日本語教師から見た中国語⑨いったいいつなの??中国語の時制

コラム

『聴く中国語』2023年4月号より、日本語教師・金子広幸さんのコラム「日本語教師から見た中国語」を連載しています。

今回はのテーマはいったいいつなの??中国語の時制です。

 中国語を学んでいらっしゃると、日本語と中国語の時制システムが異なっていることにお気づきのはずです。形容詞でもその時制システムの違いがはっきりわかることは以前も書きました。今号はもう少しこの問題を考えていきたいと思います。

 アメリカで医師になった台湾人の友人BJの家に居候させてもらっていた時のことです。私は先に帰って、晩御飯の支度をしてBJを待つことになっていました。ある日の夕方、BJからLINEのメッセージが来たのです。「回家了」。 もともと口数の少ないBJからは、 あまり丁寧な事情説明などはないのですが、大学病院で忙しいので、突然帰ってくることもあったのです。「回家了」そう言われて、日本人の私は、BJが今どこにいるのか想像できませんでした。「大学病院は車で40分。きっと病院の医局から連絡してくれたんだろう、後1時間は余裕がある…」と、のんびり冷蔵庫を覗いて、どうしようかと思いあぐねていたら、なんとBJが玄関を開けて帰ってきたのです。驚きました!
 

 「回家了」の「回家」は「家に帰る」ですよね?で、この文脈で「」は「完了」の意味はなくて、「文脈の強調の表現」だと、非母語話者の金子はごねごねと考えてみました。中国語を話す皆さんにもいろいろ聞いてみたんですが、実際にこのやりとりがあっても、その人がどこにいるか想像できる人はいないようでした!『どうしても「うちについたことを強調したい」なら「快到家了」を使うかな』と、 教えてくれた人もいましたが、『実際にはここまで丁寧に言ってる人はいないね』とも付け加えてくれました。

 びっくりしている金子をよそ目に、BJはちゃんと晩御飯の支度を手伝ってくれましたが。

 まだあります。クラスには、「明日国に帰りました!家族に会えました!」と言ってしまう学生がいます。正しくは「明日国に帰ったら家族に会えます」なのですが、「現在・過去・未来」の時制ではなく、その「状態の変化」に注目点を置く中国語では、「明日国に帰る」という動作が、たとえ未来でも、「完了した時点で家族に会える状態になる」ので、「明天回国,就能见到家人」となるのですね。この時制を誤解して「…帰りました、…会えました」となってしまったんです。


 仮定の表現で繋ぐと、過去に近くなるのは、実は日本語も、そして英語も同じです。明日「帰った」らですからね。中国語はどこ吹く風、全く違う概念ですが。

 私は、「昨天看电影,明天也看」と、どこにも過去の表現が出てこない中国語を見ながら、文法を意識して学び始めた時、「果たしてこれで用事が足りるのかな?」と思ってしまうほど、中国語には「動作の過去」を示す部分が出てきません。

 でもね…日本語を話す皆さん。ご存じですか? これもよく英語が上手な中国語話者から指摘されますが、日本語には未来の時制は明確には存在しないのですよ。 「毎日うちに帰ります」に対して、過去の「昨日もうちに帰りました」はあるのに、未来は何と!「明日も同じようにうちに・・・帰ります」で、現在形と未来形の区別がないのです!この文章をお読みになってびっくりされている日本の読者の方のお顔が想像できます。ふふふ


 さて、私たち日本語教師がどうしているかなんですが、

 実は中国語のような時制システムを持っている言語は多く、タイ語・ベトナム語などもそうです。
 初級の学生さんの場合は、文末の時制を表す部分に間違いがあったら、逐一直すことにしています。最初はうるさがられますが、そのうちにだんだん身に付いてきます。中級・上級とレベルが上がって、文脈上時制の表現が間違っていても、教師が指摘すると、自分で直せるようになっていきます。初級の時に、この気をつける習慣ができていることが大切です。
 そして、これは全世界の学生に対しても言っていますが、動詞の時制による変化を教えるときには、「過去PAST」と「非過去NON-PAST」として紹介して、「非過去」には「現在と、反復(繰り返して行われる)と、未来の意味がある」と紹介しているんです。

 

金子広幸:1987年から日本語教師。台北に続いて東京の日本語学校、東京大学ほか大学勤務ののち、現在法政大学・日本大学で日本語クラスを担当。地域日本語支援の場で講演活動中。東京大学、神奈川県国際交流財団で留学生・外国人相談業務。NHK『Easy Japanese for Work しごとのにほんご』「敬語道場」出演中。2022年から中国語によるラジオ放送『NHK ラジオジャパン「やさしい日本語プラス」敬語の達人』など担当。著作:『新・にほんご敬語トレーニング』(2014)『日本語クラスアクティビティ50』(2005)。ほか東京日本語ボランティアネットワークのニュースレター(http://www.tnvn.jp/)で連載中。 

本コラムは、月刊中国語学習誌『聴く中国語』2023年12月号に掲載されています。さらにチェックしてみたい方は、ぜひ『聴く中国語』2023年12月号をご覧ください。

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