中国語語学誌『聴く中国語』では猫と詩人をテーマに昔の漢詩をご紹介しています。
今回は声優で翻訳家である白伊先生が執筆された、「最終回 猫は群れなくても」というコラムをご紹介します。
マイペースな猫は、群れずに単独で生活する習性があります。
でも、一度猫に魅了された人間は一匹だけを飼い続けることは少なく、気付けば2匹目、3匹目と多頭飼いになっていくのです。
猫は群れなくても、人が勝手に猫を増やしていきます。
陸游も例に漏れず、“小於菟”をはじめ、“粉鼻”と“雪儿”と名付けた3匹の猫を飼い、それぞれに宛てた詩まで後世に残しています。
文で思いをしたためるのは、古代詩人のロマンですね。
得猫于近村以雪儿名之戏为作诗 Dé māo yú jìn cūn yǐ xuě er míng xì wèi zuò shī/宋·陆游
似虎能缘木,如驹不伏辕。
Sì hǔ néng yuán mù, rú jū bù fú yuán.
但知空鼠穴,无意为鱼飧。
Dàn zhī kōng shǔxué, wúyì wèi yú sūn.
薄荷时时醉,氍毹夜夜温。
Bòhé shíshí zuì, qú shū yè yè wēn.
前生旧童子,伴我老山村。
Qián shēng jiù tóngzǐ, péibàn wǒ lǎo shāncūn.
【现代文】
我在附近村子领养了一只猫,取名雪儿。
它像老虎一样威风凛凛,爬树身手矫捷,像骏马一样迅捷但不会辛苦拉车。
它卖力地捉老鼠,却并不介意能不能吃鱼。
雪儿有时会为猫薄荷而醉,每晚都会帮我暖毛毯。
你为什么甘心陪我在这老山村度日呢……莫非你是上辈子伺候我的童子转世而来的吗。
訳文:
近所の村で猫を貰って、「雪ちゃん」を名付けた。
この子は虎のように凛々しく木登りも上手で、馬のように素早いが荷車を引いたりはしない。
鼠どもを一掃することに全力を注ぎ、魚には見向きもしない働き者だ。
時にはキャットニップに酔いしれ、夜な夜な私の毛布を暖めてくれる。
こんな山村暮らしに嫌気もささず、健気に尽くしてくれるなんて……君は前世では私の召使いの少年だったのだろうか。
これはにゃんの言葉?
猫步:キャットウォーク、モデルのウォーキング。モデルが訓練してたどり着く美しい歩き方を生まれながらに習得している猫は、この言葉でしなやかなイメージを想像させる。
猫腰:腰を屈める仕草を指す方言。「猫背」という日本語と異曲同工の趣がある。
猫との巡り会わせ
鼠を懸命に捕り、簡素な生活に文句を言わずに付き添ってくれる猫の“雪儿”は、飼い主の陸游を感動させ、「この出会いは前世から続く縁だ」とまで言わせた。
猫は薄情……もとい、クールなイメージが強いが、長い歴史の中で人間と寄り添って来られたのは、「人に必要とされているから」の一言に尽きるだろう。
日本の愛猫家の間では「NNN(ねこねこネットワーク)」という秘密結社の存在が囁かれ、人が偶然拾ったと考えている野良猫や捨て猫は、全てその組織が秘密裏に仕組んだ必然的な出会いなのだとか。
中国でも野良猫を持ち帰った人たちは、“不是我选了它,是它选了我”――私が猫を選んだのではない、猫が私を選んだ――と口々に言う。
風来坊で自由を謳歌する猫が人込みをかき分け、たった一人を目がけて歩み寄っていったのだ。定められた巡り会わせとしか言いようがない。
家の片隅に猫がいるだけで、心に温かい明かりが灯る。猫と共に歩む歴史に、乾杯!
今回紹介した白伊さんのコラムは『聴く中国語』2025年2月号に掲載しております。

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