影視で知ろう中国文化⑩常春の地で見つめ直す、人生と仕事の本質〜ドラマ『風の吹く場所へ~love yourself~』より〜 

ドラマ

 

 昨今、中国で話題のお仕事ドラマは、主人公が都会で仕事も恋愛も成就するサクセスストーリーが主流です。そんな中、日本の衛星放送「衛星劇場」で3月23日から始まった、『風の吹く場所へ~love yourself~』は、流行りのサクセスストーリーに疑問符を投げかけます。本作を手がけるのは、日本でも反響を呼んだ感動作『家族の名において』を世に送り出した制作スタッフ。多様な「家族像」を示した彼らが、本作では「本当の幸せ」は何かを示し、中国で大ヒットしました。   

 『風の吹く場所へ』の主人公、許紅豆(シュー・ホンドウ)は、北京の五つ星ホテルで働くキャリアウーマン。都会での安定した生活が人生の幸せと信じ、仕事漬けの日々を送る彼女は、親友の死をきっかけに職を捨て、亡き友と旅行する予定だった雲南へ向かいます。そこは、25以上の少数民族が暮らす常春の地。ドラマでは、村の道路を歩く馬や、小道で民族衣装を纏い工芸品を売る村人などの牧歌的風景が広がります。ホンドウは心安らぐこの村で、自分が本当にやりたい「仕事」や、満ち足りた「人生」とは何かを見つめ直していきます。  

 ホンドウが暮らすコンドミニアム“風の家”には、投資に失敗し瞑想にふける元起業家の男性や、スランプ気味の女性ネット小説家など人生に行き詰まった住人らがいます。新しい一歩を踏み出せないでいる彼らも、村での交流を通して自分が思い込んでいた「生きる意義」や「働く意義」が打ち砕かれていきます。 

仕事の「結果」が人生の全てだった元起業家は、「風の家」の大家からの仕事そのものが「生きる意味」なのだという言葉に、起業への活力が再び芽生えます。

 人生と仕事への不安は、 「風の家」の住人だけでなく村生まれの若者も抱えています。無形文化財の木彫り職人に弟子入りした二十歳の夏夏(シアシア)。村から出たことのない彼は、都会への憧れから伝統工芸の継承に意義を見出せず師匠と常に衝突していました。しまいには、ネット上の友達に持ちかけられた上海での怪しい投資話に傾倒していきます。物語中盤では、上海へ向かうも無一文となり村へ戻ったシアシアが、木彫りの仕事といかに向き合っていくかも見どころのひとつとなっています。  

 ドラマの放送後、ホンドウのように雲南を訪れる人が急増し、中国国内で空前の雲南観光ブームが巻き起こりました。ドラマで映し出された幻想的な風景や、雲南の村の人びとの生き方は、“風の家”の住人達だけでなく、ドラマ視聴者にも今の人生を見つめ直す機会を与えてくれたのかもしれません。 

<衛星劇場2025年03月>中国ドラマ 『風の吹く場所へ~love yourself~(原題:去有風的地方)』 日本初放送 60秒予告

西木南瓜(さいき かぼちゃ)

SNSクリエイター・コラムニスト。名古屋在住。アジアの映画をこよなく愛する影迷(映画ファン)。上海外国語大学修士課程修了後、中国語講師を経て映画公式SNSの運用代行や宣伝企画、広告プランニングなどで活動中。

今回紹介したコラムは『聴く中国語』2025年5月号に掲載しております。

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