外国の映像作品には言語以外にも、日本と異なる文化風習が随所にちりばめられています。本コラムでは、中国の映像作品に登場するモノの背景にスポットを当て、中国の文化を紐解きます。
学校の開校日も過ぎ、街では気だるげに登下校する学生たちを見かける時期となりました。10代の象徴とも言える制服姿に、自身の学生時代を思い出すこともしばしば。
今回は制服にちなみ、映画『少年の君』に登場する「ブルーの学生服」を紐解きます。
2019年公開の映画『少年の君』は、成績優秀な少女と非行少年が出会う青春映画。
ある事件から壮絶ないじめに遭っている少女チェンニエンは、犯罪に手を染めながら一人で生きる少年シャオベイに護衛を求めます。孤独な二人が互いを救い合う末に迎えるラストは必見。
この作品は中国の国民的アイドルグループメンバーの銀幕デビュー作。加えて、若手大物女優とのW主演ともあり公開後の注目度は抜群。興行収入は国内だけで250億円に迫る大ヒットを遂げます。本作の人気は国内に留まらず、21年のアカデミー賞国際長編映画賞にノミネート。日本の映画関係者にも大きな衝撃を与えました。
受験戦争、母子家庭、校内いじめ、貧困など社会問題に深く切り込んだストーリーに、学校生活を謳歌する学生の描写がエッセンスとして素晴らしい役目を担っています。
太陽が照りつける運動場に生徒が集まり記念撮影をするシーン。チェンニエンや他の学生達が纏う淡いブルーの制服が目を惹きます。登校シーンでは、長い登り坂をずんずんと進むブルーの集団は、寄せる青い波のように揺れて印象的です。
日本にいると晴天のようなブルー制服はなかなかお目にかかれませんが、中国では例外はあれど制服の定番カラー。一説によるとその色は視覚的リラックス効果のほか、和平や調和、青春の「青」を表しているのだとか。
閑話休題。青春の「青」とは、本来どんな青色を指すのでしょうか。言葉の成り立ちから見ていくと、謎が解けてゆきます。「青春」は、中国の古代思想「陰陽五行思想」から生まれた言葉。
季節の春を示す言葉が転じて、一生のうち若く元気な時期を指す言葉として用いられるようになりました。「春の青」、つまり「若葉芽吹く頃の新緑」を指していたんですね。
今では青の示す色も変わり、青春の青は「黄味がかった緑」から「真っ青なブルー」へと変化していきました。
さて、学園ものの中国ドラマをよくご覧になる方はお気づきかもしれませんが、映画で登場する学生服、じつは稀なんです。というのも、現在中国でメジャーな「制服」は日本で言うところの「運動服」。いわゆるジャージです。
中国の制服は時代の潮流に沿って、その様式を幾度も変えてきました。その流れの中で、90年代以降は主に青色をベースとした「運動服」が制服として多く採用されるように。
主な理由としては、動きやすさや買い換えの手間を省くためだったり、男女や貧富の差を視覚的に無くす意図もあったり。とはいえ、中国のネット上では「中国の制服はなぜダサい?」とぼやく声もちらほら。
その影響か、現在日本のようにブレザー、スカート様式を採用している学校が徐々に増えてきました。主に私立学校、映画に登場するような進学校や国際学校に多いようです。
今回は『少年の君』に登場する「ブルーの学生服」にフォーカスしてみました。中国の学園ものに関する解像度が少しだけ上がったのではないでしょうか。
チェンニエン以外の名もなき学生たちは、ひたむきに受験と向き合い、笑顔に溢れた生活を送っている。
まばゆい「青春を纏う」彼らは、大人たちの気付かぬうちに、辛く厳しい現実を過ごしているのかもしれません。
それでは次回もお楽しみに。再見!
西木南瓜(さいき かぼちゃ)
SNSクリエイター・コラムニスト。名古屋在住。アジアの映画をこよなく愛する影迷(映画ファン)。上海外国語大学修士課程修了後、中国語講師を経て映画公式SNSの運用代行や宣伝企画、広告プランニングなどで活動中。
今回紹介した先生のコラムは『聴く中国語』2024年9月号に掲載しております。
コメント