インタビュー!アナウンサー・NHKラジオ講師 呉志剛さん

インタビュー

中国語語学誌『聴く中国語』は毎月、日本で活躍している中国の有名人や日中友好に貢献している日本人にインタビューをしています。

今回のインタビュー相手はNHKラジオ講師を担当されたこともある呉志剛さんです。発音教育に独自の見解と豊富な経験をお持ちの呉先生に色々伺いました!

――呉先生、こんにちは!お会いできて嬉しいです!日本で中国語を教える仕事をされすでに30年余りとのことですが、最初はどのようなご縁で日本に来られてこのお仕事を始められたのか、お話いただけますか?

 実は私は熟慮の末に日本に来たわけではなかったんです。当時はまさに「出国ブーム」の時で、私にもちょうど出国の機会が訪れたので、「行って見てみたい」と日本に来ました。まさか30年以上も過ごすとは思ってもみませんでした。

 仕事は、アナウンサー学部出身でしたので、日本に来てから放送関係の仕事を探しました。幸運にも、来日2年目にNHKの中国語講座で朗読の手本を担当することになりました。この仕事はもう2、30年もやっています。大学で中国語を教えるようになったのは1992年からで、現在も続けています。

――NHKラジオの中国語講座で講師を担当されたときのことをお話いただけますか?忘れられないことや面白かったことはありますか?

 今でも気になっているのは、2013年に講師として「かっこいい中国語」というNHKの中国語ラジオ講座番組に参加したときのことです。日本語で解説したのが大失敗でした。当時私の日本語はひどく下手だったんです。言ってみれば「かっこわるい日本語」で「かっこいい中国語」を教えたようなものです。自分ではとても聴けたものではありませんでした。

――そんなご謙遜を! 先生は中国語教育、とりわけ発音教育の経験が豊富です。先生の声調特徴分析と解釈は非常に参考になります。中国語学習者だけでなく、中国語を教えている方にとっても学ぶことが多いと思います。声調を教えるにあたって特に注意しなければならないのはどんなことでしょうか?

 私個人としては、「四声二十調」の練習を強化する必要があると考えています。なぜなら絶対的多数の学習者にとっての問題は、多音節語やフレーズ、語句を連読する際に現れるからです。ですから「四声二十調」の練習は、声調という中国語の特徴をマスターする上での、要(かなめ)中の要なのです。

 「四声二十調」とは何でしょうか。「四声」は私たちがよく言う四つの基本的な声調を指します。「二十調」とはつまり四つの声調に軽声を加えて構成される二文字の語の、声調の組み合わせを指します。このような声調の組み合わせは全部で二十種類あるのです。たとえば「1+1」、「1+2」、「3+2」、「4+0」などなど。

 私たちが「四声」と「二十調」を分けて説明するのは、単独の文字を読む場合の四声と連読した文字の四声は、同じであるとは限らないからです。実際に「二十調」は四つの声調の基本的な変調現象を包含しているだけでなく、同時に四つの声調の語の流れの中での実際の読音形式でもあるのです。

 現在多くの中国語の教科書で声調の組み合わせ練習の内容が加えられているのは喜ばしいことです。

――呉先生の著書『呉志剛先生の中国語発音教室』では、声調数値の5度標記方法や陰平(第1声)、陽平(第2声)、上声(第3声)、去声(第4声)(声調の種類)、高平調、中昇調、屈折調、高降調(声調の形状)などの概念を紹介されていますね。また声調の高中低の音域、声調の長短、強弱などの概念も。学生の理解を助けるため、特に声調を示す図や音声の波形図なども科学的、かつ体系的に作成されています。実際に発音を指導されると、学生はこういった概念に恐れをなすのではないでしょうか?発音を教える際には、どのような概念を優先的に覚えさせる必要がありますか。

私がその教科書で用いた専門用語は、すべて声調を教えるために最も基本的な用語です。しかし発音教育は文法教育に比べて相対的に遅れており、こんな風に詳しく解説する人は非常に少ないのです。ですから、「出て来る語のすべてが新しい単語だ」という印象を与えるかもしれません。学習者にストレスを与えすぎないために、私は大学と自分の発音教室で教える際には、なるべく専門用語をあまり用いないことにしています。学生たちは発音を習っているのであって、学術研究をしているのではないのですから。

 学習者の視点からすれば、まずは中国語の声調のひとつひとつをはっきりと理解する必要があります。一つ一つの声調には2つの異なる形式の音程変化の現象があります。ひとつは起点から終点までに起こる昇降の変化であり、もうひとつはある音域内における高低変化です。

 単独で四声を発音するときは、起点から終点までの音高変化が非常に重要で、音域内での高低差は逆にそれほど重要ではありません。たとえば単独で第一声を発音するときは、どれだけ高く発音しても平らな一声です。

 しかし2つ或いは2つ以上の声調を連読して発音するときには、音域の中での高低差の変化がより重要になり、起点と終点の音程差はその次になります。たとえば「老師」の発音は第三声と第一声の組み合わせですが、発音するときにまず意識的に第三声を低く発音し、第一声を高く発音します。それからようやく第三声の発音に注目するのです。ここでの「老」は低降調で起点は低く終点はさらに低くなります。もし第一声の「師」を低く発音すれば、たとえそれが平らな調子であっても聴く人は絶対に第三声と第一声の組み合わせだとは思いません。「老師」と聞き取ることはできないのです。

 また私たちが言う「変調」には、昇降と高低の二つの音高(ピッチ変化)現象が含まれています。連読して発音するときに起こる変化は、どのような変化も変調に属します。

呉志剛先生の中国語発音教室(白帝社)

――ご教授いただきありがとうございます!確かに、学生が意識的に声調の昇降と高低を体得すれば、発音の盲点から早く脱出できますね。またおっしゃるように多くの中国語学習者からすれば、たとえ四つの声調をマスターしても、組み合わせを使いこなすには声調の組み合わせ練習が必要ですね。では学習者を悩ませる声調組み合わせの発音要領についていくつか教えていただけますか?

