インタビュー!教育家・経営者 魏大比さん

インタビュー

中国語語学誌『聴く中国語』は毎月、日本で活躍している中国の有名人や日中友好に貢献している日本人にインタビューをしています。

今回のインタビュー相手は、「名校志向塾」の代表、華人教育家の魏大比先生にお話を伺いました!魏先生の「学習」と「受験」に関する独自のお考えについて、伺ってみましょう。

――魏先生、こんにちは!インタビューできて光栄です。読者の皆さんと簡単にご出身やご経歴についてお話いただけますか?

魏大比(ウェイ・ダビ)と申します。私は1998年に留学生として日本に来ました。1999年4月に東京工業大学に入学し、2003年に卒業した後、東京大学の修士課程と博士課程に進みました。2008年3月に博士課程を修了してからは、再び東京工業大学に戻り3年間働き、それから本格的に「名校志向塾」の経営を始めました。

――東京工業大学と東京大学で何を学んだのかお聞きしてもよろしいですか?

東京工業大学に入学した当初は、理論物理学科で宇宙の有機体論に関する理論物理学について研究していました。その後、東京大学の修士課程で学んでいる際に専攻を数学科に変えました。数学科に専攻を変えたものの、実際には依然として理論物理学の基礎応用を研究していました。東京大学の数学科では、相対性理論の量子理論の解釈問題を研究していました。そして、博士課程ではコンピュータについて研究し、特に人工知能に関連する研究に専念しました。2008年に博士課程を修了した後も、東京工業大学で3年間このテーマについて研究を行いました。ですので、2005年から6年間人工知能の研究をしたということになりますね。

2003年東京工業大学理学部を首席で卒業した
2008年東京大学コンピューター科学博士号を取得。5年間全科目でS評価を得る

――実際に東京工業大学と東京大学を卒業された魏先生が、「名校志向塾」を設立されましたが、先生ご自身はどのようにこれらの名門大学に入学されたのでしょうか?またどのように多くの学生が名門大学に進学するのをサポートしているのでしょうか?

私が日本に来たのは1999年で、その当時は現在ほど包括的な私塾指導はありませんでした。多くの事を独学で学び、試験に向けて準備をするしかなかったのです。中国と日本では、入学試験の範囲が異なります。例えば、日本の理系では数学や物理学に関する深層的な知識が試験で問われますが、これらは中国国内では触れる機会がありません。ですので、私は日本に来てからは全く新たに学び直す必要がありました。そのため、一人で学び進めるのはかなり大変でした。私はもし教師の指導があればその負担を軽減し、効率的に学ぶことができると思い、このような思いから「名校志向塾」を設立して私塾の指導を行うことにしたのです。

名校志向塾のフロア

――理系の観点からみて、中国の大学と日本の大学では、日本の大学受験のほうが少し難しいですか?

それについては一概に言えません。試験の形式や重点が異なります。例えば、私は中国では学習科目によって成績に大きな差がありました。理系は得意ですが、文系は非常に苦手だったのです。国語は、自分がどんなに学んでもうまくいかなかったものです。しかし日本では、もし理系なら数学、物理学、化学の比重が大きくなりますが、例え成績に偏りがあっても、ある分野で非常に才能がある場合、日本のトップクラスの大学に入学することができるのです。これは中国とは少し異なります。中国では総合的な発達を重視するので、偏りがあってはいけません。

――先生は名門大学への憧れがありますか?「名校志向塾」に「名校」という言葉を入れたのはなぜでしょうか?

それについては、私が子供の頃に受けた教育に関係とあります。両親は私たちが幼い頃からしっかり勉強して良い大学に入ることを望んでいました。これは私の父の世代の名門大学への憧れであり、その憧れが私たちの世代に受け継がれたのです。

名門校の合格実績

――では、学歴社会についてどのような考えをお持ちですか?

学歴は個人的には非常に重要な要素だと思います。これ個人に対する社会的な承認とも言えるでしょう。ただし、ここで強調したいのは、学歴が人生の全てではないということです。重要な要素ではありますが、人生にはさまざまな多様性があり、自分が得意とすることを見つけることが重要です。

――先生が指導にあたる際に、「大学分析」を指導内容の一部として取り入れますか?

