日本語教師から見た中国語①形容詞のフォーカスが違う?!

コラム

『聴く中国語』2023年4月号より、日本語教師・金子広幸さんのコラム「日本語教師から見た中国語」を連載しています。

今回は「形容詞のフォーカスが違う?!」。身の周りの中国語話者のご友人の日本語で、ちょっと気になることはありませんか?そこに、言語間の相違点が潜んでいるかもしれませんよ。

みなさん、初めまして!日本語教師の金子広幸です。

私はクラスによって、英語・中国語など媒介語を使って教える「間接法」と、「直接法」と言って「日本語で日本語を教える」方法を切り替えて使って教えています。

学生たちの日本語が進歩したら、基本的には全部日本語です。

この仕事の出発点が台北だったこともあって、私と中国語の縁は切れません。最近ではラジオ番組で、中国語を話していますが、私のこんな中国語で大丈夫だったのやら…。でも、英語よりは気軽に使える中国語は私にとってはとても大切な存在で、学生の質問に答えるときや、相談に乗る場合も使っています。

連載のテーマは、日本語教師から見た日中文化の相違点です。お読みくだされば、異文化に対する理解がきっと深くなります。そして、言語を学び合うことは平和の礎。みなさんの中国語を活かす場所になったら嬉しいです。

おいしいとおいしかったの違い

さて、今日の話題は…形容詞の焦点についてです。

日本で生活を始めた学生たちは、いろいろおもしろいものを見つけてきてくれるので、クラスでもよく話題にしています。

前日に初めてラーメンを食べてきた学生に、「昨日ラーメンを食べたでしょう?どうでしたか?」 と聞くと、嬉しそうに「おいしい〜 と答えました。

「・・・」

やっぱり私は日本人なんですね。食べたのは昨日のラーメンだったから、「食べた時あなたはどう感じたか」と聞いたつもりでいたので、「おいしかったです」と言う答えを期待したんですね。

でも中国語では、過去の事象であることを意識しないのか、 時間を表す部分は伴わずに「好吃!(おいしい)と言うのですね。

富士山は確かにきれいだけど…

ラーメンは食べてしまったら終わりなのでいいのですが、その数日後、こんなことがありました。学生たちが富士山を見に行ったのです。待ってました!練習になると思えば、何でも聞きたい私は、翌日登校してきた学生たちに聞きました。「富士山どうでしたか?!」

もちろん彼らの答えは「富士山はきれい!」だったのですが、 物足りないと思ったのはこれをお読みの読者のみなさんも、私も同じですね。「きれいでした」と言って欲しいでしょう?

富士山の美しさは不変なので、この山がどこかに飛んでいってしまわない限り、昨日も今日も変わりなく「きれい」であるから、「富士山はきれい!」でもいいはずですね。でも、なぜか日本語は「見たときにどう感じたか」のほうに焦点があって、「私が富士山を見たとききれいだと感じた」と言うつもりで、「富士山はきれいでした」と言うのです。英語も同じですね?

このように、過去の印象を形容詞で表現するとき、日本語と中国語では大きな差異があります。

意識して過去形を特訓!

クラスでは、形容詞の活用語尾の練習をします。「あたたかいです、あたたかくないです、あたたかくて、あたたかかったです、あたたかくなかったです」などと舌を噛みそうになりながら練習するのですが、うちのクラスの中国語を背景に持つ学生たちには、過去の部分をたくさん練習してもらうことにしています。

そして、昨天!你看到富士山的时候、得怎么样?(昨日富士山を見たときどう感じた?)と、しつこく聞いています。

練習の甲斐あって、最近では、

「昨日行ったコンサートの●●さん、かわいかった〜」と言えるようになってきましたよ。

金子広幸:1987年から日本語教師。台北に続いて東京の日本語学校、東京大学ほか大学勤務ののち、現在法政大学・日本大学で日本語クラスを担当。地域日本語支援の場で講演活動中。東京大学、神奈川県国際交流財団で留学生・外国人相談業務。NHK『Easy Japanese for Work しごとのにほんご』「敬語道場」出演中。2022年から中国語によるラジオ放送『NHK ラジオジャパン「やさしい日本語プラス」敬語の達人』など担当。著作:『新・にほんご敬語トレーニング』(2014)『日本語クラスアクティビティ50』(2005)。ほか東京日本語ボランティアネットワークのニュースレター(http://www.tnvn.jp/)で連載中。 

こちらのコラムは、月刊中国語学習誌『聴く中国語』2023年4月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2023年4月号をご覧ください。

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