全国通訳案内士への道~いかにこの不可解な試験沼にはまったか~⑩「どうなる?今後の通訳案内士受験」

中国語学習

初めまして。最近まで全国通訳案内士(以下、通訳案内士とする)という国家資格に6年かけて挑んだ五弦(名前の由来はコラムの最終回で種明かしします)です。私は2010年代に中国で勤務していた、現在は日本在住の40代日本人女性です。こちらのコラムでは「通訳案內士」に興味を持ってもらい受験生がもっと増加するといいな、という思いを込め「通訳案內士」に関する様々なテーマで書かせていただきます。

ここまで通訳案内士試験について見てきましたが、今後はどう変わっていくのでしょうか?

2025年度の主な変更点

 2024年4月7日付で、2025年度の通訳案内士試験ガイドラインが公開されました。

今回の大きな変更点は、1次試験「通訳案内の実務」の出題範囲とされている「観光庁研修テキスト」が、「通訳ガイドテキスト(初版)」としてリニューアルされたことです。
私が以前、コラム④で取り上げたのが、旧版の「観光庁研修テキスト」でした。
両者をざっと比較してみると、以下のような違いが見受けられます:

・191ページ → 174ページと、全体のページ数が減少
・本文がカラー化、段組が2段→1段になり、見やすさが向上
・多言語による医学用語の記載が大幅に削除

 
 その他、主な変更点を以下に整理しました:

項目『観光庁研修テキスト(第1版)』『通訳ガイドテキスト(初版)』
発行年令和2年(2020年)令和6年(2024年)
対象読者全国通訳案内士(有資格者)通訳ガイド全般(資格の有無を問わず)
内容の焦点制度改正と法令知識の提供実務対応、文化的配慮、最新動向の紹介
実務的な情報基本的な旅程管理の解説詳細な実務対応と現場での対応方法
文化的配慮の内容限定的な記述宗教、食習慣など多文化対応を詳述
最新統計データ掲載なし訪日外国人の動向や消費傾向を掲載

 特に注目すべきは、今回のテキストがボランティアガイドや外国語ガイドなど、「通訳ガイド全般」に向けて作成されているという点です。
(※とはいえ、「通訳案内士以外は『通訳ガイド』と名乗れません」と明記しているにもかかわらず、「総称して通訳ガイド」(下記参照)とするのは、なかなかの矛盾ですが……ここでは触れずにおきましょう。)

これは、インバウンドを国家戦略として重視する中で、テキストを汎用的に使えるように整備し、ガイド全体のスキルと業務の質の向上を目指す、という意図が読み取れます。

合格率と受験者数の推移

以下は過去5年間の受験者数と合格率(過去5年・英語・中国語)です:

年度科目受験者数(人)第1次合格者数(人)第1次合格率(%)第2次合格者数(人)第2次合格率(%)最終合格者数(人)最終合格率(%)
2024英語3,02255518.656953.330310.0
中国語2645219.56250.03111.7
合計3,84968618.073252.638510.0
2023英語2,76463124.070650.635712.9
中国語3195418.17243.1319.7
合計3,63878522.790148.443612.0
2022英語2,59494637.492349.045217.4
中国語3206521.98445.23811.9
合計3,4721,16434.81,18648.157116.4
2021英語2,95555019.157543.72518.5
中国語3434714.76737.3257.3
合計3,83471819.378244.43479.1
2020英語3,95176420.183948.941010.4
中国語4214210.87041.4296.9
合計5,07887718.01,00448.74899.6

 
 過去5年間を見ると、受験者数は全体的に減少傾向にあります。特に中国語の受験者数は、目に見えて減少していますね。最終合格率は10%前後で推移しており、受験者数の多い英語が全体の平均を引き上げている印象です。年度によって合格率にばらつきがあるのも特徴です。

 私見ですが、2024年度も1次試験で奇問・難問が出題されたことからも、「本気で通訳案内士を増員し、魅力的な職業としてアピールする」という国の姿勢はあまり感じられません。
インバウンド需要が増す中で、それと連動した制度設計がなされていないのは疑問です。このままでは、受験者数は今後も減少するのではないかと予想します。
少なくとも、受験者数を増やすためには、有資格者がきちんと優遇される制度に戻すことが前提ではないでしょうか。

それでも求められる「人間らしいガイド」

 ただし、AI翻訳や自動翻訳の発展により、これからの通訳ガイドには「人間にしかできないこと」が求められるようになります。
今回のテキスト改訂にも見られるように、今後はより「実務対応型」の試験にシフトしていくと考えられます。

 また、モノ消費からコト消費(体験重視)への移行が進むなかで、中国人観光客を含め「質を求める層」からの、多少高価でも無資格ガイドではなく「通訳案内士に依頼したい」というニーズが高まると考えられます。現に、英語通訳案内士などは「人手不足」といった声も聞きます。通訳案内士受験から離脱する層がいる一方で、そういったニーズに対して「受験する価値がある」と考える層が参入し、一定の受験者数は今後も継続すると思われます。

 

 いよいよこのコラム連載も終盤に差しかかっています。
次回以降は「中国語通訳案内士の仕事の実態」や「中国語通訳ガイドの現場」についてお届けする予定です。どうぞお楽しみに!

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