日本語教師から見た中国語⑥言葉の使い方、お隣を覗いてみたら

コラム

『聴く中国語』2023年4月号より、日本語教師・金子広幸さんのコラム「日本語教師から見た中国語」を連載しています。

今回はのテーマは「言葉の使い方、お隣を覗いてみたら」です。

勘違い・誤解満載

 これまで、それぞれの言語の社会の中での言葉の使い方を中心にお話ししましたが、今回は、隣り合う言語社会同士が、どのように言葉のやりとりをしたかということについてお話しします。

  日本語に大きな影響を与えたのは中国語です。私たち日本人の祖先は数千年もの昔から、中華文明の文字体系や、文字で書かれたもの、その概念までも輸入して、日本文化の中に根付かせました。中国語として伝来した漢字の言葉は、日本語の言葉としても使われ、その漢字の語義に照らして、本来の日本語の概念「訓読み」が当てられたり、中国語に近い「音読み」で発音されたりするようになりました。

 そして、漢字の形からひらがなカタカナが作られ、漢字かな混じり文という文体で、日本語を書くようになったのです。

 今回注目していただきたいのは、ここです。最初に交流から数千年経っているのに、私たち日本人は漢字の知識があれば、中国語で書かれていたものを「ある程度」は理解できるという点です。これってスッゴイことですよね?!

 でも、ふふふ、この「ある程度」がクセモノです。

「小人」と「貴様」

 現代の中国語使用者と日本語使用者が、お互いの言語を見比べたときに、「何となくはわかっても、伴うニュアンスに関してはあまり理解できていない」ことにも注目しましょう。

 東京の街角の鉄道の駅で切符を買うことになった中国語使用者、「小人」と書いてあってびっくりすることでしょう。日本語としては「子ども」の意味であっても、中国語では「わるもの」という意味ですからね。先月号の「貴様」も「君」も「すごく素敵な意味かと思った」と学生が言っていました。

「検討」と「反省」

 私が面食らったのは「検討」と「反省」です。

 「こんどの休みにピクニックに行かない?行き先はどこにしよう。こないだ行った◯◯公園は?みんなで検討しよう」と思わず言ってしまったとき、私の話をそばで聞いていた中国の友人が「… こないだの◯◯公園、そんなにダメでしたか? 私が行きたいって言ったんですけど」と、悲しそうな顔で言いました。日本語の「検討」と、中国語の“检讨”では ニュアンスが全く違うんですね。日本語の検討は「話し合って決める」“商量一下,再决定”くらいの意味で、「わが社に持ち帰って再検討します」などと気軽に使える言葉です。でも中国語の“检讨”は基本的には自己批判するという意味で、教師に“你在这儿好好检讨一下自己!” などと言われたら、とてもひどい状況です。

  またこんなこともありました。日本人の友人と台北を訪ね、楽しい日々を過ごした後、東京でまた集まって「反省会」をしました。当時は紙の写真の時代だったので、写真を交換したりしたんですが、翌日台北の友達に「昨日反省会したよ」と言ったら、「… 何か事故があったの?ひどい目にあった?」と驚かれてしまったのです。日本語の「反省」は「振り返る、思い出す」“回顾”などの軽い意味ですが、中国語の“反省”「悪いところを見つけて二度と同じ問題が起こらないよう対策を立てる」という意味なんですね。

  小学校などで、楽しかった行事の後、クラスで反省会をしたりしましたね。そんな時は良かったことを挙げてもいいんですよね? でも中国語の“反省”ではそれはあり得ないでしょう。今学校の活動の中ではこの反省という言葉はあまり使わず、「フィードバック」などと言うようになりました。これは「反芻」“反刍”と訳されます。

 “一日三省吾身”などと言いますが、日本語の「反省」と中国語の“反省”では 全くイメージが違います。

 「隻」と「只」

  日本語と中国語の言葉に伴うニュアンスの、このような隔たりは、他にもたくさんあります。私も初学者のころこのような問題に戸惑いました。繁体字で“一隻貓”と見ると、「船一隻」とイメージが重なって「巨大な猫」を想像しました。ははは。

金子広幸:1987年から日本語教師。台北に続いて東京の日本語学校、東京大学ほか大学勤務ののち、現在法政大学・日本大学で日本語クラスを担当。地域日本語支援の場で講演活動中。東京大学、神奈川県国際交流財団で留学生・外国人相談業務。NHK『Easy Japanese for Work しごとのにほんご』「敬語道場」出演中。2022年から中国語によるラジオ放送『NHK ラジオジャパン「やさしい日本語プラス」敬語の達人』など担当。著作:『新・にほんご敬語トレーニング』(2014)『日本語クラスアクティビティ50』(2005)。ほか東京日本語ボランティアネットワークのニュースレター(http://www.tnvn.jp/)で連載中。 

 

本コラムは、月刊中国語学習誌『聴く中国語』2023年9月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2023年9月号をご覧ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました