全国通訳案内士への道~いかにこの不可解な試験沼にはまったか~⑨「逆バージョンの話。私が中国旅行した時の忘れ得ないガイドたち」

中国語学習

初めまして。最近まで全国通訳案内士(以下、通訳案内士とする)という国家資格に6年かけて挑んだ五弦(名前の由来はコラムの最終回で種明かしします)です。私は2010年代に中国で勤務していた、現在は日本在住の40代日本人女性です。こちらのコラムでは「通訳案內士」に興味を持ってもらい受験生がもっと増加するといいな、という思いを込め「通訳案內士」に関する様々なテーマで書かせていただきます。

今回は逆の立場から、自分が中国旅行中にガイドをしてもらった体験を振り返り、「良い通訳ガイドとは何か」について考えてみたいと思います。

私事になりますが、中国滞在中に「できるだけ多くの都市を訪れよう」キャンペーンを実施していたため、公私あわせて訪れた都市は、帰国時にはおよそ23都市にのぼりました。

基本的には個人旅行を好むので、自分で調べて自分の足で歩き回ることがほとんどでしたが、ガイドや案内を受けたことも何度かありました。かなり前の話なのでうろ覚えの部分もありますが、とくに印象に残っている3人のガイドについてご紹介します。

何が良くて、何がいまひとつだったのでしょうか?各観光スポットのポイントもあわせて振り返ってみます。

清東陵 ― ガイド・李くん

 当時勤めていた会社の同僚で、日本語ペラペラ、日本カルチャー大好きだったのがデザイナーの李くんです。多方面にわたってマニアックだった彼は中国の歴史にも精通しており、ある時、清東陵を案内してもらうことになりました。


清東陵とは?
 清東陵(しんとうりょう)は、中国・河北省にある清朝皇帝の陵墓群で、順治帝から咸豊帝まで、5人の皇帝と皇后・妃たちの墓が並んでいます。精緻な建築と彫刻が特徴で、2000年には世界遺産に登録されました。

 
 北京からバスで行ける距離にあったため、当日のバスの手配からお願いしました。バスに乗っている時点からすでに李くんのガイドは始まっており、中国の歴史やこれから訪れる場所の価値・見どころについて、途切れることなく語ってくれました。

 いくつかの主要スポットをバスで巡りました。現地には一応中国語のガイドもついていたのですが、その説明はまったく覚えておらず、ずっと李くんの解説に耳を傾けていた記憶があります。特に、皇后の棺の前では、当時の豪華絢爛さや、地下に眠る数多くの宝飾品について熱心に語ってくれました。

 専門のガイドではないにもかかわらず、彼の膨大な知識には驚かされましたし、「中国の歴史を伝えたい」という情熱にも感動しました。お礼を渡そうとしても丁寧に辞退され、その謙虚な姿勢にも心を打たれました。

 言葉の壁を越えられること、確かな歴史知識、そして何より情熱。この三点が、良いガイドにとって非常に重要なのだと実感しました。

西安 ― 地元ガイド・Hさん

 取材で訪れることになった西安では、地元旅行会社のHさんにガイドをお願いしました。


西安とは?
 西安(せいあん)は中国陝西省の省都で、古代には長安と呼ばれ、13の王朝が都を置いた歴史都市です。世界遺産の兵馬俑や大雁塔などがあり、シルクロードの起点としても知られています。

 
 清東陵とは異なり、完全に個人チャーターでの案内となりました。主要なスポットを効率よく回ることができ、各場所でHさんが日本語で丁寧に解説をしてくれました。

 「くまなく記録する」という仕事の一面もありましたが、それと同時に「西安がいかに中国の歴史の礎となったか」を深く理解することができた旅でもありました。団体行動のプレッシャーがなかったため、取材にも集中することができました。

 夜には地元の料理店に連れて行っていただき、一緒に夕食を取ったのもとても良い思い出です。食文化についても多くのことを教えてもらい、最後には私が現地でぜひ食べたいと思っていた「泡馍(パオモー)」のお店にも案内してくれました。

 一緒に食事をすることで心の距離が縮まる――その効果は大きいです。

 細かなリクエストに対応できること、地元ならではの店を紹介してもらえることは大きな魅力。また、ゲストに「移動のプレッシャーを与えない」「効率的なルートを計画する」といった配慮も大切だと感じました。限られた滞在時間の中で、ゲストはできるだけ多くの体験をしたいですからね。

張家界 ― フリーランスガイド・Lさん

 最後は、あまり印象が良くなかったガイドの話です。友人と張家界を旅行した際の出来事です。


張家界とは?
 中国・湖南省にある自然景勝地で、奇岩や柱状の山々が特徴的です。武陵源風景区として1992年に世界遺産に登録され、映画『アバター』の舞台のモデルにもなったことで、世界的な注目を集める観光地です。

 
 メインの景勝地を見た後、「索渓峪自然保護区」という区域を散策することになり、どう回るかを相談していたところ、ガイドの免許らしきものを首から下げた若い男性に声をかけられました。おそらくフリーで客引きをしていたのでしょう。

 当時あまり中国語が話せなかった私に代わり、友人のMちゃんが上手に交渉してくれ、彼にガイドをお願いすることになりました。しかし、連れていかれたのは「特に大したことはない」と感じる場所ばかりで、「自分たちだけでも行けたのでは?」と思うような内容。彼のガイドも不十分で、何がすごいのかがよく分からず、訪れる先々で「不発感」が漂いました

 ついに我慢の限界が来たMちゃんが、Lガイドと大声で口論を始めてしまいました。私は横でハラハラ……。結局「もういいです」となり、そこでガイドとはお別れ。なんとも後味の悪い旅となってしまいました(笑)。

 行く場所を丸投げした私たちにも落ち度があったのかもしれませんが、やはりゲストの要望や興味の方向性、求めている知識量をある程度把握し、それに見合ったガイドをしてくれることが大事です。最初に「本日はこういうルートでこういう場所に行きます」といったブリーフィングがあれば、もっと良い旅になったかもしれません。

まとめ

 中国を旅する中で出会ったガイドたちは、それぞれ異なるスタイルと印象を私に残しました。歴史と情熱をもって案内してくれた李くん、的確で柔軟な対応をしてくれた西安のHさん、そして残念ながら期待に応えてもらえなかったLさん。これらの体験を通じて、「良い通訳ガイド」とは、単に知識があるだけでなく、ゲストの興味やニーズを的確に汲み取り、安心して旅を楽しませてくれる存在であると感じました。

 言葉の壁を超えたコミュニケーション、地域への深い理解と愛情、そして柔軟な対応力——これらがそろってこそ、心に残る旅の案内ができるのだと思います。今後、自分がガイドとして誰かを案内する時には、この経験を活かして「また一緒に旅したい」と思ってもらえるような存在になりたいものです。

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