【中国大接近】『三体』:衝撃的かつ深く考えさせられるSF小説の傑作

中国大接近

中国語語学誌『聴く中国語』では毎月、中国の今を知る特集「中国大接近」を中国語と日本語で掲載しています。今回は2023年5月号の中国大接近の内容を日本語でご紹介します。

『三体』とは?

 『三体』は、中国人作家の劉慈欣が2006年~2010年にかけて執筆した長編SF小説だ。『三体』『三体Ⅱ:黒暗森林』『三体Ⅲ:死神永生』の3部構成で、合計80万字を超える。『三体』は、英語に翻訳された後、ヒューゴー賞長編小説部を受賞したこともあり、全世界のSFファンに急速に認知されていった。ここ数年は相次いでアニメ化、ドラマ化され、各大手SNSの人気検索ワードにも頻繁にランクインしている。先ごろCCTVなどでドラマ版『三体』が放送された際は、多くの視聴者、特に原著のファンから高評価を得た。今回は神秘的な『三体』の世界を一緒に掘り下げてみよう!

三体の原型となるケンタウルス座α星系。太陽系から約4.3光年しか離れておらず、最も近い恒星系である。ケンタウルス座α星系は三重連星であり、ケンタウルス座α星A、ケンタウルス座α星B、そして暗く小さな赤色矮星であるプロキシマ・ケンタウリから成る。

『三体』ストーリーの核 (ネタバレあり)

 中国の「ハードSF」代表作である『三体』は、天体力学で実際に存在する「三体問題」をベースに据えた作品だ。「三体問題」とは、質量・初期位置・初速度がいずれも任意である3つの天体が、互いに万有引力を作用し合う中で、どのように運動するかを問うた問題だ。その運動は非常に不規則で、予測が(数学的に)不可能。宇宙に太陽系に似た恒星系が存在すると仮定し、その太陽が三体だったとすると、3つの恒星の運動の軌跡は変化に富みすぎていて、予測がつかないため、たとえこの恒星系のある惑星に知能を持った生物が出現したとしても、その文明が安定して発展することは難しい。だがもしこの「三体文明」が何かの偶然で地球の地球文明と接触したとしたら、地球文明の発展にどのような影響を及ぼすだろうか?

 こうした仮定の下、『三体』のストーリーは、人類が宇宙人との接触を試み出した1960年代から70年代に頃に時間軸を移す。当時の中国は「文革」真っ只中。天体物理学博士の葉文洁は、父親が惨殺される場面を目撃してしまう。迫害と労働改造を経て、「紅岸」という軍事基地に連れてこられた葉文洁は、宇宙電波のモニタリングを命じられる。太陽をアンテナにして、地球文明の情報を宇宙に発信していく中で、彼女はついに異星文明を探る画期的な進展を手にする。そして8年後、葉文洁は4光年彼方の「三体文明」から返信を受け取る。人類というものに失望していた彼女は、危険を承知で三体人に地球への招待メッセージを送った。この行動が人類の運命を変えることになる。

「三体」ドラマ

 数十年後の2007年、世界各国で科学者が自殺するという奇妙な事件が相次ぎ、人類は「敵」の存在を意識するようになった。ナノ材料を研究する物理学者の汪淼は警察の要請を受け、捜査に関わるようになる。汪淼は「三体」という謎めいたネットゲームに行き当たり、ゲームを通じて、次第に三体文明の存在を確信していく。 そしてついに三体文明の存在を知った人類。だがその「地球三体組織」内部でも派閥闘争が起こっていた。「救援派」三体文明に美しい理想を抱いており、人類が三体文明の助けを借り、地球文明をより完全により輝かしいものにしていくことを望んでいる。一方、「降臨派」は、人類は邪悪な種で、人類は三体文明に滅亡させられればいいと考えている

 だが、人類がどんな期待を抱いていようと、宇宙とはやはり未知なる存在なのである。三体文明が栄える星は、3つの恒星が互いに万有引力を作用し合っており、文明の滅亡と再生を数え切れないほど繰り返しながらも、依然として極めて高度な科学技術力を誇っていた。彼らは地球からのメッセージを受け取ると、地球の基礎科学の発展を妨害し、科学者らを次々と絶望に追いやるため、地球に2粒の「智子(ソフォン、Sophon)」(ハイテクAI、あるいは三体人が操るミクロ粒子)を送った。彼らはまた、より良い生存環境を求めて、生まれ故郷の星を離れ、より生存に適した地球に向かい始めた。地球文明の終末は、すぐそこまで迫っているのかもしれない

(以上は『三体』3部作のうち第1部のあらすじ)

「三体」アニメーション

『三体』の魅力

 『三体』のストーリーの魅力は、まず何と言ってもその想像力の奇抜さと広大さにある。三体文明の摩訶不思議な光景や、人類の理解を越えた、次元を破壊する「低次元化攻撃」などを、簡単で分かりやすい例と豊富な細部描写で読者の目の前に生き生きと展開し、奇想天外なようでリアリティーを感じさせ、衝撃を与えつつはらはらさせてくれる。

 また、同作品は未来の科学技術を描写するだけでなく、終始一貫して人類社会や地球文明に対する深い関心を示している。読者は思わず考えざるを得ない。人類が知っている科学の法則は、単により高度な文明が偶然教えてくれたものなのだとしたら、それでも科学は今まで認識していたような科学なのか?より高度な文明とは、より高尚な道徳を意味するのか?宇宙も生き残りのみを追い求める世界なのか?そんな宇宙で、(善悪の別や道徳観を持つ)地球文明に生存の余地はあるのか?人類は本当に自分たちの力で自分自身の悪を封じ込めることはできないのか?などなど……。

「三体」小説日本語版

 そして、『三体』は地球文明の脆弱さとその終末の様子を描いてはいるものの、極めて広い視野と複雑かつ重厚な筆致で、文明の滅亡という困難極まる状況に直面し、己を犠牲にしても民衆を救うことを選んだ人類の英雄たちを描いている。そういう意味で、『三体』の世界において、人はまだ人の救世主たりうるのだ

 ともかく、『三体』の魅力はまだまだこれだけではない。さあ、一緒に「三体」へ行き、スケールが大きく躍動的で、哲学的思索に満ちたSF世界を感じてみよう。

今回の内容は『聴く中国語』2023年5月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2023年5月号をご覧ください。

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