インタビュー!映画・テレビ制作コーディネーター、中国語セリフ指導 湯亦晨さん

インタビュー

中国語語学誌『聴く中国語』は毎月、日本で活躍している中国の有名人や日中友好に貢献している日本人にインタビューをしています。

今回のインタビュー相手は映画・テレビ制作コーディーネーターの湯亦晨(タン・イーチェン)先生です。湯先生は多くの日本芸能人の中国語の先生として中国語セリフの指導を行い、日中の映画・テレビ制作に多大な貢献をしてきました。現在、湯先生は東京で中国語教育の仕事にも携わっているそうです。面白い話をいろいろと伺いました!

――湯先生こんにちは!1994年に日本に来られてから映画・テレビの制作に携わられたそうですが、中日翻訳のお仕事や木村拓哉さん、江口洋介さん、長澤まさみさん、妻夫木聡さんなど多くの芸能人の中国語教師もされ、経験が豊富でいらっしゃいますね。最初はどのようにしてこの業界に足を踏み入れられたのか、お話いただけますか?

 こんにちは!私は中国で大学に受からず、映画の経営管理の専門学校に入りました。卒業後、上海電影製片廠に会計として配属されました。私はずっと独学で英語を勉強しており、数年後には国際部の通訳が皆国を出て留学してしまいましたので、私は試験を経て国際部の英語通訳に異動になったのです。その間に多くの香港映画・テレビ業界人と友人になりました。その後日本の立教大学に留学しましたが、大学4年生のときに香港映画『東京攻略』が日本に撮影に来たんです。彼らから私に通訳とコーディネートの依頼があり、それ以来私は徐々に日本の映画・テレビ業界に知られるようになりました。そして日本の業界での通訳や制作協力、中国語教師などをするようになったのです。

木村拓哉さんと

――中国語の上達が早く、印象に残っている芸能人の学生をご紹介いただけますか?読者はきっと興味があると思います。

 私は本当に多くの日本の芸能人に中国語を教えてきました。皆さん非常にまじめで、プロフェッショナルな方々でした。

 印象が最も深く、進歩が最も早かったのは、長澤まさみさん、桜庭ななみさん、妻夫木聡さんでしょうか。長澤さんは『ショコラ』(2014)という台湾のラブコメドラマに出演するため所属事務所が私を見つけ出し、中国語のセリフを教えてほしいと頼まれました。彼女はゼロから学び始めましたが、後に中国語に深く興味を持つようになりました。撮影が終わると1ヶ月休暇をもらって、台湾に中国語を学びに行ったほどです。なにより驚かされたのは、1年後、私たちが別の仕事で北京で再会して一緒に食事したとき、ほぼ全面的に中国語で会話ができたことです。

長澤まさみさんと北京にて

 長澤まさみさんの成功を見て、桜庭ななみさんの事務所の方が私に連絡してきました。彼女にも中国語を学ばせ、長澤さんのように中国のドラマに出演させたいとのことでした。彼女もまたゼロから学び始めました。大体4年半ほど学んで、順調にHSK5級に合格しました。感心したのは、彼女が北京でジョン・ウー監督による『マンハント』(2017・香港中国合作)の記者会見に参加した際、通訳を使わずに直接中国語で記者の質問に答えていたことです。その後彼女は招待されて中国で人気のバラエティー番組『天天向上』の録画に参加し、撮影の間すべて通訳を使いませんでした。

 そして皆さんに大人気の妻夫木聡さんですが、『僕はチャイナタウンの名探偵3』(2021・中国映画)で中国語のセリフがたくさんありました。当時、彼は非常に真剣に中国語のセリフを学び、空き時間を見つけさえすれば私と中国語の日常会話を練習するといった具合でした。またわざわざ買ってきた教科書で私から学んでいました。撮影現場ではずっとスタッフたちとも中国語でコミュニケーションをとるようにしていましたから、多くのスタッフは彼の向学心に敬服していました。

中国で行われた記者会見では妻夫木聡さんの同時通訳としても活躍

――どの方も、私たちの読者の中国語学習の模範のような方々ですね!中国と日本双方の芸能人と接する中で、興味深いことや忘れられない出来事はありましたか?

 興味深く忘れ難いことは本当に多すぎるくらいです。一日でも語り尽くせないでしょう。一般的に、日本の役者さん、特に非常に有名が役者が中国で撮影するとき、私は通訳だけでなくスケジュールや移動ルートまで担当することになります。一度、人気グループ嵐の松本潤さんがフジテレビのドラマ『わが家の歴史』(2010)で上海に撮影に行くのに同行したことがあります。松本さんは中国で熱狂的なファンがたくさんいますから、安全を考慮して、撮影チームはまず先に付近のホテルまでの送迎車を貸し切り、空港に迎えに行き、出迎えたら指定した専用車だけが入れる空港のガソリンスタンドまで松本さんを送り、そこに撮影チームの車が待機していてガソリンスタンドでその車に乗り換える。ホテルに着いて私のプランを聞くと、松本さんは私たちがまるでスパイ映画を撮っているようだと言っていました。

 また、チャン・ツィイーが日本の巨匠鈴木清順監督のミュージカル『オペレッタ狸御殿』(2005)に主演として迎えられ、初めて日本映画の撮影に参加しました。映画の中で、彼女は日本語のセリフを言い、日本の歌を歌わなければなりませんでした。撮影初日、多くの日本映画関係者が見学に来ました。チャン・ツィイーはおそらく少し緊張していて、うまく出来たか心配していて、ホテルへ戻る途中私に、この仕事を受けって正解だったかと不安そうに聞きました。私は、初日ですから慣れなくて当然だと言いました。ホテルに戻ると私はオダギリジョーさんの役に扮して、セリフや歌の練習に付き合い、元気づけました。あるとき、制作チームが効果音をつける際に、チャン・ツィイーはスタッフに、映画の中の歌はトーマス(湯先生)が全部歌える、間に合わなければ彼に歌わせようと冗談で言いました。チャン・ツィイーは最終的に見事に役をこなし、このことも私には非常に忘れ難い出来事です。