 では「2+2」を例にあげましょうか。多くの学生はこの組み合わせを発音するとき、後ろの第二声が「上げられない」或いは「上がりきれない」問題にぶつかります。この問題について私はテキストの中で、一種の「イメージ練習法」を紹介しています。つまり発音するときの音声を図式化して、その図に従って読むという方法です。

 「2+2」の組み合わせなら、2つの第二声を「リレー式」に上へ上へあげることを想像すると良いでしょう。つまり、後ろの第二声の起点は前の第二声の終点から始まり、前者の上昇に沿って継続的にあげていく。その感覚で読むのです。たとえば「長城」、「留学」、「郵局」などのように。このようなイメージを思い描いて発音します。それからそれを記憶する感覚で、以後同じように「2+2」の組み合わせを発音すればよいのです。

――「イメージ練習法」は本当に声調の組み合わせをマスターする大きな助けになりそうですね。ありがとうございます!その他に発音の面で何かご提案はありますか?

 母語が異なれば声調の認知の仕方も異なります。中国人にとって声調は「カテゴリー認知」になりますが、日本人にとって声調は「線状認知」になります。たとえば第一声の調値は55で、第二声の調値は35です。それらの違いは起点の高さの違いです。第一声の起点は5、第二声の起点は3です。中国人はこれらを判断するとき普通4を境界線として4より高いときには第一声、4より低い起点は第二声とします。一方日本人は55以外、他は上昇の調子と捉えて第二声と判断します。ですから中国語の発音を学び始めたときには、聞き取り力から訓練を始める事をお勧めします。正確に声調を判断することは正確な声調発音への第一歩です。ある程度練習したら、できる限り聴く力と発音を一緒に練習します。声調言語の習得には、「聴く」と「話す」両方の能力を一緒に高める練習が欠かせません。なぜならこの二つは互いに影響し合い、また互いに牽制し合うからです。ですから同時に訓練するのが最も効果的なのです。

――そうですね、「聴くと読むの結合」は非常に重要ですね。学生の中には「輔音(子音)」、「元音(母音)」などの発音が苦手な人もいるようです。たとえば「zh、ch、sh、r」や「z、c、s」を発音できない人がいたり、あるいは「e、u、ü」が発音できない人がいたりします。それに対して何か対策はありますか?

 輔音の発音で主に注意しなければならないのは、唇と舌が接触する部位と調音の方法です。輔音同士の区別については、別の方法で説明することもできます。たとえば「j」と「zh」が持つ元音は皆字母が「i」ですが、実際に発音してみるとこの二つの発音は全く違います。ですからそれぞれの元音を強調することが「j」と「zh」を区別するのを助けるのです。

 元音の発音は主に口腔の形状と舌の位置で区別します。たとえば「u」と「ü」の区別は両唇、舌と歯の遠近・離合で決まります。歯を中心にするときは両唇を近づけて前に突き出します。舌を後ろに引くとき、つまり両唇と舌が歯から離れていると「u」になります。反対に、両唇を歯に密着させて中心に向かって圧力をかけ、唇をすぼめて舌の先端を下の歯の裏にあて、舌面を高くあげて硬口蓋にあて、両唇と舌を共に歯から離さないようにすれば、元音の「ü」を発音することができます。皆さん試してみてください。

――呉先生の指摘に多くの読者が啓発されたことでしょう。改めて感謝申し上げます。とても得るものが多い解説でした!最後に、先生のファンや『聴く中国語』の読者に一言お願いできますか?

 ネット上ではしばしば中国人のネットユーザーが、外国人をからかって「歪果仁」と称するのを良く見ます。つまり「外国人」の発音を同じ発音の「歪果仁」(ひしゃげた種)を使ってもじっているのです。これも多くの中国人が、声調が外国人の中国語発音の最大の問題だと思っていることの現れだと思います。つまり声調の良し悪しが、本物(地道)の中国語かどうかを測る重要な指標になっているのです。ですから最後に、この一言をお送りしましょう。「正しい声調は七難を隠す(一調遮百丑)」。皆さんが声調の練習にもっと精進されますように!」

――ありがとうございました!

呉志剛:1958年8月北京市に生まれる。中国メディア大学(元・北京广播学院)アナウンサー学部卒業。1988年来日。千葉大学大学院修了、博士(文学)。研究分野は中国語音声学・教授法。NHKラジオ中国語講座・レベルアップ中国語「かっこいい中国語」(2013年)、「相手に届く中国語」(2016年)講師。早稲田大学など非常勤講師。近著『呉志剛先生の中国語発音教室』(呉志剛 著、上野恵司 監修、白帝社、2017年11月)東京都中央区久松区民館にて発音教室を定期的に開催中。

 今回のインタビュー内容は『聴く中国語』2022年12月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2022年12月号をご覧ください。

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