子先生
日中通訳・翻訳者。中国語講師。自動車・物流・エネルギー・通信・IT・ゲーム関連・医療・文化交流などの通訳多数。1990年から1992年に北京師範大学に留学。中国で業務経験あり。2015年より大手通訳学校の講師を担当。
「谢谢!」しか出てこなかった、かつての私
昔昔のこと、私は大学の春休みを利用して、友人と二人で初めて中国に旅行しました。最初に降りたったのは北京。当時は中国語をほとんど話せなかったので、コミュニケーション手段はもっぱら筆談。なので、メモ帳とボールペンは私たちの命綱、それなのに簡体字はあまりわからないという、そんなスリリングな旅でした。
ある日、私と友人は、バスに乗りました。当時の中国はマイカーなんて持っている人はいませんから、移動手段は自転車かバスか地下鉄。ですので、どのバスもいつも人でいっぱい!車掌さんが降りる駅だと私たちに合図をしたので(当時はバスに車掌さんがいたのです!降りる駅は車掌さんがマイクでアナウンスするのですが、当然ながら聴き取れないので、事前に降りる駅名を紙に書いて彼女に渡しておいたのです)、私たちは人をかき分けドアに向かいました。でも、すごい人です。私はたくさんの人の足を踏んでしまいました。その度に「谢谢!」「谢谢!」と頭を下げながら。
私だって、他人の足を踏んでおきながら「谢谢」はないな、と頭ではわかっています。でも、口が動いてしまうのです。当時の私がまともに言える中国語は
「谢谢」「再见」「多少钱?」
(でも答えは聴き取れない)くらいだったので、仕方がないと言えば仕方ありません。
が、間違っているとはいえ、反射的に「谢谢」が飛び出すってすごくないですか?「ごめんなさい」でも、「Sorry」でもなく、ちゃんと中国語が出てきているのです(自画自賛(笑))。
中国語を自然と話すようにするには?
こんな風に中国語が自然に口から飛び出たらいいですよね。
ま、意味が合っていたら尚良し!なんですが。でもこの感覚、中国語の例文暗記に使えるのです。
例えば……
「我想去又不想去,有点儿定不下来」。
(行きたい気もするし、行きたくない気もするし、ちょっと決められないな)。
……こういう気分って誰しもありますよね。
これをただの例文として覚えるのではなく、気分ごと、いつ使うかを想定して覚えてみましょう。
何度も何度も繰り返すたび、この気分も蘇らせましょう。
語学の習得は、自転車の練習に似ていると思います。
最初はハンドルもグラグラして安定しないし、ペダルを漕ぐ足もぎこちないですよね。頭の中で「バランスとって、ハンドルは安定させて、左右のペダルをリズムよく漕ぐ」などと、自分のやらなければならない任務を頭の中で考えてしまいます。でも、こんな風に考えているうちはなかなか上達しなくて、練習して練習して、身体が覚えたら、すいっと乗れてしまうでしょう?
語学学習も同じように思います。「我想去又不想去,有点儿决定不下来」も「主語が『我』で動詞が『想』で、『又』を使って…」なんて考えていたら、あっと言う間に時間がたってしまい、これを使う機会を逃してしまいます。
例文を自分の状況に合わせるのが近道!
とにかく気分ごと、この例文を丸覚え。気分ごと、というのが大事で、気分も感情も乗せずに覚えていると、その例文は「ただの例文」、他人事の内容で終わりがちです。
「ただの例文」は頭では覚えているけれど、いざ、使える場面になっても思い出せないものです。
せっかく覚えるなら、自分がこの言葉をいつ使うかを想定して、イメージや気分もその例文に乗せて覚えれば、他人事だった例文も自分のものになっていきます。
そうすると、使いたい時に「あれだ!」と思い出せるようになります。そのうちに、脳に確実にインプットされて、私の「足踏み谢谢」のように、口からパッと出るようになると思います。ま、「足踏み谢谢」は根本から間違ってはいますけれど。
どのような例文でも、探せば何かしら自分との接点があるのでは?そこから
「これを使うのはどんな気分の時か、どんなシチュエーションか」を想像すると覚えやすいですよ。
また、例文の中の単語をより自分の状況に合わせて変えてみるのもよいですね。例えば、「教室」を「公司」に変えてみたり、「走路」を「骑车」に変えてみるなど、
例文の構成は壊さない程度に自分仕様にするとさらに覚えやすいし、例文自体に親しみが湧いてくるでしょう。
中国語がぱっと言えるようになるのは、そんなに簡単なことではありません。が、例文(表現方法)を覚えるのは、とても有効な方法です。例文をいかに自分の生活に引き寄せるか、その表現に自分の感情を乗せられるかによって、脳への刻まれ具合が違ってくると思います。
皆さんの脳にガンガン中国語を埋め込んでいってくださいね。
今回紹介した七海先生のコラムは『聴く中国語』2023年12月号に掲載しております。
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