『聴く中国語』2023年4月号より、日本語教師・金子広幸さんのコラム「日本語教師から見た中国語」を連載しています。
今回はのテーマは「カレンダーの怪」です。
母語の干渉とはなんぞや
こんにちは!日本語教師の金子広幸です。
私たちは子供の時から日本語を母語として使っているので、客観的に眺めるのは難しいです。みなさんの身の回りの中国語話者のみなさんは、日本語を外国語として獲得しているので、母語話者とは違う見方で日本語を見ています。助けてあげるとき、それを意識することは重要です。
詳しい話はまた今度にしますが、第一言語(多くは母語と重なるのですが)の考え方の基本が、他の言語に及ぶ場合があります。それを「母語の干渉」と言います。
日本語はカレンダーが関門
日本語を学び始めたばかりの初級の学生たち、越えなければならない難関の1つに「カレンダー」があります。「え?カレンダー?」と思われた方、 そう言えば、私たちも英語を学んだ時も、「1月、2月、3月・・・」が「January, February, March…」だと 覚えなくてはならなくて大変でしたよね。「数字の1〜12が言えて、それに「がつ」をつければいいので、日本語の方が簡単だ〜」と思った方、こちらをご覧ください。
まず、「月」という漢字ですが、「げつ」と読んだり「がつ」と読んだりします。 日本語の音読みには、日本に伝来した時代によって「呉音」や「漢音」の区別があります。さらに、訓読みもあるので、一緒に、月曜日、1ヵ月、ひと月、一月(いちがつ)がでてきたりして、 ほんとに大変そう…。その点中国語はいいですね。「多音字」もありますが、それは例外的です。
「それぐらいなら、まぁいいじゃないですか!」と思われたみなさん。 中国語の口頭語なら「1号、2号、3号・・・31号」と単純な構造なのに、日本語と来たら「ついたち、ふつか、みっか、よっか…」と始まって、「とおか」まで、それだけでなくて、途中に「じゅうよっか」だの「にじゅうよっか」だの、そして、恐るべき「はつか」という言い方まで出てきて、中国語話者だけに限らず全世界の初級学習者たちはびっくりしています!「これ、日本人は毎日使っているんですか??」とまじめに質問されます。
そう言われれば、私たちも子供の時に「にじゅうにち」と言って、 周りの大人に直されたりしましたよね?母語話者はこんな思い出をもう遠の昔に忘れてしまっているんですね。
この苦労した習得の過程を忘れていることで「私たちの言語感覚は当たり前で、世界の言語と共通だ」と思ってしまうのです。そして、母語の干渉が起こるんですね。実は、母語話者は、自分達の母語の習得に関しては、ものすごく大切なことを忘れてしまっているんです。
そこで私たち教師は、
A:「お誕生日は何月何日ですか」
B:「私の誕生日は ごがつ はつかです」
というように文脈の中に埋め込み、本人が言う可能性の高いものからゆっくり学んでいってもらいます。
「中国の国の誕生日は じゅうがつ ついたちです」というように、さらにいろいろなバリエーションも広げながら。
少々マニアックですが、私のクラスでは、分担を決めてその年1年のカレンダーを「全部ひらがなで」作ってもらったりします。
中国語版調理法のいろいろ
私が困るのは中国語の料理方法の名称です。
中国語を話す人たちと一緒に料理をしていたりすると、日本語の「焼く」にあたる言葉が、 一体どれにあたるのか分からなくなります。「烤」なのか「煎」なのか、漢字が同じだからとうっかり「烧」を使ったりすると、 ずいぶんニュアンスが違うようで変な顔をされます。最近は日本料理の「焼き鳥」がそのまま「烧鸟」と呼ばれるようになって、今度は中国語で聞いている私の方がびっくりしてしまいました。 真っ黒焦げになるまで丸焼きにされた小鳥を想像したからです。
「煮る」にあたる言葉も「煮」「熬」「炖」「焖」とたくさんあります。
他にも、一切れのケーキを表す量詞は「块」なのに、その同じ量詞を「お金」に対しても使って「一块钱」などと言うのも驚きました。
きわめつけは「张」です。紙に使うので日本語の「〜枚」に当たるかとおもいきや、机にも使いますね??日本語の「シャツ1枚」は、中国語では「一件衬衫」と違う量詞です。
相手の立場になって考える
これを中国語話者にぶつけても「かねこは変な人」と思われるだけです。
でも、よく考えるとこれは「お互いが、お互いの側から、橋を渡ってくるときに」越えなければならないところで、お身の回りの中国語話者も全く同じような思いをしているんです。読者のみなさんのように「中国語を学んで、日本語を学んでいる人の助けになろうと思っている方々」に、第一に知っていただきたいのは、「学習者の立場に立つことの大切さ」です。
こちらのコラムは、月刊中国語学習誌『聴く中国語』2023年5月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2023年5月号をご覧ください。
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