インタビュー!SF作家・梁清散さん

インタビュー

中国語語学誌『聴く中国語』は毎月、日本で活躍している中国の有名人や日中友好に貢献している日本人にインタビューをしています。

今回は、中国現代SF小説作家の梁清散さんにインタビュー。梁さんのユニークで奇想に満ちたSF作品について、お話を伺ってみました!

 皆さん、こんにちは!梁清散です。北京生まれで、昨年来日しました。

 私は生粋の北京っ子と言っていいでしょう。大学では環境工学を専攻していました。化学工学系ですね。小説とはまったく関係ない分野です。本科卒業後はそのまま就職しました。本当はイギリスに留学する予定で、手続きも済んでいたのですが、ちょうどその年に「SARS」が流行して行くことができませんでした。仕方なく就職し、室内の空気品質の検査する仕事をしていました。リフォームや新築後の建物の空気を検査する仕事です。数年働いてみて、やっぱりあんまり面白味がないと感じて、仕事を辞め、専業で小説を書き始めました。

 創作を本格的に始めたのは2007年です。2003年に働き始め、4年後に退職して専業の作家となりました。ただ、小説を書き始めたのはもっと早くて、小学生の頃にはすでに書いていました。子供の頃から物を書くのが大好きで、よく「大人になったら何になりたい?」と聞かれると、第一に「アインシュタインのような科学者になりたい。もし科学者になれなければ、作家になりたい」と言っていたんです。そして、今はまさかのSF作家になっています(笑)。小さい頃に書いていたのもSF小説でした。

 おそらく、ある推理小説を書くときにこのスタイルが出来上がったかと思います。『枯葦余春』という作品です。その主人公は『済南的風筝』や『沈黙的永和輪』などの作品にも登場しています。同じようなスタイルで、文献による推理が特徴です。私はこれを「学術偽造小説」と呼んでいます。というのも、作品に登場する文献の一部は本物で、一部は私が当時の社会背景に基づいて創作した文献だからです。

 実は、このスタイルのインスピレーションを得たのは、ある学術書がきっかけでした。『スマトラの郁達夫』という、日本の学者(鈴木正夫)が書いた本です。郁達夫は太平洋戦争勃発の前夜にシンガポールからスマトラに逃れ、スマトラで4年間生活しました。この本では彼が1945年に殺害される前の、その最後の4年間について書かれています。

 その著者は当時まだ生きていた多くの関係者に取材していました。例えば憲兵隊の隊長やスマトラに流れ着いた中国人など。なので、この本は口述歴史研究の著作と言えるでしょう。

 しかし、最終章の前の章で、突然冒頭でこのように書かれています。前に取材した人々の中に、ひとりずっと嘘をついていた人物がいると(笑)。それから著者は取材した際の供述や、調べた歴史資料をもとに分析し、その人物のところへ行き、「あなたは嘘をついている。あなたこそが郁達夫を殺害した犯人だろう。」と言うのです。最終的にその人物は嘘を認めたんです!研究書なのに、推理小説のような結末でした。

 『沈黙的永和輪』のシリーズは、確かにこの本の影響を受けていると思います。しかし、私の作品の全てが文献推理というわけではなく、SFの要素と歴史を組み合わせた歴史SFも多くあります。例えば、『新新新日報館』は清朝晩期に上海で起きた出来事を描いていますし、『不動天墜山』は唐代を舞台に、数学的なトポロジーの「不動点定理」を基にした異世界を作り上げました。

 不動点定理とは、一つのシンプルな定理です。まずは二次元の世界で考えてみます。一枚のティッシュペーパーを適当に丸めて、それをまた手ではたいて、もとの平面、二次元の状態にします。すると、このティッシュペーパーの中の、少なくとも一つの点は動いていないのです(すなわち、これが「不動点」)。一次元で考えてみると、例えば一つの登山道があり、下から上に登る人と上から下に降りる人がいるとしましょう。すると、必ずこの2人が出会う点があるのです。私は(小説の中で)世界を10個の同じ世界に分裂させ、これらの世界を繋ぐ通路として「不動点」を設定しました。不動点は計算して求める必要があり、f(x)=xという投影計算の式で求めることができ、場所は毎回異なります。

