うっちーの中国語四方山話⑪ 「苦」は最高??–中国語の数字の話(1)

コラム

中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。

今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶一先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点から⑪ 「苦」は最高??–中国語の数字の話(1) をご紹介します。

 日本語では「4」と「9」はあまり好い数字ではないとされます。それは「4」は「死」に、「9」は「苦」に通じるからです。

 では、中国語ではどうかと言いますと、「4」は“四喜”(“久旱逢甘雨=長い日照りの後の恵みの雨,他乡遇故知=他郷で知人に会う,洞房花烛夜=新婚初夜,金榜挂名时=科挙試験の合格発表で名前が載っている時”と詩に読まれる四つの喜び事。また、“划拳”という酒の席でのじゃんけん遊びでも“四喜”は縁起のいい掛け声です)とか四样(中国では贈り物は4つが良いとされます)のように必ずしも縁起の悪い数字ではありません。麻雀でも“大四喜”“四喜和”は「役満」です。    

  「9」に至っては実は中国語の数字の中では「最高」の数字になります。

 中国最古の医学書である『黄帝内軽』の「素問」篇には“数始于一,终于九”(数は1に始まり9に終わる)とありますが、基本数字(1から9)の中で最高の数は9なのです。(9のあとは位が上がり、また10,11と始まるわけです)

例えば、“九天”“九重天”“九霄”はいずれも「天の最も高いところ」を指しますし、“九泉”とは地下の最も低いところ、つまり「黄泉(よみ)の国」「冥土」「あの世」のことです。

 北京の故宮は元は「紫禁城」と呼ばれ「天子(皇帝)」が居た場所ですが、その故宮にある入り口の「門」の「門鋲」は縦横それぞれ9つずつで9×9、すなわち81ありますし、故宮の部屋の数は9999間半あると言われています(何故9999に「半」が付くのかは分かりませんし、実際には8704間らしいですが)。つまりは、天子は最高の地位にあるから「9」に拘るのでしょう。また、北京は元々城壁で囲まれていました(今は全て取り壊されています)が、城門は“正阳门”“崇文门”“宣武门”“朝阳门”“东直门”“阜成门”“西直门”“德胜门”“安定门”の全部で9つの門がありました。

 日本の結婚式では昔から「三三九度の杯」を交わす習わしがありますが、これも3×3=9で夫婦が末永く最高の契りを交わすと言うことに由来するものでしょう。

 なお、「9」は「究」にも通じますが、「究」の元の意味は「お尻」ということです。人の器官の最後の場所、つまり「とどのつまり」で、そこから「究極」という言葉も生まれてきます。

また、「9」には多いという意味もあります。

 “九曲黄河”とか黄河は9回曲がりくねるということではなくて、曲がりくねっている場所が多いということですし、中国の古代春秋時代の斉の桓公は“九合诸侯”した(九回諸侯と集まって盟約を行った)と言われていますが、ここの「9」も実際の数字の意味ではなく「何度も」という意味です。この他、“九牛一毛”の“九牛”も同じことです。

 縁起のいい数字と言えば、「8」もまた好い数字です。8」は広東語などの南の音では“”に通じ、“发财”(金持ちになる)ということから、香港などの金持ちのベンツのナンバーには「8888888」というのもよく見ますし,携帯の番号も「8888」などは極めて高い値段で売られています。実は「8」は日本でも「末広がり」で極めていい数字です。

ちなみに、日本が過去に戦争を始めた日は「8」の日が多いということで、中国の言語学者の王力という人が以下のような文章を書いています。

 日本军人的择日,大约也是从数目上着眼的。他们特别看中了“八”字。沈阳事变是九一八,淞沪之役是一二八,卢沟桥事变是七七的深夜发动的,在他们看来也许是七八。他轰炸南苑,占据北平是在七月二十八日。甚至第一次轰炸昆明,也择定了九月二十八。读者一定可以帮我们找出更多的证据,然而我还可以举出最近的一件大事:日本对英美宣战,却也选中了十二月八日。我们不相信这一切都是偶合,但是我们也不想作任何批评。只有一句话是可以说的:咱们中国人也不是世界上最迷信的民族。(王力:〈迷信〉)

内田 慶市(うちだ けいいち)/1951 年福井県生まれ。博士(文学)・博士(文化交渉学)。専攻は中国語学、文化交渉学。福井大学教育学部助教授、関西大学文学部・外国語学部教授、大学院東アジア文化研究科教授を歴任。2021年関西大学外国語学部特別契約教授定年退職。東アジア文化交渉学会常任副会長( 2009 年~)、中国語教育学会理事( 2016年3月~2020年2月)、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター長( 2017年4月~)、日本中国語検定協会理事長(2020年6月~)。主著に『近代における東西言語文化接触の研究』(関西大学出版部、2001)、『文化交渉学と言語接触─中国言語学における周縁からのアプローチ』(関西大学出版部、2010)、『漢訳イソップ集』(ユニウス、2014)などがある。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2025年2月号に掲載しております。

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