『隐秘的角落』と『ゴールドボーイ』、ちょっとだけ『坏孩子』

コラム

中国語語学誌『聴く中国語』では中国語学習における大切なポイントをご紹介しています。

今回は日中通訳・翻訳者、中国語講師である七海和子先生が執筆された、『隐秘的角落』と『ゴールドボーイ』、ちょっとだけ『坏孩子』というテーマのコラムをご紹介します。

執筆者:七海和子先生

日中通訳・翻訳者。中国語講師。自動車・物流・エネルギー・通信・IT・ゲーム関連・医療・文化交流などの通訳多数。1990年から1992年に北京師範大学に留学。中国で業務経験あり。2015年より大手通訳学校の講師を担当。

中国の大ヒットドラマ『隐秘的角落』が日本版に!

皆さん、映画『ゴールドボーイ』はご覧になりましたか?私は上映最終日にやっと観ることができました!あの中国で大ヒットを記録したドラマ『隐秘的角落』が日本で映画化されたのがこの『ゴールドボーイ』です!今後動画配信サービスでの配信もあるかと思いますので、ネタバレしないように注意しながら、今回はその感想などを書いてみたいと思います。

『隐秘的角落』は『バッド・キッズ 隠秘之罪』という邦題で日本でも見ることができます。夢中になった方も多いのではないでしょうか?でも、ですよ。これがそのまま映画化されたと思って『ゴールドボーイ』を観ると「えぇ~っ!」となるので、映画鑑賞の際は、『隐秘的角落』のことは忘れ去ってください。

『隐秘的角落』は必見の傑作ドラマ

中国の原作「坏孩子」
日本でも「悪童たち」(早川書房)でノベライズ化された

『隐秘的角落』の原作は紫金陳の書いた『坏小孩』です。これは本当にハラハラドキドキズキズキする話で、ページを繰る手が震えるほどすばらしい小説なのですが、ドラマ『隐秘的角落』こそが、原作とは別物なのです[登場人物の名前も一部違っていますし(←これについては、他のドラマと合わせて語りたいことがたくさんあるのです!!)その関係性もかなり変更されています]。

個人的には、『隐秘的角落』は原作を超えたと言ってもよいほどの傑作ドラマだと思っています。3人の子供たちの演技の深さもさることながら、主演の秦昊(Qín Hào)にも圧倒されます。そして、脇を固める俳優たちの上手さ!また脚本が秀逸で、原作にはない設定から生み出される、もの悲しさ、どうしようもなさが心に迫って、原作を読んだときとは違う感情に揺さぶられます。

『ゴールドボーイ』はどうだったか

さて、そこで『ゴールドボーイ』。私が一番ホッとしたのは、あまりに中国的で日本名に変えられない名前以外は原作に近い役名が使われていたことです。朱朝阳は安室朝陽、张东升は東昇というように。朱朝阳が「杉浦修三」(誰?(笑))みたいな名前だったら、もう最初から「あぁ~!なんか違う!」となってしまって、映画の世界に入れなかったでしょう。

次に「安室(あむろ)」という姓でわかるように、舞台が沖縄であったこと。絶妙に異国情緒の漂うこの土地が、『隐秘的角落』の雰囲気をそのまま纏っているのです。特筆すべきは安室朝陽の部屋。これはドラマの朱朝阳の部屋の空気感そのままで、ゾクッとしました。(変に近代的なマンションではなくて本当によかった!)

空気感と言えば、先ほども書きましたが、この映画の舞台は沖縄です。一般的には「沖縄」と聞くと、明るく陽気で暖かなリゾート地を連想するように思います。私はそうです。が、この映画では、漂う異国情緒や、風景は沖縄を感じさせてくれるのに、沖縄の温度がまったく感じられないのです。風景は沖縄なのに空気は冷えている、陽光は十分に降り注いでいるのに、体は全く温まらない、そんな感じ。そのため、スクリーンに美しい海や、リゾートホテルが映し出されてもウキウキ感ゼロ。それがまた、「何かよからぬことが起きるのでは…」と観ているこちらを不安な気持ちにさせるのです。

脚本が日本の実情に合うように改編されていたため、観客が不自然に思うところも少なかったと思います。例えば、原作とドラマでは朱朝阳の母親は郊外の「景区」(観光地)に勤めていて、何日かに一度帰宅するという設定ですが、映画では、リゾートホテルに勤務で夜勤あり、となっています。日本が舞台というのであれば、こちらのほうが自然でしょう。ほかにもありますがネタバレになりそうなので、言いたくてウズウズしますが省略します。

もちろん、原作約31万字(452ページ)、ドラマ12話(1話約40分)を2時間9分に凝縮するので、ストーリーが薄くなってしまったところや、ツッコミたくなる部分があるのは否めません。が、それを差し引いても楽しめる映画であることは間違いないと思うのです。

ネタバレにならない程度に。最近、岡田将生は悪役とかいやな役に積極的に取り組んでいるようですが、『ゴールドボーイ』でも相当な「とんでもないヤツ」を好演しています。色白で端正な顔が極悪非道っぷりを際立たせていい感じです。子供たちの演技も光っているので、そんなところも見どころとして挙げておきますね。

もし今後配信されたら、是非一度ご覧ください。おすすめです!

今回紹介した七海先生のコラムは『聴く中国語』2024年7月号に掲載しております。

コメント

タイトルとURLをコピーしました