大家好!今月の「おしゃべ李(リー)」コーナーへようこそ。最近、私は、米ドラマ『ザ・モーニングショー』(Apple Tv+)にハマっています。俳優陣の迫真の演技にハラハラする展開、中韓ドラマにはない斬新な恋愛模様(笑)等、面白いところは沢山ありますが、一番魅せられたのはセリフの素晴らしさです。その素晴らしさは字幕では伝わりにくいため、本来の英語で観る必要があります。しかし、かくいう筆者は英語が不得意なので、一セリフずつ停止して辞書を引きつつ観ていますが、これが楽しくも苦しい作業です。ただ単語を知らない場合は辞書を引けば良いだけですが、「単語は分かるのに意味が理解できない」時はストレスです。改めて海外ドラマ視聴の大変さを感じました。今中国ドラマを中国語字幕でご覧の皆さん、本当にお疲れ様です。我们一起加油!

さて、外国語と接する際、「知らない単語が出てくる」点は一番のネックですが、「知っているつもりで知らない」のも恐ろしいです。筆者の場合、後者の経験が多く、毎回恥をかいています。例えば、テレビで「夫婦円満の秘訣は同じ財布を使うこと」と聞き、「同じ財布を使うって不便ね。使う日を相談しないといけないの?」と友達に話して爆笑されました。そうです、外国人は「同じ財布を使う」を文字通りの意味でしか解釈できません(笑)。
また、先日、新聞を読んでいたら、「王道」という言葉が出てきました。皆さんは「王道」と聞くと、どんな意味を思い浮かべますか?私はずっと「定番、正しい選択」と理解していました。実際調べると、以下の用例が出てきます:「和菓子の王道は上生菓子」、「まさにホットドッグの王道といえる商品」など。この「王道」は「定番」に言い換えても問題ありません。
しかし、「世界人類のため覇道ではなく王道を目指してもらいたい(産経新聞、2025/1/25)」という文が出てきたら、あなたならどう解釈しますか?日頃、「王道=定番」と思っている筆者は、「世界人類のため覇道ではなく定番を目指してもらいたい」と読み替えてしまいました。記事を読み進めると、この文に続き、「王道政治は砥石(といし)のように平らかで、すべて人情に基づき、礼儀から出てくる」と説明されていましたが、結局最後まで記事の意味を理解できませんでした。後日職場の漢文の先生に尋ねたら、またもや笑われてしまいました。

「王道」の意味は「定番の、お決まりの」だけでなく、「儒教で理想とされている、仁徳によって行う政治」という意味もあり、この場合、「覇道(力ずくで政治を行う)」と相対する概念として使われるとのことでした。
「王道vs.覇道」は孟子の思想だそうで、用例を検索すると、「孟子 王道」「王道 覇道」がよくセットで出てきます。「孟子の理想とする王道政治」や「王道と覇道を兼ね備えた政治家」のように、政治のあり方に「王道」の用例が多いことに気づきました。長年日本に住んでその語意を知らないことに加え、中国人なら孟子の思想における「王道」の意味を知っていなければならない点でも、我ながら不勉強だったとショックを受けました。

ただ弁解させて頂くと、現代中国の話し言葉では“王道”という語にはほとんど出会いません。反対の“霸道”のほうは会話でよく使う日常的な語です。ただし、「覇道政治」という意味でなく、“霸道bàdao”のように“道”の発音を軽声化して読み、「性格や態度が横暴で理不尽である」ことを表す形容詞として使われます。日本語のニュアンスだと「ワンマンで、有無を言わさずに事を進める」感じです。例えば、“这个人很霸道,什么事儿都得听她的”(この人は非常にワンマンで、どんな事も彼女の言う通りにせねばならない)“胖虎太霸道了!”(ジャイアンが横暴すぎる!)など。

近年、中国のSNSでは、恐らく日本語からの逆輸入で、“王道”が「定番、正解」の意味で使われています。微博(Weibo)では、“……才是王道!”(〜こそ王道)という文をよく見かけます。“在厦门,短袖才是王道”(アモイでは、半袖こそ王道だ)、“跨年夜看足球才是王道”(年越しの夜、サッカーの試合を見ることこそ王道)のように使います。いずれも直訳すると少し変で、「半袖でなくちゃ」や「サッカーの試合を見るのが一番だ」の方が意味が伝わります。“……才是王道!”は「〜でなくちゃ/〜をしなくちゃ/〜するのが一番だ」を意味する定型フレーズです。逆輸入された語が異なる使われ方をしているのは面白いですね。
今回紹介した先生のコラムは『聴く中国語』2025年5月号に掲載しております。

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