中国語語学誌『聴く中国語』では猫と詩人をテーマに昔の漢詩をご紹介しています。
今回は声優で翻訳家である白伊先生が執筆された、「猫は人を魅了する」というコラムをご紹介します。
突然ですが、クイズの時間です。
古代の中国の人々は親しみを込めて、猫のことを「狸」や「狸奴」と呼んでいました。では現代語の「猫奴」はどんな意味でしょうか?
現代の人々が猫に贈る愛称?
いいえ、ハズレです!
確かに、「奴」は昔、接尾語として動物や植物の名前の後に使われた時は、その生物を愛おしく思う気持ちを表していました。
しかし、「奴」はもともと奴隷、下僕を意味する字でもあり、「猫奴」は、猫の奴隷、猫の下僕を意味し、つまり飼い主を指す言葉なのです!
「猫奴」自体は新しい言葉ですが、猫の下僕として尽くし、溺愛してやまない飼い主は大昔にも沢山いました。
赠猫·其一 zèng māo·qí yī/宋·陆游
盐裹聘狸奴,常看戏座隅。
Yán guǒ pìn lí nú, cháng kàn xì zuò jiǎoluò.。
时时醉薄荷,夜夜占氍毹。
Shíshí zuì bòhé, yè yè zhàn qú shū.
鼠穴功方列,鱼餐赏岂无。
Shǔxué gōng fāng liè, yú cān shǎng qǐ wú.
仍当立名字,唤作小於菟。
Réng dāng lì míng, huàn zuò xiǎoyú tù.
【现代文】
用一包盐聘回一只小猫,常常看到它在我的座椅旁嬉戏。
它时不时因猫薄荷的芬芳而陶醉,一到晚上就来抢我的毛毯。它刚刚帮我扫荡了老鼠窝,那可不能忘了奖励它吃鱼!
啊,说起来还没给它起名字呢……嗯,就叫小老虎吧!
訳文:
塩と引き換えに猫ちゃんを手に入れた。
私の席の隣でじゃれる姿をついつい眺めてしまうんだ。
キャットニップに酔ってべろんべろんになるのもしばしばだし、夜ごと容赦なく私の毛布を横取りする。
それでも鼠はしっかりと駆除してくれるから、その功績をたたえて、魚料理をたんまり差し上げないとね!
そう言えば名前もまだだったな……よし、「小虎」と名付けよう。
これはにゃんの言葉?
於菟:虎の別称。「于菟」の字も。猫ちゃんを虎と命名するのは、その勇猛な姿に惚れたから?それともキジトラ柄だったから?
薄荷:キャットニップ、現代の中国語では「猫薄荷」。『本草綱目』に「薄荷,猫食之醉。陆浓师曰:薄荷,猫之酒也」との記載あり。
陸游 猫を愛する「猫奴」の鑑
陸游は、南宋の代表的詩人であり、政治家でもある。出世の道が断たれた後は故郷で慎ましい余生を送った。
陸游が書いた国を憂う詩作は広く知られているが、彼が無類の猫好きであることはあまり知られていない。
「赠猫·其一」は陸游が初めて猫を迎え、共に過ごした生活風景を書き残した詩作で、人に遠慮せずに毛布を奪ったり、キャットニップに酔ったりする姿が生き生きと描かれ、「しかたがないな~」とデレデレになって甘やかす作者の気持ちも溢れ出んばかりに伝わってくる。
実はこの後、すっかり猫に魅了された陸游は、二匹目、三匹目と飼い猫を増やしていき、猫が登場する詩作はなんと二十以上もあるのだ。
現代では猫の飼い主を「铲屎官」と呼ぶ。猫様こそ本当の主で、飼い主はただ猫トイレのクソを片付ける小役人に過ぎないと。陸游も立派な「铲屎官」の一人と言えよう。
馬を描くことで有名な画家徐悲鴻も、猫の絵を多く残し、「私の描いた馬が素晴らしいと人々は言うけど、猫の方が馬よりずっとうまいよ」と本人が自慢するほどの猫好きだ。
今回紹介した白伊さんのコラムは『聴く中国語』2025年1月号に掲載しております。

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