もちろんです。私たちはこの業界で20年以上の経験がありますので、日本の大学についての知識は一定程度持っています。指導にあたる際には、学生のニーズに応じて、各大学の強みや弱点を分析します。例えば、東京大学は総合的なランキングが非常に高く、理系も非常に強いですが、コンピュータに焦点を当てると、東京工業大学よりも優れているわけではありません。実際のところ、現在東京工業大学の研究室の数は東京大学よりも多いです。したがって、個々の専攻に焦点を当てる場合、すべて東京大学が優れているとは限らず、学生がどの専攻に進みたいか考慮する必要があります。学生の相談に乗る際には、まず彼らが何を学びたいのかを尋ね、それに基づいてどの大学が最適かをアドバイスします。人それぞれの状況は異なりますからね。

東京大学
東京工業大学

――中国の教育と日本の教育にはどのような共通点と相違点があると思われますか?中国が日本から学ぶべきと考える点や、日本が中国から学ぶべきと考える点は何ですか?

実際、中国と日本の両方が学歴教育を重視していると言えます。ただし、日本ではより多角的な視点が考慮されています。例えば、日本では多くの大学が「AO入試」と呼ばれる特殊な入学試験を実施しています。歌唱の才能などの専門分野がある場合、それが早稲田大学や慶應義塾大学への入学の要素となることがあるのです。これは日本の特徴の一つです。

また、中国の教育では個人の能力を育成し、将来的な強さや社会への貢献度に重点が置かれます。一方、日本ではチームワークが重視されます。つまり、すべての人が個々に優れた能力を持つ必要はありませんが、協力度やコミュニケーション能力が重要視されます。

さて、どちらがどちらから学ぶべきかについては、実際に皆さんが将来どのような仕事をするかによります。一部の職業では、専門性が求められます。たとえば医師のような専門性をみる職業の場合、個々の能力がどれだけあるかが見られますが、ほとんどの仕事では、チームワークが重要視されます。システム開発などの場合でも、協調性が重要視される傾向があります。これは、日本と中国の教育方針の違いです。

――中国の学生と日本の学生の間で、性格や学習方法などにどのような違いがあると思われますか?

中国の学生と日本の学生との間には、社会性の面で異なる点があるかもしれません。日本では社会基盤の整備が比較的進んでいるため、日本人は社会に出る際には、はっきり言って飢えることはありません。しっかりと日本の企業に就職すれば、一生働くことができます。一方、中国の人々は生き残るための努力をしなければなりません。この意気込みの面では、明らかに違いがあるでしょう。

しかし、日本は特定の能力の育成に注力しており、仕事に対して「専門性」を持って取り組む傾向があります。日本には「匠の精神」という言葉があります。これは彼らが何かを作る際に、細部まで非常に良く作るということを意味します。一方、中国では速度が重視されます。つまり、これだけ作らないといけないという量に対して、素早く完成させて量産することが求められます。日本と中国の重きを置く点は異なるのです。

――先生の名門校教育塾の創設から既に20年が経ちましたが、この20年の間に中国の留学生にはどのような変化が起きたと思われますか?

1998年当時、日本に留学する多くの人々は学ぶためではなく、日本でお金を稼ぐために来ていました。中国と日本の収入格差が大きいため、日本に来たら勉強するよりもアルバイトをするほうが、経済的な利益が大きかったのです。しかし、時が経つにつれて、中国も徐々に豊かになりました。私が起業してから10年後くらいでしょうか、中国の多くの子供たちが日本に来て、アルバイトをするためではなくより高いレベルの知識を得るため、日本の優れた大学に進学するために来ていることに気づきました。この変化は中国の経済と密接に関連しています。

最近では、少しずつ変化が生じています。日本の優れた大学に進学するためだけではなく、多くの人は自分の興味に基づいて日本に来るようになりました。たとえば、日本のアニメが好きだという人は、日本に来た後も優れた大学を受験せず、アニメの専門学校など専門的な学校を受験するのです。現在はより個性化されたニーズが存在し、これは当時との最大の違いでしょう。

――この名門私塾の現在の規模について、生徒の数や教師の数などを紹介していただけますか?

