中国語語学誌『聴く中国語』では中国語学習にまつわるお話をご紹介しています。
今回は日中通訳・翻訳者、中国語講師である七海和子先生が執筆された、「声調記号は楽譜だ!」というテーマのコラムをご紹介します。
執筆者:七海和子先生
日中通訳・翻訳者。中国語講師。自動車・物流・エネルギー・通信・IT・ゲーム関連・医療・文化交流などの通訳多数。1990年から1992年に北京師範大学に留学。中国で業務経験あり。2015年より大手通訳学校の講師を担当。
皆さん、こんにちは。七海和子です。
今月のお題、「声調記号は楽譜だ!」は、是非岡本太郎の「芸術は爆発だ!」的に読んでくださいね(ところで、皆さん、このセリフ知っているのでしょうか…)。
中国語って、発音や声調が難しいですよね。今回は発音と同じくらい皆さんを悩ませる声調のお話をしようと思います。ところで皆さん、中国語を音読するとき、または話すとき、どんなことを意識して声を発していますか?質問がちょっとわかりにくいですね。言い換えましょう。日本語と同じ調子で声を出していませんか?
皆さん、ご存知のとおり、中国語には4つの声調があります。この声調、実は私たちが思っている以上にものすごく音の幅が広いのです。ですので、日本語と同じような感覚で発声していたら、全然高低差を出すことができません。比較のために、何か簡単な日本語の文章を読んでみてください。日本語って意外と平坦で、大きな高低差はないでしょう?
それでは、今ご自身の声に合わせてで構わないので(絶対音感とかは関係なし!)「ドレミファソ~♪」と歌ってみてください。中国語を話す時、読むとき、第一声は、この「ソ」の高さを目安にしましょう。日本語で話す時よりだいぶ高いですよね?でも、これくらい高く設定しないと、第二声や第四声の音域に達しないのです。
感覚としては、こんな感じです。
第一声→「ソ」
第二声→「ミからソへ一気に」これ、「一気にすばやく」というのがポイントです。
第三声→「ド」(読んだり話したりの場合は、単音の発音練習のように後半の音を上げなくて大丈夫)
第四声→「ソから一気にドへ」これも第二声のように「一気にすばやく」ドまで下げます。
声調記号は「楽譜」なんです。楽譜に従って歌うとき、「ソ」は「ソ」ですよね?楽譜のどこに「ソ」が出てきても、音の高さはいつも必ず一定です。では、こんな例文を読んでみましょう。
他家的饺子都是现包的,特别鲜。 Tā jiā de jiǎozi dōu shì xiàn bāo de, tèbié xiān.
ここでの第一声は“他”“家”“都”“包”“鲜”です。つまり、これらは皆同じ音程「ソ」となります。ここで音程が外れると音痴になってしまいますよ。“饺子”の“饺”は第三声。“饺”を発音するときに、いきなり「ド」から始めるのは難しいでしょう。「jiǎo」と発音するとき、出だし(ji)を「ドとレの中間の音」(微妙な音程なのですが…)から「a」で完全に「ド」に下げると発音しやすいかもしれません。「ド」に下げるというより、「ド」に向かって「突き刺す」と表現したほうがよいような感覚なのですが、“饺子”と何回か発音するとこの感覚がわかるのではないかな、と思います。“特”は第四声なので、「ソからドへ」一気に下げます。これ、下げる音域は広いですが、一つの音なので、ぐずぐずしてはいけません。あくまで一気に。遊園地に垂直に上まで上がって一気に急降下するアトラクションがありますよね。イメージはまさにアレです。“别”は第二声。これも「ミからソへ」一気に上昇してください。これも迷いは禁物。なめらかにスッと上げましょう。皆さんは「ヤンキー」ってご存知ですか?一昔前の不良を指す言葉なのですが、よく道端にしゃがんだりしていて、「なんだ、お前喧嘩売ってんのか?」という意味で「あぁ?」なんて発声していたものですが、あれはすばらしい第二声でした。
“他家的饺子~”短い例文ではありますが、これを声調を意識して読んでみましょう。あ、読む前に「ドレミファソ♪」と歌ってからにしてくださいね。どうですか?普段日本語を話しているときよりもかなり声を高く設定して、大げさに高低をつけないといけないのでは?第一声は第一声の、第二声は第二声の音程があります。「ドレミファソ」を意識することで、声調を安定させることができますよ。
銀行や病院でたまにおしゃべりをしている中国人と一緒になることがあります。ご本人たちは小さな声で話しているのですが、しっかりと話しの内容が聞こえてきます(笑)。とても参考になるのは、小声で話していても、しっかりと声調がキープされているということです。また、ヒソヒソ声なのに、そんなに声が通るのは第一声、第二声、第四声が「ソ」付近に集中しているので、私たちには「甲高く」聞こえ、耳に入ってきやすいのでは?と私は考えています。この感じ、私たちが声調を意識するうえでヒントになるのではないでしょうか。
日本語と中国語、発声するときの音域が全然違うのです。「声調は楽譜!」そう思って中国語を声に出してみてくださいね。
今回紹介した七海先生のコラムは『聴く中国語』2024年10月号に掲載しております。
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