もう一つ聴き取れない理由

コラム

中国語語学誌『聴く中国語』では中国語学習における大切なポイントをご紹介しています。

今回は日中通訳・翻訳者、中国語講師である七海和子先生が執筆された、もう一つ聴き取れない理由というテーマのコラムをご紹介します。

執筆者:七海和子先生

日中通訳・翻訳者。中国語講師。自動車・物流・エネルギー・通信・IT・ゲーム関連・医療・文化交流などの通訳多数。1990年から1992年に北京師範大学に留学。中国で業務経験あり。2015年より大手通訳学校の講師を担当。

聴き取りを強化するには

「聴き取りを強化したいんです」は相変わらず皆さんから多く聞くお悩みです。以前のコラムで聴き取りを強化するために「話の内容を頭の中でイメージする」ことや「語彙力強化」について書いてみました。もちろん、これらも聴き取りの向上には役立つのですが……。でも、ちょっと待ってください。もしかしたら、聴き取りが苦手な原因は他のことにあるのかもしれませんよ。

 まずはこれを読んでみましょう。

この文章は日本語で書かれています。そして日本語は大部分の読者の母語だと思います。が、この文章を読んで、すぐに理解できる方は何人いるでしょうか。正直言って、私にはちんぷんかんぷんです。なぜでしょう?私に上記文章を理解できる知識がないからです

 もしかしたら、同じようなことが皆さんが中国語を聴くときに起こっているのかもしれません。聴き取りを向上させるためには、語彙力強化は必須ですまた文法の知識も必要でしょう。文法をまったく知らなければ、文(言われているセンテンス)の構造が理解できず、結局何を言っているのか聴き取れません。でも、もうひとつ、大切なことがあるのです。それは、言われていること(今聴いている音声)の背景知識を理解していることなのです。

 例えば、中国語でこんなことを言われたとしましょう。

 ちょっとクラクラしますね。多くの人は一汽トヨタ(中国での合弁会社)のある車種の話であること、性能のことを言っているらしいことはわかると思います。でも、それだけでは、この内容を「理解した!」とは言えませんよね。奕泽はIZOAという車名だったり、TNGAはToyota New Global Architectureの頭文字をとった略称であることは、調べればわかるでしょう。でも、この内容をもっと踏み込んで理解するには、TNGAというコンセプトを理解し、IZOAのターゲットとなる顧客層はどのあたりなのか、などの知識を得ておく必要があります。そして、自动驾驶辅助系统→自動運転支援システム、盲区检测→ブラインドスポット(モニター)、车道偏离预警→車線はみ出しアラートなどの固定訳を覚え、さらに車種のスペックなどに目を通します。そうすると、あら不思議。ぼんやりとしかわからなかった文章(言葉)もすっと目に(耳に)入ってくるようになるのです。

スクリプトをざっと見る

 皆さんも、「単語はなんとなく聴き取れる、でも何を言っているのかわからない」というような音声があった場合には、いきなりわからない単語から調べるのではなく、そのスクリプトをざっと見て、よく知らない内容について述べているのであれば、その背景知識から調べるようにしてみてはいかがでしょうか。そして、概要を理解したうえで、もう一度同じ音声を聴いてみるのです。もしかしたら、その段階でもわからない単語のひとつやふたつはあるかもしれません。でも、今仕入れた背景知識がその分を補ってくれて、全体の意味はしっかりと理解できた、ということは往々にしてあるのです。

 さきほどは車の例でしたが、中国語を学ぶうえで、中国の歴史、有名な物語や民間の言い伝え、有名な地名や人物名などは、知っておくとヒアリングで役に立つことが多いのです。また、中国の文化や中国人の価値観、考え方に関する知識なども機会あるごとに得ておくと、いつかどこかできっとあなたを助けてくれるでしょう。

 また普段からアンテナを張って、今話題のニュースや、技術に関しても目を通しておくようにするとよいと思います。

 背景知識を得たうえで音声を聴くと、急に視界が明るくなるような感じがしますよ。是非お試しくださいね。

今回紹介した七海先生のコラムは『聴く中国語』2024年5月号に掲載しております。

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