私たちの名門私塾は、私塾に加えて語学学校と専門学校も運営しています。語学学校は4校、専門学校は3校あります。コロナ禍前の総学生数は約6000人ほどでしたが、現在はおおよそ3000~4000人程度です。新型コロナの影響を受けていますが、徐々に回復している状況です。教師は600人以上います。

私たちの私塾と日本の私塾の最大の違いは、私たちの対象受講者が中国人であるということです。そのため、授業は華語で行われています。私たちは関連する研究も行っており、母語教育と直接法(日本語を使用した教育)のどちらがより良いかについても検討してきました。特定の専門コースでは、理解度の面でも母語教育の方が遥かに優れていることがわかりました。

――将来、私塾教育をどのように発展させていく予定ですか?

基盤をつくるという意味では、まず優秀な教師の確保に努めること、そして学生に対する学習以外のオンライン上でのサービスを増やすことが重要です。例えば、いい大学への進学を目指す場合、計画に沿って、いつ何をすべきか、どのような知識を学ぶべきか、いつまでに出願しなければならないかなどを学生に伝え、保護者ともコミュニケーションを取ります。

さらに、教育における補助的なツールについても研究しており、例えば今話題のChatGPTなどの人工知能を活用して、自社のシステムをさらに充実させられたらと思っています。

――先生は日本在住の華人実業家として、長年にわたり中国語教育や中国文化の普及に多大な貢献をされてきました。今年初めには、日本華僑華人総会連合会から先生の日本華文教育に対する傑出した貢献を認められ、表彰されたそうですね。

この受賞に関しては、私自身も非常に驚いています。私は教育に取り組んでおり、教育に対する貢献をしたいと思っていました。そのため、私は当時100万円を寄付しました。それは、私たち華人の第二世代が日本においてより良い環境で中国語を学ぶことができることを願ってのものでした。

時折私もこのような問題を考えます。まず、広範囲について言えば、教育自体が国や社会の進歩を促進する上で非常に重要な要素であるということです。そして文化に関して、時に少し残念に思うのは、多くの華人の子供たちは日本に来てから日本語しか話さず、あるいは中国語に対して抵抗感を持つ場合もあります。私自身の家族の子供たちにもその傾向があるかもしれません。ですので、私は華人文化において、何かできることがあればやりたいと考えています。日本において華人の子供たちがより中国語の授業を受けやすくなることを願っています。

ご両親と

――先生は、自分の子供や在日華人の第二世代の子供が、日本語と中国語の両方を上手に学ぶためにはどのようにすればよいと思いますか?

私は語学について、それは多くの人が想像しているような単なるむやみな暗記ではなく、実はそこには多くの論理的な関係が含まれていると考えています。例えば、英語の学習において、単語には語根があり、その意味には関連性があり、多くの要素が結びついています。文法や単語にも実はしっかりと論理性があるのです。この論理性の他にも、時間の積み重ね、「覚える」ということもやはり必要です。論理性の面では理解が必要ですが、「覚える」段階では時間の積み重ねが必要だと私は考えています。

家族と一緒に
自ら教壇に立つ姿

――私たちの雑誌には、多くの中国語を学ぶ日本の読者がいます。読者の皆さんに何かアドバイスをいただけますでしょうか?

語学学習については、先ほども述べたように言語体系の理解と時間の積み重ねが重要です。そして、もう1つ重要なことは私たちの学習に関する意識です。私は学習を日常的な活動、あるいは習慣として捉えています。私の生活において、学習は既に生活の一部となっています。今もずっと学んでいます。科学普及雑誌のようなものを毎日読みますし、新しい知識を日々学んでいます。ですから、学習は私にとって生活の一部なのです。これらのことは、人類が昔から今日まで行ってきたことであり、実際に現在の人工知能も絶えず学習しています。ですので、学習方法というよりも、学習を生活習慣の一つにすることが、大いに役立つでしょう。

教育家・魏大比/1981年生まれ、工学博士(東京大学)。学生創業し、2004年から株式会社名校教育グループ代表取締役社長、学校法人白萩学園理事長。東京工業大学研究員歴任。1998年来日、東京工業大学大学理学部物理学科(2003年学士)、東京大学大学院数理科学研究科応用数理専攻(2005年修士)、東京大学大学院情報科学研究科システム情報専攻(2008年博士号)。2014年まで学会論文47本執筆。2022年9月立命館大学大学院政策科学研究科(博士課程後期課程)に入学し、現在、教育分野における企業経営と同時に政策分野の研究活動を行っている

今回のインタビュー内容は月刊中国語学習誌『聴く中国語』2023年10月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2023年10月号をご覧ください。

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