北京留学中、姉の話をしていると、相手に「実姉」か、「従姉」か問われたことがありました。日本では「姉」といえば「実姉」ですが、「大家族主義」の中国ではそうとも言い切れません。そこで今回は、日本と少し異なる中国の家族観についてご紹介します。

今回取り上げる作品は、2021年放送の中国ドラマ『愛すべき私たちへ~The beautiful days~』(全12話)。東北で生まれ育った幼馴染4人組が、北漂(北京で働く地方生まれ)として苦楽を共にしていました。ある日、そのひとり晶晶(ジンジン)が突然自殺。残された3人は自死の真相を探るうち、自分の人生について見つめなおしていきます。

コロナ禍の中国社会を生きる独身女性の葛藤を、経営者、正社員、派遣社員と4人の異なる立場からリアリティたっぷりに描く人間ドラマ。あまりのリアルさに毎話「これ私の話じゃん!」と視聴者は泣き笑い。親友の死を含め脚本家の実体験を反映させた、半自伝ともいえる作品です。
婚活やルッキズムと日本でも共感を呼びそうなテーマが目白押しですが、親族意識が強い中国ならではの表現も垣間見ることができます。
たとえば、4人の幼馴染のうち南嘉(ナンジア)と晶晶は、いとこ同士。大切なひとり娘を亡くし、憔悴する晶晶の母親に姪の南嘉が、もう一人の娘のように育った「私がいるわ」と慰めるシーン。
拡大家族を理想とする儒教が重んじられてきた中国では、今でも親戚同士の関係性がとても強固。晶晶と南嘉と同じく、実の兄弟姉妹のようにいとこと育つ環境は一般的です。親族名称が父方と母方で分けられているのも、頻繁に会う親戚の続柄を明確にするため。どうりで私の北京の友人が「姉」と聞いて、実姉か従姉か気になったわけです。
とはいえ、中国でも次世代にもこの家族観が受け継がれているわけではありません。地方から大都市への流動人口が増え続けた中国は、親戚との関係を断つ意味の新語「断親」が生まれるほど核家族化が進行しているのです。
主な原因は、家族観を含めた親世代との価値観の差。ドラマでも、晶晶を自死に追いやった要因のひとつとして描かれています。
晶晶へ頻繁に経済的援助を求めていた晶晶の母親。彼女は末娘として兄姉に甘えながら育ったため、姉の子供である南嘉に自分の娘(晶晶)も頼るだろうと見込んでいたのです。しかし、晶晶は母親を拒絶することも、南嘉に頼ることもできず。結果的に金銭面でも、精神面でも追い詰められました。
都会の波に揉まれ、いつしか一人で生きることに慣れた4人。遠く離れた故郷で暮らす家族との結びつきの強さは、彼女たちの心を時にキツく締め上げ、時に優しく包み込むように描かれていました。
固結びになった家族との関係は、「断ち切る」のではなく、ちょうど良い緩さに「解く」ことはできないのでしょうか。
岐路に立たされた彼女たちの出す答えは、まるで写し鏡のように視聴者にも人生を見つめなおすきっかけを与えてくれます。
一口メモ:中国では、晶晶のように、子が親より先に旅立つことを「白发人送黑发人(白髪が黒髪を送る)」といいます。白髪になり老いた世代が、まだ髪も黒く若い世代を見送る。直接的な表現ではなくとも、読むとその情景が浮かび、胸が締め付けられる表現ですね。
それではまた、次号でお会いしましょう。再見!
西木南瓜(さいき かぼちゃ)
SNSクリエイター・コラムニスト。名古屋在住。アジアの映画をこよなく愛する影迷(映画ファン)。上海外国語大学修士課程修了後、中国語講師を経て映画公式SNSの運用代行や宣伝企画、広告プランニングなどで活動中。
今回紹介した先生のコラムは『聴く中国語』2024年12月号に掲載しております。

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