鈴木清順監督とチャン・ツィイーの間に入って仕事したことも

――非常に綿密で周到なお仕事の様子がうかがえますね。多くの映画やドラマ作品の制作に参加され、多くの芸能人の言語指導をされ、また非常に重要な通訳も担われて、抜きん出た専門性をお持ちだと思います。しかしこのようなお仕事は華々しく見える反面、苦しいことも少なからずあるのではないかと思います。大変だったこと、またそれをどのようにして乗り越えたか、お話いただけますか?

 そうですね。私の同級生も含め多くの人が、一日中美男美女と過ごせていい仕事だねと言いますが、実はそんなことはなく表面の華々しさの裏には多くの代償を支払っていますし、勉強もたくさんしなければなりません。たとえば、2010年の初め、中国の著名な監督チェン・カイコーが『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』の撮影準備に入り、日本に来て『遣唐使船再現プロジェクト』のニュース発表会を開き、私は2時間の発表会のために2週間近く準備し、日中両国語の当時の歴史について書かれた文章を調べ、監督の以前の作品も理解し、また原作者の夢枕獏さんも発表会に参加されることになっていたので、彼の作品も見ておく必要がありました。

 さらに一度は、『ルパン三世』(2014)が台湾の俳優ジェリー・イエンに出演を求めたときには、タイで撮影しているときにトラブルが発生しました。そのような状況で私は自分が中国人だから必ず中国人の味方だということも全くなく、かといって日本側に雇われているから日本側につくということもありませんでした。私はただ両方の文化を理解する人間として出来る限り双方が受け入れられるやり方で調整して問題を解決し、無事に撮影の仕事を終えました。それ以来ジェリー・イエンとはいい友人になり、日本の監督やプロデューサーも私を見るたびに感謝を伝えてくれました。そのときは私も努力してよかったと思ったものです。

――最近何か新たな仕事の計画はありますか。

 コロナ禍のため現在中国と日本で映画・テレビ業界の撮影交流は非常に少なくなっています。現在私は日本で教師として教える以外にも両国の芸能活動の橋渡しもしています。より多くの中国の芸能人を日本の人たちに知ってほしいし、日本の芸能人にも中国に行って活躍してほしいと願っています。

『唐人街探偵 東京MISSION』では鈴木保奈美さんに中国語を教えたことも

――語学雑誌として私たちには非常に興味があるのですが、短時間にどのようにして学生たちの発音矯正をされたのでしょうか。何か中国語の発音を教える特別なコツはあるのでしょうか。

 実際多くの日本人が中国語の発音を難しいと感じていますが、私はここには少し誤解があるのではと思っているのです。反り舌音が日本語の中にないことを除けば、四声と母音・子音は日本人には比較的気軽に発音することができます。それに、中国語の韻律も把握しなければならないわけですが、中国語の単語の発音は基本的に四つの声調を二つずつ組み合わせて16の基本的な韻律を構成しています。もしこの16の韻律を音楽の音階のように覚えたら、発音はもっと正確で自然になるでしょう。

――教えていただきありがとうございます!ご自身の語学教室も経営されていらっしゃり、私たちの雑誌を教材として使っていただいたこともあるとうかがいました。どのように使用されていたかご紹介いただけますか。

 経営と言えるほどではなく、ただ中国語を学びたいという学生を何人か受け入れているに過ぎません。中には中国語のレベルがかなり高い人もおり、彼らの学習の目的はすでに教材にある言語知識を得ることではなく、昨今の中国の現状と最新の中国語表現方法を知りたいと思っているのです。ですから貴刊は最適な教材です。私はひとりひとりの状況に合わせて、ある学生には中国語を読ませてから日本語に翻訳させ、ある学生には日本語を中国語に翻訳させ、ある学生には文章を読んでから感想を述べさせます。ここで皆さんの熱心なお仕事にも感謝申し上げたいと思います。そして中日文化交流への多大なる貢献にも。

高校での授業風景

――ご多忙の中インタビューを受けてくださった湯先生にも感謝申し上げます。湯先生から中国語を学びたいと思う読者にはぜひ先生の中国語教室をチェックしてほしいと思います。最後に、読者の皆さんに一言いただけますか?

 『聴く中国語』の大勢の読者の皆さん、こんにちは!ひとつの外国語を勉強するということは、自分で世界とつながる窓を開くようなものです。その言語をマスターされたら、人生観や生活が変わり、人生にもっと多くの楽しみがもたらされるでしょう。また中国には「細水長流」という成語があります。毎日15分から30分の学習を続けることはやがて質の高い飛躍となるに違いありません。そして言語学習だけでなく言語文化の背景と人文知識を学習し理解することも非常に重要です。

プロフィール:湯 亦晨(タン・イーチェン 通称トーマス)。映画・テレビ制作コーディネーター、中国語セリフ指導者。中国上海映画撮影所経理・英語通訳を経て、1994年に来日。2000年、立教大学文学部英米文学科を卒業。日中両国間で、映画・テレビ制作コーディネーター、中国語台詞指導、通訳・翻訳の仕事に20年間従事。

今回のインタビュー内容は月刊中国語学習誌『聴く中国語』2022年11月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2022年11月号をご覧ください。

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