「漢服」大解剖!中国の若者はなぜ漢服が好き?

中国大接近

中国語語学誌『聴く中国語』では毎月、中国の今を知る特集「中国大接近」を中国語と日本語で掲載しています。今回は2022年11月号の中国大接近の内容を日本語でご紹介します。

 少し前、劉亦菲(リウ・イーフェイ)主演の時代劇『夢華録』が中国で人気となり、劇中の漢服の装いを真似るファンが続出し、若者の間で漢服ブームが巻き起こった。近年、漢服文化は「90後」や「00後」世代にますます支持されており、昨年11月に広州市で行なわれた漢服フェスティバルには、計24チーム・数百人が参加した。今年3月に雲南省で行われた第4回漢服花朝(注:旧暦の2月12日に百花の誕生日として花神を祭る)祭りでも、1万人を超える漢服愛好家がイベントに参加し、ネット上はその話題で盛り上がっていた。

ドラマ「夢華録」

漢服とは?

 漢服とは「漢民族の伝統衣装」のことだ。漢服はこの20年で、「マイナー」文化から、徐々にメジャー文化の寵児へと変化していった。インフルエンサーの李子柒、「不倒翁(起き上がりこぼし)小姐姐」皮卡晨、「湯圓姐姐」敖珞珈などがネット上で漢服の「バズり」を牽引。中国のSNS「微博(ウェイボー)」では、ハッシュタグ「漢服」のトピックが70億PVを達成。中国版TikTok「抖音」では、「漢服」関連のショートムービーの再生回数が600億回を超え、中でも漢服の日常コーディネートをシェアするショートムービーが一番人気だ。今では、政府部門、文化機構、芸能人の出演するバラエティ番組なども「漢服」とコラボしてブームを盛り立てており、100億人規模の漢服市場が既に成形されていると言われている。

敖珞珈

漢服の特徴

 多くの人が漢服を愛する理由は、まず漢服そのものの美しさにあることは否定できない。豪華で美しい髪飾り、色とりどりの上着スカート、金銀の糸で縁取られた刺繍……スタイルも図案も、若者の好奇心と注目を集めるのに十分だ。以下では、漢服の様々な形状と時代ごとの特徴について見ていこう。

 漢服の形状は主に「深衣」(上衣と袴状の下衣を縫い合わせてあるもの)と「上衣下裳(cháng)」(上衣と袴状の下衣が分かれているもの)に大別される。これらはTPOに応じて、大切な儀式のときに着る「礼服」、外出時に着る「常服」、それに在宅時に着る「便服」に分けられる。

 スタイルと機能という観点からは、「内衣(下着)」、「中衣(シャツ類)」、「外衣(上着)」、「罩衫(羽織物)」、アクセサリー、「首服(頭部の装飾)」、「足衣(足袋)」などに分類できる。「罩衫」は「褙子(両脇に深いスリットが入った羽織)」、「大氅(オーバー)」、「褙心(チョッキ)」、「半臂(半袖の羽織)」、「斗篷(マント)」の5種類に、「首服」は「冠冕(位の高い者がつける冠)」と「巾帽(頭巾、帽子)」類に分けられ、「足衣」は靴下だと考えればよい。

漢服の発展

 漢服の定型は周の時代に生まれ、秦・漢に引き継がれ、隋・唐・五代にかけて完成された。隋・唐時代の漢服のスカートは、ウエストを高い位置、多くは胸の上で結び、あかぬけてすらりと見えるようにしていた。唐代には男性の間で、丸襟で襟が外側に反った「袍(長衣)」を着用し、腰に「蹀躞(dié xiè)帯」を締めるのが流行っていた。

 五代の頃の女性用漢服はさらに大胆で艶やかになり、ゆったりしたスタイルになっていった。貴族の女性の漢服は贅が尽くされ、化粧も精緻で凝ったものが施された。

 宋代には漢服のデザインと配色が清楚で上品な方向に向かい、細身ですらっとして端正なものが美しいとされた。女性は「褙子」を、男性は「氅(chǎng)衣」を好んで着用した。

 明代には女性の間で「披風(ケープ、マント)」や「比甲(ジレのような袖なしの長チョッキ)」に「長衫袄(長袖の長い上着)」や「馬面裙(城壁の「馬面」のようなひだが両側についたスカート)」を合わせるのが流行した。男性の場合は「飛魚服」、「麒麟服」、「闘牛服」、「蟒(インドニシキヘビ)服」などが最も代表的な服装だったが、これらはいずれも皇帝からの賜り物で、皇帝から目をかけられているという栄誉と身分を象徴するものだった。

 現在、中国各地、特に観光地周辺では、漢服のレンタルとそれに合わせたメイクを提供するショップが至るところにあり、観光客は漢服写真や漢服のウェディングフォトを撮ることができる。これは日本の着物体験と似ている。また、今は多くの若者が、漢服のエッセンスを現代ファッションに大胆に取り入れ、漢服の趣を残しつつも日常的に着用できる、いまの美的感覚にマッチしたニュースタイルの漢服を生み出し、伝統衣装に新たな革新を巻き起こしている

漢服に関する祭り

 以上のことから分かるように、漢服普及のムーブメントの本質は、中国服飾文化の現代化でもある。このムーブメントがある程度の規模になったのは、現代中国で物質文化が高度に発展したことと無関係ではない。中国が経済発展を遂げるにつれ、生活に必要な最低限の需要を上回る消費ニーズや購買力を持つ中国人が増えくると同時に、自身のアイデンティに対する意識も高まっていった。民族の伝統文化の現れである漢服は、こうした欲求にちょうどはまる存在だったのだ。伝統的でいて現代的、華美でいて独特な漢服に、美を愛するすべての人は多かれ少なかれ心を動かされた。大勢の中国の若者が漢服愛好家になった根本的理由はそこにある。読者の皆さんも、中国に行く機会があれば、ぜひ漢服を着てみてほしい

今回の内容は『聴く中国語』2022年11月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2022年11月号をご覧ください。

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