台湾華語の旅

コラム

 

 大家好!また一ヶ月ぶりとなります。私は今月機会があって、台湾を訪れました。旅先で感じたことや出会ったリアルなフレーズについて、皆様にお話してみようと思います。

1984年天津生まれ。14歳で来日。日本の中学、高校を卒業後、慶應義塾大学、同大学院へ進み、中国文学専攻で学ぶ。専門は中国語学、認知言語学。現在は中国語の文法に関する研究を行う傍ら、関東圏の大学で中国語を教える。自身が十代の頃に日本語という大きな外国語の「壁」にぶち当たった経験から、ことばの意味や外国語習得に強い関心をもつようになる。趣味はドラマ鑑賞、外国語学習。これまで、日本語や英語以外に、韓国語、フランス語、ドイツ語の学習歴をもつ。近年、言語学に関する書物を読みながら、生涯続けていける、楽しい外国語の学び方を日々模索中。単著に『勉強するほど面白くなる はじめての中国語』(2023年 新星出版社)、共著に『認知言語学を拓く』(2019年 くろしお出版)などがある。

 私にとっては今回が初めての台湾訪問で、台北の食べ物や街の景観、そして何といっても「ことば」が終始新鮮に感じ、街を歩いているだけでウキウキが止まりませんでした。

 宿泊先に選んだのは中山駅に近いホテルですが、なぜそこを選んだかというと住所に「〇〇ホテル 天津店」と書いてあったからです。天津生まれの私にとってこれは特別でした。なぜ台北なのに「天津」なんだろう?と不思議でしたが、行ってみたら謎が解けました。そのホテルが「天津街」とよばれる街に位置しているからでした。「天津街」は実際の天津の街より古めかしく、のんびりした素敵な雰囲気の場所でした。飲食店も多いのでオススメです。

 ある日、台北でバスに乗ろうとバス停に立っていると、今度は「承徳」行きと書いてあるバスが頻繁に通り過ぎていくのを目にしました。「あっ、承徳だ!これはまた懐かしい」と思ったのですが「承徳」といえば、天津の人がよく夏に訪れる避暑地で、涼しい上に自然が美しく、かつ名所旧跡も多い観光地です。子どもの頃家族で訪れたことがあり、私にとって思い出の街です。それを思い出したからか、台北のバス停に佇みながら一瞬天津にいるような錯覚に陥っていました。そんなはずはないとすぐに我に返り、これは本当の「承徳」に行くバスではなく、「承徳の名前を冠した街に行くバス」だと理解しました。台北の街はそんな懐かしさを感じさせる一面もあり、ワクワク感とノスタルジーが共存している印象を受けました。

 「台湾華語」を実際現地で聞くと、やはり想像以上に「やさしい」感じがしました。なぜそう聞こえるのかはわかりませんが、音の響きが柔らかいと感じました。巻舌音やr化、軽声がほとんどないことと、音の響きはどのように関係しているのでしょうか。旅行中、興味本位で現地の喋り方を真似、数字の“二(èr)”を台湾華語式に「è」と発音してみましたが、うまくできませんでした。北京語ベースの“普通话”が話せるからといって、台湾華語も直ちに話せるわけではないことに気づきました。これはこれで長い時間をかけて習得する必要があります。

 文法の面で特に気になったのは、用いる語彙が普通话と異なることが多いという点です。ある日ホテルで清掃の時間となりましたが、まだ部屋にいたので清掃を担当されている方に、“您等一会儿再来”(しばらくしたら、また来てください)とお伝えしたところ、その方はすぐ、“好,我等一下再来”(わかりました。また来ます。)と答えてくれました。私の“等一会儿”が“等一下”に言い換えられたため、瞬時に台湾華語ではr化の音をもつ“一会儿”はあまり出番がないのではないかと意識しました。確かに“等一会儿再来”が“等一下再来”になっても、意味はあまり変わりません。強いて言えば、“等一会儿”のほうは「しばらくの間」という時間の部分に注目しているのに対し、“等一下”は命令の語気を和らげる働きが強いといえるでしょう。

いくつかの活用例を挙げてみます。

形式ちょっと待つちょっと見るちょっと考えるちょっと寝る
動詞+一会儿  等一会儿看一会儿想一会儿睡一会儿
動詞+  等一下看一下想一下睡一下

動詞“睡”(寝る)の場合、“睡一下”はちょっと言いにくい気がしますが、台湾華語では成立するそうです。

 一方、“一会儿”は動詞の前に来るとき、例えば“一会儿见!”(また後で)というフレーズのように、「しばらくしたら〜する」という意味があります。この場合、台湾華語ではどう言い表すのでしょうか。“一下见!”になるでしょうか。皆様ぜひ今度台湾に訪れる際ご自分で発見してみてください。

 語彙の差でもう一つびっくりしたのは、助数詞(“量詞”)の使い方です。台湾に行ったら一度食べてみたいものは、コンビニで売っている八角や醤油で長時間煮込んだ「茶色の殻付きたまご」です(笑)。ある日コンビニに入り、それを買おうとしたら、“兩顆茶葉蛋+19元喝指定飲品”(二個買えば、プラス19元で、(25元の)指定飲み物が飲める)と書いてありました。その安さよりも、たまごが“个(個)”ではなく、“”で数えることにびっくりしました。“普通话”における助数詞の“颗”は、“一颗星星”“一颗心”のように“星”や“心”に使うやや文言的な語だが、台湾華語における“颗”は“个(個)”の代わりに使えるということでしょうか。手元の『もっと知りたい 台湾華語』(張茹著、白水社、2021年)を調べたら、“颗”を「粒状のものを数えるときに使う」と解釈しています。この本では“汤圆”(あん入り団子)も“颗”を使って計量しています。このほか、「水餃子」も“颗”で数えることを突き止めていますが、これらは「粒状のもの」なのかは少し微妙です。

 同じ中国語とはいえ、こうしたちょっとした言い方の差が無数あって、それでも、筆者とその清掃員さんのように、ちゃんと通じるのは面白いですね。日本語でも関東と関西のことばはこうした関係にあるのでしょうか。

 ではまた次回お会いしましょう!

今回紹介した先生のコラムは『聴く中国語』2024年12月号に掲載しております。

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