 自由かつ説明ができることです。私がSFとファンタジーをどう区別するかというと、世界観で区別しています。もし現代科学以前の世界観、例えば錬金術や天人合一の世界の見方でこの世界を説明するのであれば、それはほぼファンタジーだと思います。一方、もし現代科学の説明体系で物語を展開するのであれば、それは基本的にSFと言えるでしょう。SFは、現代科学を基盤にして、自由に想像を広げることができるのです。

 また、SFがリアルな未来を作り出すこともあると思います。例えば、映画『2001年宇宙の旅』に登場するiPadに似たタブレットコンピュータは、撮影当時はまだそのようなものは存在しませんでしたが、キューブリック監督がそれを想像し、映画で表現しました。その後、Appleがそれを見て、タブレットの制作を構想する際にその(映画の中の)イメージに近づけていった可能性があります。このように、SFで描かれた想像が未来のある瞬間に影響を与え、その想像が現実になる可能性があるのです。SFに未来を予測する力も、そのような任務もありませんが、知らず知らずのうちに未来に影響を及ぼすのかもしれません。

 私はいつも「一番自信のある作品は今書いているものです」と言っています。今書いているのは『開始的結束之槍』という日露戦争を題材にしたSF小説で、そこに「リッチフロー」の方法を使って「ポアンカレ予想」を解明するという設定があります。ご興味があれば、ぜひ読んでみてください。

 また、『済南的風筝』シリーズもおすすめです。文献から手がかりを探し、文献を元に推理を進めていくという、特別な創作スタイルです。

 『沈黙的永和輪』の設定も面白いと思います。清朝には、档案文書を残す伝統があり、例えば光緒帝が今日の朝ご飯に何を食べ、食後に何をしたか、何時にどこからどこへ行ったかといったようなこと全て記録していました。それを基に、档案を作成する4人の太監が建物の建設過程を記録するという設定をしました。しかし、その4人の宦官が記録するなかで殺人事件が発生します。まるで推理小説の監視密室のように、監視カメラがあるにもかかわらず、人が殺されてしまったのです。さらに、犯人が誰かわからないのです。このような設定は面白いと思っています。

  このシリーズでは第一人称を使っていますが、他の作品ではほとんどが第三人称です。このシリーズでは意図的に第一人称を使っています。「私」というのは名前のない現代を生きる人間で、推理する事件はすべて古代のものです。この4篇はどれも清代晩期や民国時代の文献の中に存在する人物で、当時の科学者や作家、など様々ですが、基本、無名の人物です。私は読者に主人公よりも、これらの人物を見てもらいたいと考えています。小説にも書いたように、人類の文明史は時に才能を持った人間を浪費してしまう歴史です(『沈黙的永和輪』)。読者にはそのような人々の輝くところをより見てほしいのです。

梁清散

“全球华语科幻星云奖”(World Chinese Science Fiction Association,CSFA)金賞受賞。

《飞出个星球》(三环出版社2024)

《不动天坠山》(人民文学出版社2023)

《面包我的幸福》(民主与建设出版社2022)

《沉默的永和轮》(人民文学出版社2021)

《新新新日报馆:魔都暗影》(新星出版社2021)

《厨房里的海派少女》(人民文学出版社2020)

《新新日报馆:机械崛起》(湖南文艺出版社2016)

《文学少女侦探》(长江文艺出版社2015)

「破竹」(梁清散 作、大恵和実 訳)

(『日中競作唐代SFアンソロジー-長安ラッパー李白』中央公論新社2024)

広寒生のあるいは短き一生(梁清散 作/大恵和実 訳)

(『中国史SF短篇集-移動迷宮』中央公論新社2021)

「焼肉プラネット」(梁清散 作、小島敬太 訳)

(『中国・アメリカ 謎SF』白水社2021)

「済南の大凧」(梁清散 作、大恵和実 訳)

(『時のきざはし 現代中華SF傑作選』新紀元社2020)

「夜明け前の鳥」(梁清散 作、大恵和実 訳)

(『宇宙の果ての本屋 現代中華SF傑作選』新紀元社2023)

今回のインタビューの続きは月刊中国語学習誌『聴く中国語』2025年2月号に掲載されています。さらに詳しくチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2025年2月号をご覧ください。

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