優しい運転手と巡る 上海発・江陰日帰り旅

中国留学記
コラムニスト 水上華
日本と中国のハーフ。日本で生まれ育ち高校三年生の時に中国への留学を決め中国の大学に入学するも、新型コロナウイルスの影響で一年生の間は中国への渡航が叶わず日本でオンライン授業を受けた。

 先日、友人と日帰りで「江陰」という町へ足を運んだ。時間があまりなかったため、上海から近くて日帰りできる場所を探していた際に候補に上がったのだ。

上海から江陰までは高速鉄道で約1時間。駅に降り立つと、都市の喧騒とは違った落ち着いた雰囲気が広がっていた。駅から君山寺へ行くために利用したDiDiタクシーの運転手がとても親切で、一日運転手をお願いしたところ快く引き受けてくれた。

 走行中の車内では、彼の話をたくさん聞かせてもらった。特に印象的だったのは、彼の息子が現在日本に留学しているという話だ。「東京の大学に通っていて、日本語も上手になってきたよ」と少し誇らしげに語っていた。私が日本からの留学生だと分かると、「どうして中国に来ようと思ったのか」「日本と中国の生活はどう違うのか」と、次々に質問してくれた。

 目的地の一つ、君山寺静かな美しいお寺だった。観光地化されすぎておらず、私たち以外にはほとんど人がいなかった。風に揺れる鈴の音が耳に心地よく響き、長い階段を登った先の本堂から見える江陰の街並みはとても綺麗だった。静かな空間が広がり、個人的にはこれまで訪れた中国の場所の中でもトップクラスに好きな場所だった。

 食後は公園を散歩した。ベンチで静かに過ごす人もいれば、集まってダンスをしたり、楽器を演奏したり、歌を歌ったりする人も多い。特にこの日も、おじいちゃんおばあちゃんのグループが音楽に合わせて楽しそうに踊っていた。少し離れた場所では二胡を奏でるおじいちゃんがいたかと思えば、また別の場所では合唱の輪ができていた。日本の公園ではなかなか見られない光景で、眺めているだけでこちらまでハッピーな気持ちになった。こうした風景は、私が上海で大好きなもののひとつだ。

 次に向かった鹅鼻嘴公园は、長江のほとりにある公園だ。園内にある長いトンネルを抜けると長江のほとりへ出られ、江阴长江公路大桥を眺めることができる。江阴长江公路大桥は1999年の完成当時、中国で最長の吊り橋であり、世界的にもトップクラスの規模を誇っていた。現在も重要な長江横断橋として知られている。

 その後訪れた扬子江国际礼拜堂はキリスト教の礼拝堂で、外観も内装も美しく、静寂の中に身を置くと不思議と心が落ち着く場所だった。ステンドグラスがとても美しい立派な礼拝堂だ。

 そして、この日最後に訪れたのが海澜飞马水城だ。中国の大手アパレル企業「海澜集团」が出資・運営するテーマパーク型複合施設だ。実はSNSのRED(小紅書)で見つけた場所で、最初は「写真詐欺かも?」とあまり期待していなかった。しかし、実際に訪れてみると想像をはるかに超えるスケールと完成度に驚かされた。

 この施設は、馬術文化・欧風建築・芸術・スポーツが融合した壮大な複合リゾートで、広大な敷地内には馬術ショーが行われるアリーナや、世界各国の馬を展示する厩舎風の博物館、現代アートを展示する海澜美术馆などが揃っている。園内には人工運河が流れ、ヴェネツィアを模した街並みが広がっていた。ゴンドラや遊覧船も運航しており、夜にはライトアップされた欧風建築が水面に映り込み、幻想的な風景を楽しめるという。入場自体は無料で、体験施設や博物館など一部が有料になっている。

 私たちは「馬文化博物館」に入場した。一階には何十頭もの馬が展示されており、アラブやモンゴル、アメリカなど世界各国の名馬が集まっていた。二階は体験フロアで、3Dメガネや映像、模型を使って馬の歴史や文化を学べる。馬の剥製展示もあり、馬術文化への深い尊重が伝わってきた。三階には海澜集团の企業史や展示資料が並び、中国企業の成長の軌跡にも触れることができた。

 夕方、再び駅に戻る車中で運転手さんがふと「また江陰に来ることがあったら、必ず声をかけてね」と言ってくれた。WeChatも交換し、「今日のことは日本にいる息子にも話すよ」と嬉しそうに笑っていた。たった一日の出会いなのに、こんなにも温かい関係が築けることに、中国という国の懐の深さや人の優しさを改めて感じた。
 今回、たった一日しか観光する時間がなかったものの、私も友人も江陰の人や雰囲気にすっかり魅了され、「絶対にまた来よう」と心に決めた。これからもっと多くの人に訪れてもらいたい場所だ。留学中に訪れた場所の中でも、人の温かさでは間違いなくトップクラスだった。 

本コラムは『聴く中国語』2025年10月号に掲載しております。

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