うっちーの中国語四方山話②−疑問・肯定・否定??

コラム

中国語語学誌『聴く中国語』では日中異文化理解をテーマにしたコラムを連載しています。

今回は日本中国語検定協会理事長の内田慶一先生が執筆されたコラム、うっちーの中国語四方山話−異文化理解の観点から②−疑問・肯定・否定??をご紹介します。

 私は昔から推理小説が大好きです。謎解きの醍醐味がそこにはあり、それはことばの研究、文法の研究にも通じるところがあるからです。特に、アガサ・クリスティーの「名探偵ポアロ」、「ミス・マープル」のシリーズやチェスタトンの「ブラウン神父」、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」などはよく読みました。エドガー・アラン・ポーの「盗まれた手紙」「モルグ街の殺人事件」「マリー・ロジェの迷宮事件」などはヨーロッパでは哲学書としても読まれています。それらをドラマ化したものがCSのミステリーチャンネルで放送されており、それも大体毎日欠かさず見ています。

映像というのは右脳の活用につながり、それは長期記憶につながると言われていますが、毎日外国の映画、しかも出来るならば字幕付のものを見ることをお薦めします。

私は自分の研究の関係から毎年何回かヨーロッパに出かけています。その行き帰りの飛行機の中でもやはり映画をよく見ますが、ある時、日本の映画を英語の字幕付きでやっていました。新垣結衣と生田斗真主演の『ハナミズキ』という映画です。それを見ていて面白いことに気がつきました。

日本語:「おい、無視するのかよ?」 英語:“Hey, Don’t ignore me !”

日本語:「お前に俺の気持ち分かるのかよ?」 英語:“You don’t understand !”

つまり、日本語では疑問文なのですが、英語だと「〜するな!」という禁止文か「〜でない」という否定文で表されているのです。

こうしたことは日本語と中国語の間でも起こります。

日本語で、本屋さんで買いたい本があるかどうかを尋ねる時に「この本はありませんか?」と否定で聞く場合が多いですが、中国語だと

が普通かも知れません。否定を使うか肯定を使うかの違いですね。以下のような例を見てみましょう。

これらの日本語に対する中国語は以下のようになります。

  • 我爸爸现在不在家。
  • 下周不上课。
  • 图书馆周一不开放。
  • 今天胃不舒服。
  • 他今天不高兴。

次のような例もあります。

   百货商店十点才开始营业。

   趁天还没黑回家吧。

   报告不要超过800字。

簡単なように見えても実はそう簡単ではないのですね。言葉というのはそういうものです。

ちなみに例えば

は反義語ですが、

 ところで,中国でも清末にはすでにホームズなどの探偵小説が中国語に訳されていますし、最近でもこのジャンルは結構人気があります。紫金陳の“推理之王”シリーズの『无证之罪』『坏小孩』『长夜难明』などはドラマ化されて日本でもWOWOWで放映されています(邦題はそれぞれ「バーニング・アイス」「バッド・キッズ」「ロングナイト」)が、是非,皆さんも一度中国語で読んでみたらいかがでしょう。

内田 慶市(うちだ けいいち)/1951 年福井県生まれ。博士(文学)・博士(文化交渉学)。専攻は中国語学、文化交渉学。福井大学教育学部助教授、関西大学文学部・外国語学部教授、大学院東アジア文化研究科教授を歴任。2021年関西大学外国語学部特別契約教授定年退職。東アジア文化交渉学会常任副会長( 2009 年~)、中国語教育学会理事( 2016年3月~2020年2月)、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター長( 2017年4月~)、日本中国語検定協会理事長(2020年6月~)。主著に『近代における東西言語文化接触の研究』(関西大学出版部、2001)、『文化交渉学と言語接触─中国言語学における周縁からのアプローチ』(関西大学出版部、2010)、『漢訳イソップ集』(ユニウス、2014)などがある。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2024年5月号に掲載しております。

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